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鈍く光る

 古いデジカメのレンズの向こう側の景色は少し錆びていて、鈍く光っている。美しいと言えるのか分からない世界が広がっていた。自分でもなんと説明すればいいか分からない。どんな言葉を使って表現していいのかも分からない。でも"凄い"や"いい景色"と簡単に言いくるめられる世界とも言えない。朝、学校の登校をしていると、この景色を嫌と言う程見る。実際にはデジカメのレンズの向こう側の景色なんて見た事ない。

 このなんとも言えない倦怠感が毎朝襲ってくる。眠ってもひっつき虫のように離れない。自分ではどうしようもない事ってこういう事なんだなと思った。そして、布団から出ようと体を起こそうとした時、右の鼻から液体が垂れてくる感覚がした。僕は鼻を一回だけ啜った。
それでも液体が垂れてくる。「これは鼻水だ!」と寝ぼけた頭をようやくスッキリさせて考えだし
た答えだった。だがこんなにもしつこく鼻水が垂れてくることがあるのだろうか、と深く悩んだ。部活の朝練があるというのにこんな事に時間を割いている暇はない。
「くよくよ悩むんだったら、いっその事鼻かんじゃえ!!」と思いっきり鼻をかんだ。
鼻の中で爆発したのではないかと少し心配したが大丈夫だった。ティッシュを見てみると赤く染まった鼻水が出ている事に気付いた。
「え、、?これ鼻血?え?鼻血じゃん!やば!」鼻血を出したのは小学四年生ぶりだった。

 鼻血を出したからか、少し体がふらつく。ふらつく体で歩き出した途端、急な立ちくらみで後ろに倒れてしまった。僕は「痛い」とも「最悪」とも言わずにただ「うお、」と腹のどこから出したのか分からない声が出た。部活の準備をして、数学の教科書とノート、歴史のプリント類などをリュックに詰め込んで一階のリビングに行った。お母さんがキッチンに立って料理をしていた。お父さんは朝のニュースを見ながらコーヒーを飲んでいる。そして鼻血を出して貧血気味の僕は、リビングで数秒程立ち尽くしていた。なぜ立ち尽くしていたのかは分からない。錆びていて鈍く光っているあの世界が頭の中でフラッシュバックのように思い出したのかもしれない。それか、僕がまだ知らないレンズの向こう側の世界が広がっていたのかもしれない。


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眠れない夜に

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