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好きなひとは、もう近くにいると言うけれど


なんで気づかなかったんだろう。
なんて言葉を呟いたって、気づいたのが今だったのだから仕方がない。


「友だち多いんだから、あなたが選り好みしてるんだよ」とか、
「社会人になったらモテるよきっと!」とか、
「遊びの相手というよりは、結婚相手って感じだね」とか

他人はわたしのことを散々好き勝手に言う。

「他人の好意に鈍すぎるんじゃない?」とも言われたことがある。

きのこのやつとか、動物っぽいやつとか、よく分かんない占いにだって「もう近くにいるはず」って、
恋に効くとかパワースポットとかいう神社で引いたおみくじにだって「その人以外にいない」って言われて

「その人って誰だよ。どこにもいねえわ。」

と、わたしもわたしのことを散々に言っていた。
(そのわりにちゃっかりパワースポットなんかに行っているのだ。)


とかく、もっと前に気づきたかった。
その人、について個人名で教えてほしかった。
こちらは気づけなくてここまで来ているのだから。


昔から、なんとなくは知っていたが、
別に特段気に留める相手でもなく、
爽やかで嫌味のない好青年という感じで、
それ以上でもそれ以下でもなかったはずなのに。


信頼できるひとの「いや、あいつすごいんだよ!」というエピソードを聞いて、いろいろと思い返してみたらとんでもなかった。

優しかった。
温かかった。
明るくて、物知りで、やっぱり嫌味はなくって、
ちょっとエッチで、とってもシャイで
でも、ちょっとばかしゾッとするところもあって、
なんというか、それもまた良かった。


そういえば、同郷で同じ高校の先輩だった。
そういえば、同じ野球チームが好きだった。
そういえば、先輩のバイトと、わたしの新卒で入った会社は、同じ仕事だった。
そういえば、先輩が昔エピソードに出してくれた町に、わたしは住んだことがあった。
そういえば、そういえば…、

こうやって共通点を探している頃には、沼にどっぷりと、ハマっているわけである。


やっと気づいたわたしが憎い。
これまで気づけなかったわたしが悪い。

もっと早く気づいていたなら、もっと長く一緒にいられただろうに。
もっと早く気づいていたなら、もっとたくさん会えただろうに。
もっと早く気づいていたなら、歳を重ねるその様さえ、もっと愛おしがれただろうに。

ああでも、もっと早く気づいていたなら、
わたしはあまりに注ぎすぎてしまうかもしれなかった。

わたしに残された選択肢はたったひとつで、
このぐずりとした、懺悔にも似た感情をひっくるめて、
好きでいようと思うしか無いわけである。








===== B面 =====


なんで気づかなかったんだろう。
なんて言葉を呟いたって、気づいたのが今だったのだから仕方がない。

スピッツが好きだということに。
スピッツが、もう、わたしのニーズの、ど真ん中であるということに、
なぜ、今まで気づけなかったのだろうか。

「友だち多いんだから、あなたが選り好みしてるんだよ」とか、
「社会人になったらモテるよきっと!」とか、
「遊びの相手というよりは、結婚相手って感じだね」とか

他人はわたしのことをいくらでも散々に言う。

「他人の好意に鈍すぎるんじゃない?」とも言われたことがある。

これは恋愛において、実際に友人に言われてきたことだが、26歳、いまだに結婚はもちろん、遊び遊ばれ、さえ無い。選り好みをしたつもりもない。
かくいう、趣味嗜好に関しても特に好き嫌いがそんなになく、音楽に対しても、カラオケに行けば周りの空気を読みつつランキングから選ぶ、くらいの人間であった。

ライブというやつに行ったことはほとんど無いし、クラブも一度先輩に連れて行ってもらったが、大きい音とやんちゃな空気感がちょっと苦手で、静かな部屋の大きなソファにもたれて、ライブペイントをずっと眺めていた。素敵な絵だった。

きのこか、動物っぽいやつか、よく分かんない占いにだって「もう近くにいるはず」とか、
恋に効くとかパワースポットとかいう神社で引いたおみくじにだって「その人以外にいない」とか言われて

「その人って誰だよ。どこにもいねえわ。」

と、わたしもわたしのことを散々に言っていた。
(そのわりにちゃっかりパワースポットなんかに行っているのだ。)

とかく、もっと前に気づきたかった。
その人、について個人名で教えてほしかった。
こちらは気づけなくてここまで来ているのだから。

おみくじに「恋愛 あきらめなさい」と書かれたこともある。
元旦から誰かも分からない何かに、あきらめろと言われるような人間なのだわたしは。

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その翌年には「待人 来るが、同伴者あり」と書かれていた。年の初めくらい、いい想像をさせてほしい。

選り好みなどということをした記憶はない。
パワースポットの効果も、もちろんいまだ得られていない。
(こんな散文を書き続けているあたり、そうだろう。)

