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うつくしい人

生きていて何度も思うことだけれど、うつくしい人って、自分の信念を捻じ曲げることなく、したたかに貫いている人のことだと思う。

自信を持って堂々と、凛々しく振る舞い、どういう行動を取れば自分が幸せになれるかを知っている。人の評価に振り回されるのではなく、心の中にある磨き上げた尺度で物事を見ている。そういう人は華美で高価なものを全身に纏う人よりも、ずっと眩しくてうつくしい。

私の周りに、生き方がうつくしいなと思う人がいる。

その人と知り合ったばかりの頃に感じたのは「変なやつだ」という印象だった。

何処にいても方位を把握していられると自慢げに話すところとか、一度読んだだけでは決して理解しきれない、難解な本をバイブルとして欠かさず持つようにしていることとか、他の人からは聞いたことのない特徴ばかりで、とにかく変わっているなと思った。

付き合うときに言われた言葉は「永遠の愛なんてない」だった。
恋愛って、永遠はないと頭のどこか片隅ではわかっていたとしても、そういう現実的な部分を払い除けて、理想を追いたいと思ってしまうものだ。それなのになんて現実的で冷たい人なんだろうと、これから付き合いはじめるというのに、虚しく突き放されたように感じた。

関係性から見てもわかると思うが、相手はそう、私の恋人だ。

統計を取ったら外れ値に当たる人だろうなと、今でも思う。
けれど確実に、恋人は心の中に残像のようなくっきりとした強い光を残していく。離れてから数日経っても、ふとした瞬間に思い出してしまうような、こういうとき、あの人ならなんて言うんだろうと疑問が浮かんでくる。
もちろん、恋愛関係にあることがひとつの要因ではあるけれど、人に確かな印象を残せる人って実のところそういない。

恋人は京都が好きで、京都がどういうふうに魅力的なのかを目に浮かぶように伝えてくれる。秋、鮮やかな紅葉が映える寺社の美しさや、自転車を漕いであらゆる場所に気軽に飛んでいける日々に心が弾むこと、修学院のうららかな陽に溢れる家々と、遙か遠くまで見渡せる、自然に囲まれたのどかな景色がどれほど愛しいか、気に入っている場所を隠すことなく教えてくれる。

自分が信じたものをはっきりと口に出し、人に伝え、与えることを惜しまず、まっすぐに前を見ている。たとえ他の誰かと意見が違っていたとしてもそれを恥じたり、違っているからといって周りに合わせたりすることなく、むしろ誰かと違っていることは自分の個性だと、悦びながら受け入れる。

そんな姿に、目に見えない芯のようなものを感じて安堵する。一人の人間の中で思考を重ねた、嘘偽りのない言葉だから信じられる。

私が身の危険を感じて頼ったとき、恋人ならどういう対応をするだろうかと、地震の揺れを感じながら漠然と考えていた。

「俺が守る」とか、そんな大それた、非現実的なことは絶対に口にしないだろうと思う。きっと自分なりに考えて、状況に合った知恵や対処法を、生きる術を教えてくれる。

現実的で冷たいと感じることもあるけれど、期待を抱かせるようなことを口にするより、それって有益で確実なことだと思うのだ。自分にできることは限られているから、誰かに依存したままでは生きていけないから、小さなことしかできないけれど、これだけは言えるといったような。

まあ、そんなことは一切なく、ただ自分の安全だけを優先してしまうかもしれないけれど。

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