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天皇

「令和」の次の元号は「天皇」に決定した。新しい天皇は「天皇天皇」。閣議にてこの発案がされた際、国会ではめちゃくちゃにウケた。爆笑が7分続いたためその間協議が完全に停止し、なんとか仕切り直すも誰かが「天皇天皇」と発言する度に再び停止するという様相を呈した。議員たちの間でもこれは国民にも絶対ウケるだろうと目され、実際、国民にもめちゃくちゃにウケた。日本各地で「天皇天皇はズルいw」「ハンターハンターかよw」「エンドリケリエンドリケリかよw」と、国会内とまったく同じ温度感が共有され、もはや日常のどのようなシチュエーションにおいても「天皇天皇」でウケないことなどあり得ない状況となっていた。例えば、ふとした沈黙に誰かがボソッと「天皇天皇」と呟くだけで周囲が手で口を押さえて肩を震わせ、さらにそれが常態化すると、もはや単なる沈黙でもそれ自体がフリに感じてしまい耐え切れずに誰かが吹き出しそれが伝播するという深夜3時の学生の飲み会みたいな空気が日本を席巻した。天皇も天皇で、「ご自身が国民におもちゃにされていることを知っていますか?」という記者の質問に「知っ天皇天皇」と答えるなど完全にふざけており、すでにこの国において知性などというものは全時代の価値観・概念として葬られたという事実が厳然と示されたのだった。世界はまもなく闇に包まれる。命という命が、その意思とは無関係に役目を終わらされる。その時が近づいていることを人々は知っていた。未来は存在しない。この未曾有の事態に、それでもなお人々は懸命に未来の価値を生みだそうとしたのだった。知性とは記憶、つまり過去という存在に準拠する。要するに、知性を否定することによって過去を無意味なものとし、相対的に未来の価値を上げようとしたのだ。それはまじで意味がわからないしキモすぎる思想だった。もう、ちょっとキモすぎて自分達でウケている感じもあった。闇はすでに他国を覆い尽くしている。人々は過去を破壊しながら、なおもウケ続けた。

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