昔から、なんとなくは知っていたが、
別に特段気に留める相手でもなく、
爽やかで嫌味のない好青年という感じで、
それ以上でもそれ以下でもなかったはずなのに。

昔から、スピッツの音楽はポータブルプレーヤーにベスト盤が1作と、ほかのアルバムが2作くらい入っていた。

爽やかで、いつでも聴ける、素敵な音楽。それくらいだった。

顔も人数も分からない。たしか、見た目がファンキーなひとがいる。
音楽番組には、最近の番組にも、昔を振り返るものにもよく出てくるが、年齢はいくつくらいなんだろうか。
よく番組で流れているチェリーのミュージックビデオの服装には年代を感じる。

(ほら、きっと見たことがあるでしょう。)
(よく見ると 着ているTシャツ スヌーピー)
(急に五七五を放り込む)

それくらいの、バンドだった。

信頼できるひとの「いや、あいつすごいんだよ!」というエピソードを聞いて、いろいろと思い返してみたらとんでもなかった。

関ジャムという音楽番組が好きで、よく見ている。

昔、ヤマハ音楽教室に14年間も通い、ピアノを習っていた。絶対音感はあるし、吹奏楽部もバンドにも所属していた。
にもかかわらず、音楽を「聴く」楽しみがイマイチ分からぬまま大人になった。

音楽を好きなひとが、好きなように、楽しそうに、音楽や楽器について語ってくれるこの番組は、わたしのいくばくかの好奇心をくすぐり、音楽を聴く楽しさを少しずつ覚えさせ、好きだと思っていた音楽の「ここが好き」を言葉にしてくれた。

録画していたある日の特集が「スピッツ」だった。
indigo la End・ゲスの極み乙女の川谷さんと坂道グループの音楽を作っているという作曲家の杉山さんが、スピッツについて語っていたのだが、その内容がとっても衝撃だった。

「ロビンソンは、後追い自殺の歌」

優しかった。
温かかった。
明るくて、物知りで、やっぱり嫌味はなくって、
ちょっとエッチで、とってもシャイで
でも、ちょっとばかしゾッとするところもあって、
なんというか、それもまた良かった。

そんなわけがあるかと思って、ロビンソンの歌詞を読み込んでみたら、
たしかに「後追い自殺」という解釈で、辻褄が合ってしまった。

気になってほかの曲も歌詞カードに目を通しながら
じっくり聴いていたら、
柔らかく温かい声に隠れた、いろんな物語が出てきた。
それらの解釈が正しいかは分からないけれども。

福岡は天神のあたりを歩きながら、イヤホンである曲を聴いていたとき、
「あれ…。これってもしやまぐわっているのでは…?」と思い、
一度それに気づくと、なんせ筋道が通ってしまったので恥ずかしくなって、
耳まで熱くなってきたもんだから、急いでイヤホンを外したこともある。


スピッツにハマるととんでもなかった。

優しく切ないアルペジオを生み出していたのは、見た目がファンキーなお兄さんだった。
ベースのお兄さんは、一番普通に見えていたけれど、ライブになると、人間ひとり分くらいの高さを飛び跳ねながらベースを弾き、ときどき大型犬のように走り回っていた。
ライブで温かいハモリと、千手観音のような神々しいプレイを見せてくれるドラムのお兄さんは、とうもろこしが好きな元ヤンらしかった。
(抑えても抑えても、情報量が多いな)

すごく好きだ。
深みにハマってしまう歌詞も、とんでもなくかっこいいメロディも。
無理に励ましてこないところも、旅に連れていってくれるところも、最高だ。
日々発見が増えてしまう。

スピッツのメンバーが好きだという音楽を漁っていたら、「バンド」とか「ロック」とか、そういうものの面白さもちょっと分かるようになってしまった気がする。

初めてスピッツの音楽をちゃんと聴いたのは、中学くらいのときにTSUTAYAでレンタルしたのが初めてだったように思う。それからずっと「それなりに聴く」のカテゴリーで何も知らなかったわけだし、社会人としての生活もだいぶこなれてきた最近、今ごろ沼に入ってしまったのだ。

信頼と実績のスピッツ。
ファンや音楽関係者からだけではない。メンバー同士の信頼が厚すぎて、こちらが照れてしまうくらいだ。互いを尊重し合っていることが分かる会話の端々に、世界を平和にしようと決意を固めた。
実績は言わずもがなである。気づけばデビュー30周年をとうに迎えており、御歳52歳らしい。嘘だろ。水星で暮らしてんのか?水星なら地球の4倍で歳取るってマンガあさりちゃんで読んだぞ。

そういえば、同郷で同じ高校の先輩だった。
そういえば、同じ野球チームが好きだった。
そういえば、先輩のバイトと、わたしの新卒で入った会社は、やっていることが似ていた。
そういえば、先輩が昔エピソードに出してくれた町に、わたしは住んだことがあった。
そういえば、そういえば…、

