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国立大学女子寮は魔界である。

私は都内の某国立大学の女子寮に住んでいた。大学が運営する学生寮で門限や硬いルールはない。個室6畳、家賃4000円。食費や生活費と合わせても月8万円のバイト代で生活できるという超お得物件であった。しかしそこでは金銭の負担軽減と自由な生活を引き換えに、カルチャーショックを何度も経験するような浮世離れした問題がいくつも発生し、最終的に卒業まで住み続ける人は入寮したうちの5分の1程度となる。最後まで住んだ人たちは「生き残り」として尊敬されるレベルであった。

そんな激ヤバ物件、国立大学女子寮の実態と住んだ日々のエピソードを卒業した今、ここに残しておきたい。

【寮の概要】

寮は大学から自転車で10分ほどの場所に位置する。6畳程度の個室が与えられ、キッチン、風呂、洗濯場、トイレが共同スペースとなっている。1階にはピアノが置かれた談話室や畳の敷かれた和室、寮母室がある。この学生寮には平日の日中のみ一応寮母さんがいるのだが、申し訳程度であり基本的に起きた問題は自分で解決するという自治寮とほとんど変わらないシステムとなっていた。寮母さんとほとんど会話をしたことがない寮生もいて注意喚起もほとんどないため気楽ではある。

綺麗なので常に使用中で入れない談話室

・部屋からの眺めが良い

本当に4000円で住んで良いんだろうか??と思うほど部屋からの眺めは良い。私の部屋からは毎日カーテンを開ければ夕日が沈むのを見ることが出来る。角度によっては富士山が綺麗に見えたりもする。エレベータがないので4階5階は階段を登るのが大変だが、それを引き換えにしても高層階の部屋で良かったと思っている。

部屋からの眺め

・近くにお店がたくさんある

寮から徒歩5分程度の場所にスーパーもドラッグストアもコンビニもあるため、生活には困らなかった。15分自転車を走らせればホームセンターや100均もあり、とても便利だった。他にも畑が点々としており野菜の直売所で安く新鮮な野菜が買えたり、スーパー銭湯があるのでゆっくり湯に浸かりたい日に友人と行くこともあった。カラオケ屋や居酒屋もあり、大学生が暮らすには申し分ない快適な場所であったように思う。

近くにある野菜の直売所

・同年代の女の子が住んでいる安心感

この点は学生寮を選ぶ最大のメリットであった。何か起きても誰かがいる。困ったことがあれば友達や隣の人に相談することができた。インフルエンザにかかったときに同じ階に住む友人が食べ物買ってきてドアノブにかけてくれたこともあった。世代や性別の違いによる住民トラブルもない。そう言った意味での安心感は学生寮ならではのものだったと思う。

・家具も家電も誰かがくれる

引越しの際に購入したのはカーペットだけだった。カーテンや机、ベッドは備え付けだし冷蔵庫も洋服ラックも電子レンジも全て卒業する先輩からもらうことができる。大学卒業まで何かしらの家具や家電を買うことはなかった。金銭的には非常にありがたいことだった。

・鍵を忘れても誰かが空けてくれる

寮には全員必須で入らなければならないグループLINEが存在する。主に学生代表の寮長から何かしらの連絡などがされるのだが、そのLINEには毎日鍵を忘れた人がドアを開けてくださいという内容のLINEを送る。気づいた1階に住む人が鍵を開けてくれるという黙認のシステムがあった。このシステムのおかげで私も夜中バイトから帰ってきて鍵を忘れた時に何度も命拾いしている。

関係ないけどキッチンからの眺め

・部屋を自由にリフォームできる

部屋を最初に渡された時は壁が汚く剥がれかかっており、ベッドもボロボロだったが、リフォームokだったので自分でペンキやスプレーを買ってきて塗装した。壁はクリーム色から真っ白に、ベッドは真っ赤だったのを水色に変えた。そのおかげでかなり綺麗な部屋に見えるようになったのではないかと思う。部屋の中では非常に快適な生活を送ることができた。

