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《短編小説集》なにがしかの話

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物語の半分はほろ苦さでできています
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2014年4月の記事一覧

彼が恋文を書いた朝の話

 幼い少年は、言葉が上手く喋れなかった。けれども、その代わりとでも言うべきなのか、文筆においては雄弁だった。  彼の得意教科は国語だった。作文では常に一番だった。  当然のように彼は、周囲から「文章を書くのが上手いやつ」と認識され、独自の地位を獲得するに至った。  彼にとっては、文を書くことが唯一の強みだった。  そのことを、ほかならぬ彼自身も認識していた。  そんな少年にも、恋心を寄せる女子がいた。  しかし、生来の消極的な性格が災いして、同じ学級でありながらも親しい関

彼を吸い終えるまでの8年間の話

「サクラダ先輩、僕と付き合ってください」  蚊の鳴くような声が、涼やかな空気を微かに震わせた。  大学二年生の秋、校舎裏の喫煙所で。  告白された。サークル後輩のエコウくんに。  いやまぁ、予想通りではあった。  新歓の時から目を付けていた、温厚そうな男の子。  動物で例えるならば、まさに羊だ。  牧場の隅っこで黙々と草を食しているような。  向こうから好意を寄せられていることにも、うすうす気付いていた。  私は彼氏と別れたばっかで、ちょうど男を切らしていたわけで。年