暗がりで不審な動きをしている人と目が合った結果恐ろしい事を言われた話

夜にバイト先の給湯室を掃除していたところ、突然部屋の明かりが消えた。

大変驚いたが、一定の時間が過ぎたら自動で落ちる仕様になったのを思い出した。
人の動きを感知すれば再び明かりが点く筈であるが、なかなか点かず苦戦を強いられた。

ややあって部屋に光が戻り、切磋琢磨の末ようやく明かりが点いたかの様に思われたが、実際は私に人感センサーが反応した訳ではなく、ミスをした半泣きのバイトの子を連れて給湯室を訪れた店長が電源スイッチを押した為であった。
涙する程とは本人にとって非常に深刻な事態であろう。
しかし、その時私は人感センサーを反応させるべく、丁度頭上でタオルを振り回し、ヘッドバンギングに勤しんでいるところであった。
その為私は深刻な二人の存在に気が付いていなかった。
店長の本能が見てはいけないものを見たと判断したのか、反射的に電源のスイッチがもう一度押され、私の姿は再び闇に消された。

しかしすぐさま店長はもう一度スイッチを押し、再び私の姿が明るみに出た。この時ようやく私は二人の存在に気が付いた。
その際に一度暗がりを挟み、次に明かりが点いた瞬間にしっかり目が合っているというホラー演出が意図せず行われてしまった。 
私はせめてもの思いでタオルを持つ腕を下ろしたが、その際に勢いがついてしまった為かタオルから「パァンッ…」と音が発せられ威嚇しているようになった。
その音を最後に我々に沈黙が訪れた。

威嚇後で大変恐縮であるが涙目のアルバイトが気に掛かり
「どうしたんですか?」
と、語りかけた。
アルバイトも店長も口には出さずとも
「お前こそどうした」
と同じ疑問が浮かんだ事だろう。
とりあえず涙を拭いて頂こうタオルを差し出したが、今しがた頭上で振り回し、パァンッ…などと良い音を鳴らしたタオルしか持ち合わせていなかった為、非常に受け取りづらい代物となった。

店長は、涙するアルバイトを落ち着かせる為に給湯室へ連れてきた筈であるのに、タオルと頭を振り回すという不審な挙動を見せる者が暗がりに潜んでいた為全く落ち着けぬ事態となってしまった。

『電気が消えしまったので、動いてました』
たったこれだけの説明で全てが解決に向かうというのに、私は二人の視線に耐えきれず
「えぇ、やりましたとも。光が欲しかったのでね」
と、追い詰められた犯人の供述の様になってしまった。
人感センサーに人として認めてもらえなかった一人の憐れな人間の末路である。
せめて去り際に、電気が勝手に消える旨を二人に申したが
「忘れないでください。明かりはまたすぐ消えますから」
などと事件がまだ終わっていない事を示唆する様な物言いとなり、結局その胸中をザワつかせただけであった。

店長は、アルバイトの人と親身に向き合う為、必死に肩を震わせつつも湧き上がる感情を抑えていた。
しかし、アルバイトの人が先に決壊した。

【追記】
その後店長がアルバイトの人を励ます作業は非常に難航した。
同期は「パァンッ…」が、妙にツボに入り震えており、店長も口を開けば決壊するかもしぬと感情が落ち着くまで耐え、暫く二人は只々無言で向き合い座るという謎の時間が流れた。

そして、ようやく会話が成立するようになったところで、部屋の電気は再び消え
「あぁ、こういう事か…」
と、時間差で私の身の潔白が晴らされた。


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