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防音室のこと(2)遮音について


1.遮音についての考え方

防音を考える際、遮音と吸音を分けて考える必要があります。
遮音については、基本的には、デシベル(dB)ベースで定量化して考えます。

dB数の肌感覚ない方は「デシベル 目安」とかで検索するといろいろ出てきます。

スタジオ内で生じた音が、壁や窓を通過するたびに一定程度(-10dBとか-20dBとか)低減されて、その差分のdB数の音が外側に聞こえます。
音量がどれぐらい低減されるかは、建具であれば商品ごとに遮音性能が定義されています(一般的な目安もあります)し、壁であれば材質やその厚みで決まります。
概算程度であれば、素人でも遮音効果を計算することができます。

音の問題は近隣トラブルの内容としてもっともポピュラーなものではあるのですが、意外と実は、外に漏れる音を0dBにする必要がないケースというのも結構あります。

  • 道路に面した側は、多少音漏れしても問題なかったり、

  • 周辺が夜でも騒がしいエリアなら、多少音漏れしても問題なかったり、

  • 隣が住宅の場合でも、隣の家までの距離(空気層)/隣の家の外壁で音が低減されて問題なかったり、

  • そもそも20~30dB程度の音は聞こえたところで人(隣人)によってはそんなに問題にならなかったり。

要するに、
スタジオから出る音量 - 遮音効果 < 周囲が許容できる音量
という状態を実現できれば良いわけです。

2.検討の手順

① 仕様を決める

最初に、必要となる防音の程度・仕様を明らかにします。
うちの場合、諸々勘案して「スタジオで100dB(カラオケ)程度の音を出す/外に出る音を50dBに抑える」という条件を設定しました。
つまり「-50dBの遮音性能」ということです。

② 壁の遮音性について検討する

次に、室内から外までの「壁の構造」と、それぞれの「遮音性能」を整理します。
通常、壁は外壁+内壁(断熱材→空気層→内装壁材)で出来ています。
それぞれの遮音性能は、一般的な戸建てで、ざっと外壁で-50dB、内壁で-30dBぐらいでしょうか。
合計-80dBぐらいの性能です。

③ ドアや窓の遮音性について検討する

通常、壁よりも問題になるのはドアや窓です。壁よりも遮音性能が低いからです。
たとえば、スタジオ内で100dBの音を出した場合、壁の遮音性能が-80dBあっても、窓サッシの遮音性能が-25dBであれば、外には75dBの音が漏れることになります。

④ ②と③を行き来しながら最適な落としどころを探る

結局のところ、遮音で大事なのはバランスです。
どこか一部分だけ遮音性能が高くても、他の遮音性能が低い部分から外に音が漏れるので、あまり意味がありません。
むしろ遮音性能の低い部分を特定して、そこを強化するのがポイントです。
たとえば上記の例で-50dBの遮音性能を得ようと思えば、追加で窓の防音対策をして、あと-25dBを稼ぐ必要があります。

あるいは木造住宅や集合住宅で、むしろ壁自体の遮音性能をもっと高めないといけない場合もあると思います。
これは結構厄介で、内壁の内側にもう一層、内壁を増設することになります。
この場合、費用に加えてスペースも問題になります。
内壁の厚さ20cmとして、たとえば六畳間(約360cm×270cm=9.72㎡)で四方すべてに内壁を追加した場合、部屋はほぼ四畳半(320×230cm=7.36㎡)ぐらいの広さになってしまいます。
日本の住宅事情(元々狭い)を考えるとかなりツライ…

3.実現の難易度や費用は物件次第

詳細は後述しますが、うちの場合、まがりなりにもバンド練習できる程度の遮音対策にかかった費用が、約20万円でした。
音楽やっている人はもちろん、それ以外にも家で大音量でカラオケしたり、レコードかけたり、5.1chで映画みたり、、、これぐらいの金額で防音室が手に入るなら欲しい!っていう人は、結構いるのではないでしょうか。

ただ、どんな物件でもこの金額で必要な遮音性能が確保できるわけではありません。
安価で必要十分な遮音性能を確保するための肝は、対策以前の「物件選び」にあります。

  • 戸建てであること

  • 築古の場合、RC造であること(最近の戸建てはそもそも遮音性が高いですが、古い建物でもRC造であればコンクリート壁の遮音性がとにかく高いので有利です)

  • 周辺環境(隣の家との距離や窓の有無など)

うちの場合、防音室の優先度がそれなりに高かったので、物件選びの段階から上記条件を意識していました。
うちの防音仕様は、上述のとおり「外に出る音を50dB以内に抑える」という条件で考えたわけですが、これは言い換えると「50dBの音は外に出ても構わない」状況だということです。
結果、遮音性の低い部分(窓、ドア)だけピンポイントに対策すれば事足りたので、安価で済みました。

音を遮断する、というのは基本的にかなり無理のある行為です。
それを「今自分がいる環境」の中で強引に実現しようとすると、かなりの無理をしないといけなくなることが多いです。
それよりは、引っ越しや物件購入(新築でも中古でも)のタイミングで、「無理な防音仕様を追求しなくて済む物件」を選んだり、そういう状況を作ってしまうのが効果的かつ効率的です。

4.最後に

今回紹介した遮音の考え方/計算方法はあくまでも机上のものです。
実際には誤差があるし、音の感じ方についても単純にdB数だけで決まるものでもありません。(dB数が小さくても不快な音もあれば、同じdB数でも気にならない音もある)

うちの場合も、建築士さん含めて「実際のところはできあがってみないとわからないよなー」という感じでした。(建築士さんは、仕事なので、施主に対してもちろんそういう言い方はしませんが)
大事なのは、結果どう転ぶかわからないという心構えを持って、①ある程度バッファを見ておく、②竣工後なにか問題があった場合に講じる追加策も事前に想定しておく、ということだと思います。心の余裕、大事。

(つづく)


以下に具体的な実例としてうちの詳細を紹介しますので参考にされたい方はどうぞ。
(プライベートな内容なので有料設定にしていますがご了承ください。知人友人各位には全然無償で情報開示しますので直接連絡ください)
・周辺環境の詳細
・実際の図面
・壁や天井の詳細仕様(構成、使用材、厚みなど)
・選定した設備機器の詳細(防音ボード、防音扉、防音窓)
・かかった費用の内訳 など
 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

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