リフォーム後の部屋の様子

・駅までは自転車で30分

不便なのは都心に用事がある時や電車に乗らなければならない時。最寄駅まで自転車で30分くらいかかるのだ。バスは信じられないくらい遅延するため、待ち合わせ時間がある時には使い物にならなかった。徒歩では50分近くかかってしまうので雨の日も雪の日も自転車を手放せない生活だった。

自転車置き場

【魔界】

ここからは閲覧注意な写真が出てくるので嫌な人は記事を閉じてください。

・デッキブラシにキノコが生えるくらい汚い

とにかく全体的に色々汚い。特に共同スペースとなっているキッチン、風呂場、トイレはたまに異臭がする。髪の毛が詰まって排水されない排水溝、食べ物が詰まって排水されない排水溝、トイレを流さない奴など。大浴場は定期的に掃除当番が回ってくるのだが、この前、その大浴場を掃除するためのデッキブラシにキノコが生えていた。風呂場は床がぬるぬるしているので歩くのにも一苦労である。また、脱衣所のマットも相当汚い。私はここで水虫をうつされた。途中退寮していく学生の多くがこの不衛生な寮の現状に耐えられないことを理由に引越しをする。私はそこまで綺麗好きではないのでやって来れたが、多分国立大学の寮なんてどこもこんな感じだろうから潔癖な人はやめておいた方が良い。

風呂掃除のデッキブラシに生えたキノコ

・毎週のように盗難が発生する

教員や公務員を目指す人が多い大学であるにも関わらず盗難が絶えなかった。靴が盗られた、お土産が盗られた、お金が盗られた、など毎週のように盗難被害のLINEが届く。正直ここが1番カルチャーショックを受けたところかもしれない。私も傘と洗剤を盗られた。それからは共同スペースに何かを置く時、黄色いペンで大きく「毒です。触るな。」と書いて置いておくようにしていた。盗んでいた人はどんな人だったのだろう。これからどういう人生を歩んでいくのだろうか。間違っても教員などにはならないでほしいと心の底から願っている。

毎週のように全体ラインに送られてくる盗難被害

・洗濯場は戦場

洗い場は各階に洗濯機と乾燥機が3つずつ設置されており30人程度が共同で利用する。洗濯機には混雑する曜日や時間帯があり、特に水曜日と金曜日はここが戦場と化す。勝手に洗濯中の洗濯機を止め、びしょびしょの中身を他人のカゴに入れて自分の洗濯をまわし始める奴や、逆にいつまでたっても洗い終わった洗濯物を洗濯機から持っていかない奴などが多数おり、トラブルが絶えない場である。そして洗剤や柔軟剤を置いておくと必ず勝手に使われる。

洗濯場

・キッチンも戦場

キッチンは10人弱が共同で使うが、使い方が汚い奴や占領する奴がいればたちまち戦場となる。排水口が残飯で詰まりキッチンが水浸しになっていたり、1ヶ月近く使った食器が放置され夏場に虫が湧いたりしていた。誰かが注意喚起の貼り紙を貼り、お怒りの手紙が置かれ、食器がキッチン外のベランダに置かれたり、色々な方法で迷惑であることを伝える寮生vs全く懲りずにキッチンを汚して行く寮生。基本的にルールがないためキッチンを掃除するのは汚いなと感じた寮生ということになる。つまり汚いと感じない人は一生汚し続け、綺麗好きが片付けるハメになるのだ。

バトルオブキッチン

・風呂場に不審者が侵入

これは滅多に起こることではないが、セキュリティがガバガバなので不法侵入者が現れることがある。一応寮の入り口にはオートロックの鍵がついているのだが、いちいち鍵を開けるのが面倒なのか、多くの人がドアを開けたままゴミ捨てに行ったり買い物に行ったりする。ドアもボロボロなので何度か壊れていた。なので頑張らなくても不審者が入れてしまう。ここは大学がなんとかしてほしいところである。
私が住んでいた頃、日曜日におじさんが勝手に入ってきて寮内をうろついたり風呂場に侵入したりした事件があった。寮生LINEで色んな人が証拠写真を撮ったり警察に電話したりして発見されてから30分ほどで解決したが、けっこうヤバい事件だったと思う。そんだけガバガバのセキュリティでよく女子寮やってこれたな。

