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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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#帰省

帰省の時だけ会う彼女との8年間の話

 ──いつの頃から、帰省が億劫になったのだろう。  大学受験を機に上京して、はや10年近く。俺の記憶が正しければ、就活が始まったあたりで一気に腰が重くなった覚えがある。  決して安くはない、東京・福岡間の往復運賃、そして移動時間。「せっかく帰ってきたっちゃけん」と強制的に催される親戚回り。行く先々で大量に供される、仕出し料理と親戚たちの近況報告。  去年は特に気疲れした。恋人を連れて帰省したからだ。そもそも両親だけに顔見せする予定だったのに、翌日には親戚たちが大挙してウ

幼馴染との帰省を決めた12月12日の夜の話

 子どもの頃から泣くのが好きだった。  だから、東京で暮らしたいと思った。  上京した理由を問われてそう答えれば、決まって相手は怪訝そうな顔をした。むしろ俺としてはその反応が意外で、さらに説明を加える羽目になったものだ。  ──東京は、日本で一番キラキラしている場所だと思うんです。  ──キラキラしているものを涙目で見ると、もっと輝いて見えるじゃないですか。  ──だから東京に住めば、泣くのが最高に楽しくなるなって思ったんです。  もう昔の話だ。具体的には、できたてホヤ