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展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」

はじめに

2023年3月12日(日)まで、東京都渋谷区のシビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]にて、展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」が開催中です。

小規模ながら、表現、ケア、テクノロジーのこれからを考える上で重要だと思われる視点を得られる展示になっていると思いますので、ぜひお立ち寄りください。

2023年3月12日をもって本展覧会の会期は終了いたしました。展示内容と関連資料は次の記事でご覧いただけます。

会場内の展示

以下、会場内での展示について、それぞれごく簡潔にではありますが私の視点から紹介します。

表現に寄りそう存在としてのAI

徳井直生さん(株式会社Qosmo代表/慶應義塾大学准教授)が監修したこちらは、画像生成AIを用いた連続ワークショップを通じてみつけた、単なる道具でも、人の代替でもない、「表現に寄りそう存在」としてのAIという見方を紹介するものです。会場内では、画像生成AIで生成した画像をモチーフとして制作中の作品(一部)や、ワークショップの記録などを展示しています。

2022年は、DALL·E、Midjourney、Stable Diffusionなど、テキストから画像を生成するAIが次々と登場して大きな話題となり、学習時にデータとして使用された作品を制作した人々の権利などをめぐって大きな混乱が起きています。このプロジェクトでの発見は、障害のあるアーティストとその制作をサポートするスタッフという関係性が、AIが参加することにより「三角関係」へと変化するということでした。

これは、著書『創るためのAI』など、人間の創造性とAIの関係について探求し続けてきた徳井さんに監修していただいたからこそ見えてきたものであり、今後ますますAIの参加が増えると予想される私たちの社会を考える上で非常に重要な視点だと考えています。今後のAIを考える上でのヒントを探している方は、きっと何かヒントを得られるのではないでしょうか。

CAST:かげのダンスとVR

緒方壽人さん(デザインエンジニア/Takramディレクター)が監修したこちらは、同じ物理空間にパフォーマーが集まり、VR空間で演じるパフォーマンスの試みです。ジャワ舞踊家の佐久間新さんがこれまでにたんぽぽの家と協働してきた取り組みの中で、光と影、陰の中の影を感じるダンスのリハーサルを緒方さんが見学した際に得た着想を基に制作されています。会場内では、記録映像をご覧いただけるほか、HMDを装着して実際に体験していただけます。

2021年秋にFacebookが社名をMetaに変更しメタバースに注力すると宣言して以降、VRに対する注目は大きく高まりました。既に様々な試みがなされていますが、その多くは個別の物理空間からVR空間に参加するというものです。これに対して緒方さんが制作したのは、同じ物理空間から複数の人々がVR空間に参加するという、世界的に見てもまだまだ例が少ないものです。合計2回、1回あたり3時間という短い時間の中で、VR空間の特性を把握したパフォーマーたちがVR空間と物理空間を自在に往還しながら演じる様子からは、VRを超えたXRの新たな可能性を見出すことができました。

これは、デザイン・イノベーション・ファームTakramで豊富な経験を持ち、同時にイヴァン・イリイチが説いた「コンヴィヴィアリティ」を足がかりに現代に求められるテクノロジーのあり方を探求している緒方さんが監修されたからこそ見えてきたものだと思います。今後のXRを考える上でのヒントを探している方には、きっと共鳴するところがあるでしょう。

実感する日常の言葉-触覚講談

渡邊淳司さん(NTT コミュニケーション科学基礎研究所 上席特別研究員)が監修したこちらは、福祉の現場において日常的に制作される日記、詩、ふと書かれる文章を題材に、講談師の神田山緑さんが講談として演じたものを、視覚と聴覚に触覚をくわえて体験するという試みです。

会場内では、講談の記録動画をみながら、神田さんが随所で叩く張り扇の振動を身体で感じることができます。一流の講談師による講談の記録動画を触覚とともに鑑賞するという体験は、それだけでも十分に面白いものです。しかしながら、この段階では映画館で4DX版の映画を観るのと同様に、あくまで外部から観察するという関係性に留まります。これに対して、張り扇を手にして叩いてみることにより、外部からの観察者ではなく、神田さんが演じる日記の世界の中に入り、まさに現在の出来事として面白さをより深く味わうことができるようになるのです。

これは、触覚とウェルビーイングについて研究し続けている渡邊さんが監修されたからこそ実現されたものです。触覚やウェルビーイングといったキーワードに興味のある方や、インタラクティビティ全般に興味のある方が体験すると、極めて重要な示唆を得られるでしょう。

あいさつ

会場入口に掲示されているパネル「あいさつ」には、主催者による事業および展覧会の位置付けに関する説明と共に、全体監修担当者として書いたテキストが掲載されています。

新しいテクノロジーが登場すると、往々にして人々は混乱します。たとえば、画像や文章を生成する人工知能をめぐる混乱は現在進行形です。人間の仕事を奪い尊厳を傷つけディストピアをもたらすものだととらえる人もいれば、人間が能力や寿命の限界を超越したユートピアをもたらすものだととらえる人もいます。いずれにせよ、人工知能のようなテクノロジーを、不可避で抗えない決定論的なものだととらえてしまうと、思考停止に陥ります。

私は、テクノロジーは中立の単なる道具ではなく、日々の生活から生死に至るまで世界に対する私たち人間の見方を大きく左右するものだと考えています。この立場から見ると、たんぽぽの家のような現場はとても魅力的です。日々の生活をよりよく生きていけるよう、日常に表現活動が織り込まれているのにくわえて、製品を創造的に流用するなど様々なテクノロジーに対する自在な解釈に満ち溢れているからです。

本展覧会では、普段から表現活動、ケア、テクノロジーに取り組んでいる人々がチームとなり、楽しみながら、そして時には困惑しながら一緒に考えてきた過程と中間的な成果を展示しています。本展覧会をきっかけに、みなさんもこの取り組みに参加していただけるのをお待ちしております。

展覧会「Art for Well-being 表現とケアとテクノロジーのこれから」会場掲示パネル「あいさつ」より

これは、昨年この事業に関してお声がけをいただいてから、ここまでの期間に考えてきたことが凝縮されたものです。もし、この中でどこか気になるところがあった方は、ぜひ会場を訪れて展示をご覧ください。

シンポジウム

展覧会初日となった3月4日(土)にはシンポジウムも開催されました。このシンポジウムには主催者から小林大祐さん、森下静香さん、後安美紀さん、各プロジェクトの監修を担当した徳井さん、緒方さん、渡邊さん、全体監修を担当した私の計7名が登壇しました。Art for Well-beingという事業に取り組むことになった経緯と各プロジェクトの紹介を踏まえ、取り組んだ上で見えてきた可能性と課題について議論しました。記録動画を公開中ですので、既に展示をご覧いただいた方も、未だこれからの方もぜひご覧ください。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。小規模な展覧会ながら、表現、ケア、テクノロジーのみならず、社会のこれからを考える上で重要なヒントを見つけられる機会になるのではないかと思います。会期は2023年3月12日(日)19時までとなりますので、ぜひ足をお運びください。


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