映画「笑いのカイブツ」レビュー
人生ってしんどいよなぁ。
そんな感情を僕はいつもうっすら感じている。
だから正直この映画を見るのが怖かった。
どんな絶望の淵に突き落とされるんだろう、と怖くてしょうがなかった。
ただ自分が想像していたよりもフラットな気持ちで観ることができたと思っている。
何かに必死になって頑張ったことがある人
生きづらいと感じてる人
人と上手く関係を築くのが苦手な人
自分には何もないと思う人
社会人になりたての人
いろんな人に刺さる作品なんじゃないかな、と思う。
この映画は社会のリアルを描いているなと思った。好きなものを突き詰めていったその先に、全て自由にやれる世界はなくて、どこかで妥協をしなければならない。
これって誰しもがぶつかる壁なんじゃないかなって思って。
たとえ好きなことを仕事にしたとしても、全部自分が思うようにコントロールできるわけではない。仕事となれば求められることがあって、そのラインをクリアしなければならない。
きっと多くの場合そうだから、そこに不満を持つ人だってたくさんいると思う。
歳を重ねて「あ〜大人になるってこういうことなのか」って思って諦めたりする人もいるんじゃないかな。
その反面、ツチヤはある意味素直、欲望に忠実というか、悪く言えば自己中というか(笑)
でも僕はそんなツチヤが羨ましく見えた。
個人的に好きなシーンは2つあって、(全部好きだけど)
・ツチヤがプロデューサーと揉めるシーン
・居酒屋でツチヤとミカコ、ピンクの3人で飲んでるシーン
は非常に良かった。
ツチヤが構成作家チームと揉めるシーンだけど、ツチヤの不器用さが垣間見れたなと思った。お笑いだけが正義の彼にとって、それに全力投球していない氏家が何のためにいるのか理解できない。
でも「氏家がいるから現場が上手く回るんだ」って言う人たちがいて、ツチヤは自分でも気が付かないうちに氏家に劣等感を感じていたのかなと思ったり。
居酒屋シーンはとくに心に響いて、辛かったシーン。「もうダメだって、上手くいかない」って戻ってきた地元でかつて想いを寄せていた子と、仲の良かった友人と会うわけだが、あの頃の2人ではなくなっていて。
時間が経って成長して変わった2人の姿と自分を比べて「俺はなにも持ってない。残ってない」って感じてたんだツチヤは。
でも僕は思うんですよ。確かにその時は、上手くいかなかったかもしれない。でもハガキ職人として始まり、プロの構成作家としてのセンスを認められているわけだからそんなに卑下することはないと。
ただ捉え方や考え方を変えただけで、化けるんですよ。こういう人は。現に成功を手にしてるし。何か突出した才能があるから、でもだからこその苦しみがあるのかもしれない。
やっぱり何かを手にする人は、自分から行動をしているし、もちろん失敗もたくさんある。そんな苦労を経て掴んだ今なんだろうな。
とても泥臭くてリアルで、素敵だ。
「何者かになりたいけどなれない」そんな想いを持っている人には、この作品はとくに刺さるんじゃないかな。
そしてツチヤにとって母、西寺、ミカコ、ピンクは唯一心を許せる人たちだったんだなと思った。口数は少ないものの、見せる表情に嘘偽りはない。
なによりもラストシーンが良かった。僕は人生そのものを表しているんじゃないかなって思ったんですよ。
頑張ったその先に必ず何かがあるかといえばそうでもなくて。
「人生って思ってるよりもしょーもないんやで、でもやるしかないんや。」的な。
なんだか先に明るい希望が見えるというか、一皮剥けたツチヤがそこにいた気がした。
…からのエンディングの音楽には鳥肌が立ちましたわ。
作中のネタと同時に、映し出される映像も良かったっすね。一つひとつ拘られてるなと思って。あとフィルム感がいい味出していたりと、とても好みだった。
主演の岡山天音さんの演技はすごくて、映画ではなくドキュメンタリーを観ている気持ちになった。細かい表情の切り替えが上手で目が離せないというか。
どの作品を見てもワザとらしさのない自然な演技で、観ている側が作品に入り込めたり登場人物に感情移入できたりするのがすごいなと思っていました。「ナヨナヨしてんなよ」と思う役の時もあれば「ウザイなコイツ」と思わせる時もあるし、色んな顔を見せてくれるので本当に惹き込まれる。
とにかく、この役をやり切ったことに尊敬します。
天音さんにしかできないものが確かにそこにあったと思います。
菅田将暉さん、仲野太賀さん、松本穂香さん、片岡礼子さんと実力派俳優が勢揃いのめちゃくちゃアツい作品。
上映している今この瞬間に生きててよかった。この作品に出会えたことに感謝します。
まだ観てない方はぜひ、観てください。きっと何かを感じられるはず。
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