猫村さんと咲子さん
はじめてLINEスタンプというものを買った。猫村さんのもので、とにもかくにも使ってみたい。
猫村さんが嬉しくてしみじみ見ていたら、咲子さんを思い出した。たしか咲子さんも、鉛筆線に水彩を滲ませていた。
咲子さんとは小学5年か6年で同じクラス、図書委員で一緒だった。
いちばんの楽しみは壁に貼る図書新聞を作ること。咲子さんが『源氏物語』の漫画を連載していたからだ。
大きな真っ白な紙にレイアウトを決め、咲子さんは迷うことなく描いてゆく。今日は「夕顔」。飽きずにみんなで眺めていた。
咲子さんと一緒にいるのは新聞を作っている時だけで、たまに描いている途中にめがねを取ると、大きな目でびっくりした。
光源氏の人たらしぶりも咲子さんの漫画から教えてもらった。ちょうどその頃、アイドルの光GENJIも流行っていたが、結びついていたのかいないのか。
大人びていた咲子さんはいつもひとりで本を読んでいた。猫村さんを見ると、どんな本が好きなのか聞いておけばよかったなと思う。もう少し仲良くなれたかもしれなかった。私のその先の恋愛事情もかわっていたかもしれなかった。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?