関係ないけどペットボトルの捨て場はすんごいことになっている

・日々ヤスデと格闘する梅雨

数年に一度、梅雨にヤスデが大量発生する。ヤスデは土で産まれるが大雨が降ると地面の水を避けるように集団で上に登る性質があるらしい。そのため1匹だけならまだ良いが部屋のベランダに集団でやってくるのである。大量のヤスデがベランダでうじゃうじゃしているのはたまったもんじゃなかった。毎日ガラス扉や冷房のホースを通り抜けて部屋に侵入してくるヤスデを捕獲し外に追いやるという作業を繰り返す日々を過ごした。

朝ベランダのドアを開けるとこうなっている
毎日部屋に入ってくる

・階段下に溜まるヤスデのティッシュ

あまりにもヤスデが大量発生するから捕まえたヤスデのやり場に困ったのか、ティッシュにくるんで踊り場に捨てる学生が出てきた。しかもストレス発散のためか4〜5階の高さからティッシュを落として捨てるらしい。螺旋状になった1階の踊り場にはどんどんティッシュが溜まっていき、最終的にはこんもりと山が出来ていた。普通にゴミ箱に捨てれば良いのに、なぜわざわざここに捨てるのだろうか。この犯人は卒業するまで結局見つからなかったが、純粋にどうしてこの行動に至ったのか是が非でも聞いてみたいものである。

こんな感じで上から落として捨ててるらしい

・ゴミ捨て場に蛇が出る

都会育ちの自分にとって、虫や蛇を日常的に見かけるのは衝撃だった。夏はゴミ捨て場に蛇が出る。しかもけっこうデカい。部屋を開けっぱなしにしていると信じられないくらい大きくてカラフルな蜘蛛やカメムシが入ってくることもある。そういうのを見かけるたび、入寮したての頃は騒ぎ立て、友達に助けを求め大事にしてしまっていたが、次第に静かに素早く虫を外に出す技が磨かれていった。殺すではなく、怖がるでもなく、ただそこに存在するものとしてスルーできるスキルを東京で身につけるには持ってこいの場所かもしれない。

ゴミ捨て場に出たヘビ

・ブレーカーが落ちると翌日まで電気が使えない

古い建物なのでよくブレーカーが落ちる。気を抜いてドライヤーと電気ポットを同時に使うと必ずブレーカーが落ち、面倒なことになる。ブレーカーは各階に設置された大きな分電盤で制御されており、そこをいじることができるのは寮母さんだけ。だから例えば金曜の夜にブレーカーが落ちてしまうと月曜の朝、寮母さんが来るまで電気なしの生活をしなければならない。何度かやらかし大変な思いをしたが、入寮した翌年あたりから寮長も分電盤を触って良いことになった気がする。ただ、その後も私がブレーカーを落としてしまうのはなぜか必ず寮長も寮母さんもいない日で、数日原始的な生活を強いられていた記憶がある。

・隣の住民との関係

特にトラブルなどはなかったが、壁が薄いため電話の声やゲームをする声は丸聞こえになる。ああ、今ドライヤーしてるな…とか実家のママと電話してるな…とかすぐ分かる。私は真夜中にスピーカーで音楽を流したりしていたがうるさくなかっただろうか。
それから、朝、顔を洗いに外に出るだけで隣人がデートの日であることが分かるようになった。廊下が香水臭くなるからである。普段ボサボサの髪とヨレヨレの下着で出歩いていた隣人が見違えるほど可愛くなって出て来て、階段踊り場の全身鏡の前に1時間ほど立って服装や顔のチェックをしている。よく考えるとあんなにボロボロの寮からこんなにめかし込んだギャルが出てくるギャップはとても面白い。

【まとめ】

国立の女子寮は整備が行き届いておらず、規制も少ないため色々なドラマ(トラブル)が生まれ、既成概念がぶっ壊される場所である。全員人生で一度は住んだ方が良いと思っている。もし潔癖や極度の心配性でなければ、ぜひ住んでみてほしい。きっと楽しい話がたくさん生まれると思う。

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