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ちょうど今頃の、暑い盛りでしたね。 その日、僕は林へ音を録りに行ったんです。 僕たちは普段、ビジュアルノベルと呼ばれる作品を制作しています。ビジュアルノベルとは、簡単にいえば「電子媒体の特長を活かした小説」とでもいいましょうか。文章を主体としつつ、絵や楽曲、画面効果といった演出によって彩られた物語作品をそう呼称します。 僕たちの作品の強みとしては、ビジュアル表現の豊かさもがありますが、音にも結構こだわりを持っておりまして。環境音を実際に録りに行ったり、効果音を自作
「あの、センカワさん──来月末で、退職させて頂きたいです」 仕事終わりに誘われた酒の席で、部下に頭を下げられた。 「次は決まってるのかい?」 「はい、入社時期について先方と交渉中でして……」 「わかった、社長には俺から話を通しておくよ」 俺がそう言い終わると同時に、狙いすましたかのごとく料理が運ばれてきた。こぢんまりとしたテーブルが、瞬く間に賑やかになる。早速とばかりに箸をつけるこちらをよそに、目の前の部下は呆気にとられたように固まっていた。 「……どうかした?」