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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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#再会

高校の先輩が大学で後輩になった日々の話

 大学三年生にもなると、サークルの新歓コンパも慣れたものだ。いつもの居酒屋。お決まりのプラン。そして、お馴染みのイベント──新入生による自己紹介。 「大学生活、サイッコー!!」  トイレから戻ってきた俺を出迎えたのは、とある新入生の雄叫びだった。  タンポポじみた金髪に、スポーツサングラスをかけた男。声も大きけりゃ身体もデカい。遠目に見ても、おそらく2メートル近くあるだろうか。十字架と謎の英文がデカデカとプリントされたTシャツに、くたびれたウォッシュジーンズという出で立

好きな人ともう一度眠るまでの日々の話

 お布団には、夜の12時までに入るべし。  それが、この家でのルールだった。 「佳夜ちゃんは育ちざかりなんだから、これぐらい早く寝なくちゃ」  それが、家主である月子さんの口ぐせだった。でも私に言わせれば──同年代の、中学に入学しようかという少年少女なんて、もっと早くに眠っていると思うのだ。そのルールはむしろ、月子さん自身のためなのだろう。私がこの家に来るまでは、いつも夜の3時すぎに寝ていたらしいから。  ともあれ、私は今日も今日とて、月子さんと一緒に寝る準備をする。お

好きになりそうな人と写真を撮った夜の話

 ES──エントリーシートなんてのは、自室でひとり粛々と書くに限る。大学のラウンジで、それもお喋りな女友達と一緒にやるべきことではないのだろう、たぶん。 「ところでさ、にっしーは今度の日曜って忙しい?」 「いちおう空いてるけど」 「了解、じゃあ『デート』の件はその日にしない?」  予想外の単語が耳に飛び込んできて、俺は危うくESの清書をミスりそうになった。「いやちょい待ち、どういうことなの」手を止めてそう問えば、イチカワは「飲み会での話、忘れたの?」と目を丸くした。瞬間、

帰省の時だけ会う彼女との8年間の話

 ──いつの頃から、帰省が億劫になったのだろう。  大学受験を機に上京して、はや10年近く。俺の記憶が正しければ、就活が始まったあたりで一気に腰が重くなった覚えがある。  決して安くはない、東京・福岡間の往復運賃、そして移動時間。「せっかく帰ってきたっちゃけん」と強制的に催される親戚回り。行く先々で大量に供される、仕出し料理と親戚たちの近況報告。  去年は特に気疲れした。恋人を連れて帰省したからだ。そもそも両親だけに顔見せする予定だったのに、翌日には親戚たちが大挙してウ