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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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2014年9月の記事一覧

あのひとの声と、その色の話

 ──むかしむかしの、お話だ。  僕は、気が付くと「そこ」にいた。  そこがどこかは分からない。いつから居たかも分からない。  唯一理解できたのは、自分がここに在るという事実だけだった。 「はじめまして」  声が降ってきたのは、僕がそこに来てしばらく経ってからのこと。  もっとも、その時の僕は、声を声として認識できなかった。  きっと前にいた場所では言葉を発する必要がなかったから、  そういった文化を知らなかったんだろうな。  だから、言葉を単なる音の連なりとしてしか