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そ〜れもき〜みの「タイミング」♪



2023年3月某日
ど平日真っ只中の午前三時頃


規則正しい生活を営むサラリーマンのわたしは勿論がっつり就寝していたところ、突然枕元のiPhoneが振動と共に光を放ち、アラーム用で最大音量に設定していた爆音のメロディを奏で出した。



あぁ…うるせぇ……!!!!ま、眩しい…!!




爆音を止めたい一心でなんとか手探りで電話を受けた。




「久しぶり(笑)」



男の声だった。



貴重な睡眠時間を妨害された事も相まって
この(笑)がなんとも、イラッとした。



そして、どこか呂律に酒の気配を感じさせるところにもイラっとした。





はぁ…誰だよ……


声だけではピンと来なかったので、
耳からアイホンを離して、煌々と照らされた画面に表示された名前を見てギョっとした。




電話の主は、約4ヶ月前のわたしのnote(上記参照)に書き殴った、片思いしていたが「彼女がいる事を黙っていた」あの男だった。







約1年ぶりに声を聴いた。



あいつって、こんな声だったっけ。




とか思っているうちに、第二声。




「元気?(笑)」



あー、なんなんだろう…

この(笑)が絶妙にうざい…うざすぎるな…




声の奥の雑音を聴くに、まだ外で発泡酒かなんかでも飲んでいるようだ。
こいつの体内時計は一体どうなってんだ。



「…元気ではあるんですが、明日仕事ですし、おまけに夜中の三時なので眠たいです。何の御用ですか?」





どんな時間に電話かけとんねんとの嫌味を込めながらも、一応用件を聞いておいた。





「いや〜実はさぁ、俺、彼女と1年くらい同棲してたんよ〜(笑)」



わたしのこの取ってつけたような敬語で喋るという鬼の塩対応かつ、更なる嘘をつかれていたという事実をサラッと暴露された挙句、
この男はまだ懲りもせずに「(笑)」を使ってやがるが、ここでアンガーマネジメントが出来るのがわたしだ。



一呼吸置いて、



「…あー、ソウナンダ。ほんで、なんの御用でしょうか?」


と、再度要件を聞く。


「あーそれがさ、明日、彼女が家から出てゆくんよ。(笑)俺もめちゃくちゃ傷ついてるんよ。(笑)(ちょっと長かったので、要約すると恐らくこう言っていたと思う)」


「ヘー、アー、ソウナンダ〜〜〜」



あーこりゃもう、ヘタに相手したらキリが無い。
適当に相槌を打ってそろそろ電話を切ろうとしたところで、



「ほんでさぁ…」


と、その男は前置きを置いてから、衝撃の一言を繰り出してきた。






「モモちゃん、まだ俺のこと好き?(笑)」




「…………はい?(笑)」



ここに来てついうっかりわたしも「(笑)」が炸裂してしまった。



この世には、「俺のことを一度でも好きだと言った女はいつまでも俺のことを好きだ」と思い込んでしまう脳内ファンタジー男が一定数存在するという噂はかねがね聞いていたが、
まさかわたし自身、齢30にもなってその幻の男にお目に掛かれるとは思ってもみなかった。



そして何度も繰り返すけれど、わたしはとにかく眠たかったので、ここで間髪入れずに



「…えっと、ごめんけど、わたし、彼氏が居ますし、もうKくんの事は好きじゃないです。」




「寝ます」と付け加えて静かに電話を切った。



かつて俺のことが好きだった女が電話越しで強がり、涙ながらに丁重にお断りしていると見せかけておいて、
まさかその女がどっしりとマットレスに身体を沈めた状態でぬくぬくの布団に包まり目を瞑りながら話していたとはきっと想像だにしていなかっただろうな。しかもハンズフリーで。

至極地味ではあるが、これはわたしなりの彼への制裁だ。




そもそも、今日まで彼女と1年間住んでた男が、私のことなんて1ミリも好きじゃないのも分かっているし、彼女がお家から居なくなるのが寂しくなっちゃって、概ね「呼んだら来てくれそうな都合のいい女枠」の女でその穴を埋めたいだけだろう。


やれやれ、一年越しに私をとことん傷つかせようとするなんて、つくづく最低なやつだ。

ごめんて言ったことは少々後悔したが、きっと彼も明日はあの時のわたしと同じく泣いてしまうだろうから、大目にみてやろう。



それにしても自分でもビックリだ。


一年前、あの男に彼女がいる事が分かって、目の前から消え去り、この世の終わりだとかなんとかメソメソ泣きじゃくって、引きずりちぎっていた人間(わたし)が、
その一年後、電話口で声を聴いてもピクリともしなかった。

あの時いちばん聴きたかったはずの声が。


わたしも彼にフラれてすぐは、少々言い方は悪いが、彼と同じようにぽっかり空いた「穴」を埋める為に、その辺のマッチングアプリを使ったりわたしに好意を持ってくれた人と付き合ってみたりしたが、「やっぱりKくんの事が忘れられねぇ!もう絶対誰とも付き合えない!無理!」と思って直ぐにお別れした。(本当に申し訳ない、勝手な人間だ)



上述した通り、本当にもう二度と恋愛とか出来ないだろうと思っていた矢先、なんと別れたその日の夜に友人が「お前に紹介したい人がおるねん!」と連れてきた男性と知り合い、その後ビックリするくらいとんとん拍子で付き合う事になった。


これが、タイミングとかいうアレか。

瀬戸内寂聴で一躍有名になった「日にち薬」(実はこれ方言で、京都の言葉らしい)という、人間の素晴らしい特殊能力である忘却の効果ももちろん多少はあっただろうが、
映画や音楽みたいなフィクションの世界で絶対だとか運命だとかのだったらいいな的言葉はそのあたりにゴロゴロ溢れているけれど、
実際のところは、この世の中に訪れるイベントやハプニングはぜんぶ、偶然タイミングが重なってるだけなんじゃないかなぁと思う。




余談ではあるが、「そ〜れもき〜みの、タイミング〜!!」と、ビビアン・スー率いるブラックビスケッツが歌って踊り狂う姿をテレビで観ていた子どもの頃、ブラビの言うそのタイミングという言葉の意味が全く分からなかった記憶が鮮明にある。

そして大人になってから出会ったタイミングという言葉は、桂雀太さんの落語を初めて聴いた時。
その時に仰られていた、「良いことも悪いことも人生は全てグッドタイミングで進んでいる」という話が、私にとってはブラビ以降、強烈に響いた。(酒場に居た隣のオッチャンが言ってて感銘を受けたそうだ)
そしてわたしが落語を聴きに行ったのも間違いなくグッドタイミングだったと思う。


だから、きっと夜中のあの電話も、少々イラっとはしたし、話題としてはバッドな事件であったかもしれないけれど、
意識せずとも彼のことをすっかり忘れている事に気付けたという、グッドタイミングな出来事だったんじゃないかな。




さっきまでワインの口だったけど、やっぱり焼酎が飲みたくなったので近所の大衆居酒屋にいこうかな。
そんな取るに足らないわたしの気分だって、きっとグッドタイミングで進んでいるに違いない。




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