こうやって共通点を探している頃には、沼にどっぷりと、ハマっているわけである。

ギターボーカルの草野マサムネさんは、同じ高校の先輩である。
わたしが高校にいた頃には、もちろんすでに大スターだった。

高校に入学してすぐ、1年生だけの合唱コンクールがあった。
楽曲は1つだけ。自由に選択してよいはずだったのに、10クラスのうち3クラスがスピッツの曲を選んでいて「バランスわりーな!!!!もっとあるだろ!!」と悪態をついたわたしに「スピッツの草野さん、この高校の卒業生なんだよ」とクラスメートが教えてくれた。

本当に反省している。

草野さんがどこか昔のインタビューで「覚えている高校の校則は、靴が白指定で前髪は眉上」とおっしゃっていた。それはその後、平成生まれのわたしの代でもそのままであった。そこそこ都会である福岡市の高校生、前髪は眉上、スニーカーと靴下は白指定。悲しい共通エピソードだ。

ここに至るまでに、いな、この沼に浸かるまでに、同じ高校ということは気に留めたことはなかったが、人生で唯一、人生で最大の、棚からぼたもちハッピーターンである。

やっと気づいたわたしが憎い。
これまで気づけなかったわたしが悪い。

もっと早く気づいていたなら、もっと長く一緒にいられただろうに。
もっと早く気づいていたなら、もっとたくさん会えただろうに。
もっと早く気づいていたなら、歳を重ねるその様さえ、もっと愛おしがれただろうに。

コロナで、一生懸命とったチケットの公演が延期になってしまった。

昨年末の福岡公演に行って、生演奏の破壊力がそりゃあすごくて、楽しくって、楽しくって、また聴きたいと思ってとったチケットだった。

ずっと活躍しているバンド、ずっとプレーヤーに入っていたバンド。わたしがこのバンドを好きだということにもっと早く気づいていたなら、もっとたくさんライブに行けただろうにと思う。

あんな楽しそうに演奏している人たちの、最高にかっこいい音楽を、
目の前でもっと聴けただろうにと思う。
(そして、30年以上、ライブに立ち続けているにも関わらず、なんともゆるいライブMCを聴いて、たくさん笑えただろうに。)

ああでも、もっと早く気づいていたなら、
わたしはあまりに注ぎすぎてしまうかもしれなかった。

わたしに残された選択肢はたったひとつで、
このぐずりとした、懺悔にも似た感情をひっくるめて、
好きでいようと思うしか無いわけである。

でも、もっと早く気づいていたなら、
すでにうん百万円くらいは優に投じている気もしている。

ある時期、プロ野球が好きすぎて、春季キャンプという練習だけひたすらしているのを見に、宮崎まで行ったことがある。オタクモードに入れば、フットワークなんてもんじゃない。羽が生えてくるのだ。

野球なら年一回のキャンプ遠征と、近くの球場でたまに見るくらいの、いい趣味くらいだったが、スピッツなら遠征についてまわったり、出るもの全て、一般発売よりもちょっといい限定生産のものを予約して、などと、つぎ込んでいたかもしれない。

それでも、納得していた気はする。
むしろ、今からそういうちょっといいやつを、どうにか手に入れようとさえしている。信頼と実績のスピッツ、どんなCDもDVDもプレミアで定価よりもぐんと高くなっている。
もっと早く好きになっていれば。

いずれにせよ、そんなこと悩んだってもうどうしようもないのだ。

スピッツは素晴らしい音楽を供給してくれるし、
わたしは新譜を聴くこと、また生演奏を聴くこと、
彼らが幸せそうに音楽をする様を見ることを、生きていく楽しみにしてしまうし、今日もまた好きだと思いながら、音楽を聴いている。


「他人の好意に鈍すぎるんじゃない?」
― 違う。きっと自分の好意に鈍すぎただけだ。












== オタクの叫びと追記(2020/05/15) ==

2020/05/15 スピッツ公式YouTubeチャンネルにて、
『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』
が公開されました。

っっっっっっっっっっっああああ!!
(見てほしいけど、スピッツの魅力をこれ以上知られちゃ困る)
(誰だよ)

遅咲きのオタクとしては、劇場限定公開とされ、DVD化もなく
一生見られない映像だと思っていたので
スピッツ、スタッフのみなさんに深く感謝するとともに、

銭を投げさせてくれ!!!!!!!!!
ありがとうの気持ちを!!!銭として投げさせてくれ!!!!

という気持ちである。


いち、一般ピープルの銭なんざ、スピッツからすれば、
お昼ごはんのドリンク代になるかならないかくらいかもしれない。
(いやドリンクになって血となり肉となることを考えると)
(すごい興奮する気がしてきた)(は????)

コロナの影響で、たくさんのアーティストが
無料で作品を公開してくれており、現に救われている。
その作品を生む過程において、
時間、もの、ひと、お金、愛や苦しみが投じられているはずで、
それらにリスペクトと感謝を表す手段として、なにかお返しをしたい。

(ともすれば、医療従事者やインフラ関係の方々にも
感謝の気持ちを、形でお返ししたいところでもありますね。)



食事、睡眠、運動、スピッツ

愛と、勇気と、スピッツ


終わり。

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