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日米CSAの課題から見えた、これからの自律分散型フードシステム

※これは、2020年1月15日に開催された第166回霞ヶ関ばたけで筆者がお話した資料をテキストにてまとめたものです。

CSAとは

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▼農家側のメリット
- 安定した販路
- 前払いにより投資がしやすくなる
- 作付けの計画が立てやすくなる

▼消費者側のメリット
- 摂取する野菜の多様さ・量の増加→健康な食習慣
- オーガニックスーパーより安い有機農産物
- コミュニティ帰属意識の醸成/精神的充実
- 子供の食育/イベントへの参加機会

CSAの事例 〜アメリカ・ケンタッキー大学のCSA〜

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- 4〜5 haのUSDAオーガニック認証取得農場
- 夏季はフルタイム/パートタイム6人+実習生8〜10名ほどで運営
- 会員:225名(学生や職員など大学関係者のみ)
- 5月〜10月の22週間
- $650(職員)/$584(学生)
- 週に1度、農場かキャンパス内で受け取り
- 毎週ブログ・ニュースレターを配信
- 2007年から継続している

日本にあるCSA

こちらのnoteの内容をご紹介しました。

最近出版されたCSA関連書籍

2017年10月『消費者も育つ農場〜CSAなないろ畑の取り組みから〜』

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2019年5月『農業大国アメリカで広がる「小さな農業」 進化する産直スタイル「CSA」』

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2019年7月『分かち合う農業CSA 日欧米の取り組みから』

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CSAの課題|消費者サイド

生活スタイルを変える必要性、ハードルの高さ
- ピックアップに行く手間
- バラエティ豊かで大量の野菜を料理するスキルと時間
会員の属性や地理的な偏り
- 都市近郊部住人
- 高収入/教育レベル高/ホワイトカラー/リベラル派
- 74%女性が登録
- 63%子供ありの家族

CSAの課題|生産者サイド

満足度・継続率の低さ
- 新規参入が一定数継続的にある一方で、CSAの総数は頭打ち
- 多くの農家は開始後1、2年のうちにCSAをやめている
労働コストに対する収益性の低さ
- 規模拡大できない/したがらない
- 関係性と価格設定のジレンマ
- 経営者意識の低さ
作業量の多さ
- CSAならではの生産以外の作業が発生
- マーケティング、集金、収穫物の数量管理、(梱包、)分配、コミュニティ形成、消費者教育、イベント運営など
- 会員への義務感・責任感が強いほど、農家側が自己搾取をする傾向
「道徳経済における諸刃の剣」

CSAの課題を乗り越えるために|消費者サイド

生活スタイルを変える必要性、ハードルの高さ
→ 職場CSAの実施により、ピックアップの手間を省く
→ レシピをつけることで「vegetable anxiety(野菜不安症)」を解消
→ 中身をある程度カスタマイズ可能にする(Swap Boxなど)

会員の属性や地理的な偏り
→ スライディングスケールの導入
 …New Roots (Fresh Stop Market) の事例
→ オンラインでのコミュニティづくり
 …東北開墾のCSA の事例

CSAの課題を乗り越えるために|生産者サイド

労働コストに対する収益性の低さ
→ ある程度の規模拡大をして作業効率化を図る
→ 複数生産者のコミュニティでCSAを運営する 
 …BIO CREATORS の事例

作業量の多さ
→ 作業を外部化する
 → 職場CSAによってマーケティングコストを下げる
 → 消費者側のエンゲージメントを高める
 …なないろ畑の事例
 → CSAマネージャーを雇う
→ 作業を省力化する
 → ボックス型(個別包装)ではなく、マーケットスタイル型の分配にする
 …飯野農園の事例

自律分散型のフードシステムに向けて

誰がCSAを支えるのか?

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ヒント:生産者と消費者の直接的関係性を支える仕組み

- ポケットマルシェ:オンラインでの関係性構築
- クックパッドマート :都市圏内でのミルクラン物流
- 域内流通を目指すオンラインプラットフォーム:
 - Harvie(米)
 - Farmdrop(英)
 - The Food Assembly(仏など)
 - OPEN FOOD NETWORK(豪など)
- さらに…
 - ブロックチェーン:情報の透明化・こだわりの正当な価値評価

提案:CSAの可能性を、開いていこう

「CSAそのもの」よりも「CSAというコンセプト」を広めたい
- 形式にとらわれず、時代変化や環境に合わせ、最適な方法で生産者・消費者間の関係性を作っていくこと
- 各々が持つ知識やノウハウをシェアしていくこと
が大事なのではないか?

Q&A

Q. 端境期で収穫がない間の時期は会員・生産者ともにどうしているのか?

A. アメリカのCSA会員は通常その間の野菜はオーガニックスーパーで購入。生産者は秋・冬シーズンは別で短い期間のCSAを別に組んでいる場合も多い。ケンタッキー大学CSAでは、冬はハウス栽培の野菜を収穫できるようにし、CSA期間の延長を図っていた。

コメント:CSAのコンセプトの無理さ、運営上の無理さは身を以て感じており、でも大事にしたいものはきちんと大事にしていこうという方向性に共感できた。
CSAは「こうしなきゃいけない」ものが多い印象だったので、可能性を開いていくというのはいいなと思った。

Q. レストランでCSAのピックアップができたり、自分では料理ができなくても、そのお店で料理してもらえるといった事例はすでにあるか?

A. つくば飯野農園さんやBIO CREATORSさんはカフェでのピックアップを実施している。CSAシェアの野菜を料理してもらえる、というところまで実際に実施できている事例は私はまだ知らないが、もしやっているところがあれば教えていただきたい。

Q. 大手小売や仲卸といった中間業社がCSA的な生産者と消費者をつなぐ取り組みをしていくパターンはあるか?

A. あるだろう。例えば東急ストアでは、「手紙のついた野菜と果物」という企画を通して、生産者と消費者のコミュニケーションを促進して商品の高付加価値化に取り組んでいる。また、アメリカでは大手小売のウォルマートが、IBM社のブロックチェーン技術を食品トレーサビリティに応用したりといった流れもある。SDGsの機運もありサステナビリティ担保の意味でも、生産現場を可視化する動きは高まっていくだろう。

コメント:CSAは思想としては素晴らしいが、ファミリービジネスの域を超えられない気がした。だからこそ、「1:1:n」の大企業の福利厚生予算を活用するなどの職場CSAが求められるのではあいか。

Q. 「CSAはオーガニックスーパーで買うよりも安価」という記載があった。これはなぜか?

A. 中間業社が入っていないこと(直接取引)によるコスト、梱包コスト、輸送コストといったコスト面の削減と、関係性によって低く設定してしまう道徳経済的特性、そして厳密なコスト計算や相場との価格調整をしない生産者の値付けの甘さなどに起因するのではないか。

コメント:実際CSAのようなことをできる生産者とできない生産者がいる。人と人をつないでノウハウをシェアしたり、外から関わる人が増えることが大事なのではないか。
ものそのものよりも、今後は「その人が好き」という理由で生産物を購入する傾向が強まるのではないか。

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今回朝早くからお越しいただいたみなさん、ありがとうございました!

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