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終電で小山に登ってインターバル撮影をしながら一夜を過ごした話

先日、何年か勤めた仕事を退職した。その理由はどうせロクでもないので置いておくとして、無職となったわたしは数ヶ月前から予めピックアップしていた「無職の今しか出来ない事」を一つ一つ、ゆっくりこなす日々を送っている。

その中の一つが、星景タイムラプス動画の撮影だ。
星景写真は撮影する事自体よりも、ベストなロケーションとタイミングを絞ることが難しい。
まず月が眩しい時間は外す必要があるから、できれば新月のそれも雲ひとつない晴れの時が良い。そしてそんな恵まれた日に、車通りもなく街灯もロクに無いような撮影スポットに向かわなくてはならない。北の空が開けていれば北極星を中心にスタートレイルがグルグル回っている絵、南の空なら天の川が入っている絵を撮るのがセオリーだと思うが、いずれにしても空は開けていないとダメだ。

つまるところ、関東の都会に住んでる社畜には機会が無いに等しい。「恵まれた日」が休日に合わさる事が奇跡的だし、車の無い関東人には遠出するのが難しい。近場の山に入れば良いのかというとそんな事はなく、日本で人がすぐ入れるような山は高い杉の木が生い茂っているので空の撮影には適さない。アマチュアであれば、無職かよほど余裕のある仕事に就いている人間じゃないと難しいだろう。

閑話休題、無職となって時間的制約がなくなったわたしは、3月の新月に近い日、予めあたりを付けていた撮影スポットに終電で向かった。
その場所は駅から1時間ほどのちょっとした山の上にあって、公園として整備されてはいるものの街灯は立っていない理想のスポットだ。
一通りの撮影機材と共に食料・多めの水・ホッカイロを鞄に詰め、休みで弛んだ体に鞭打って小山を登った。

小山の上は風が強く思っていたよりだいぶ寒かった。確かスマホで確認した気温は7度だったと思う。氷点下じゃないなら大した事ないだろうとか、平地は夜でも過ごしやすい気温だし登ってる最中は暑いだろうとか、最悪ホッカイロを3つも持ってるし大丈夫だろうとかタカを括っていたのだが、本当に後悔した。
足のつま先の感覚が無く、地面を踏み締めると痛むので靴の中にホッカイロを詰めて、残りの一つは悴む手で握った。じっとしていると余計に寒く、足先も手先も、そして腰も痛いので時折り無駄に歩き回った。
カメラの設営をした後軽持って行ったおにぎりを食べたが、あの時の味が忘れられない。風が当たった米は冷えて不味かったし、具は味がしなかった。

ニコンのカメラの場合インターバル撮影はさほど難しくない。まずISO感度の自動調整をオンにして、最低シャッタースピードを設定する。
スタートレイル写真にしない場合はレンズの焦点距離にもよるが15〜25秒なら問題ないだろう。500ルールは近年の高画素機には通用しなさそうなので400/焦点距離がちょうど良いと思う。
自動感度の設定ができたら次にインターバル撮影の設定を開いて、撮影間隔を最低シャッタースピード+2秒にする。撮影開始時刻と撮影枚数を設定すれば終わりが何時ごろになるか分かるので、計画的に撮影が出来る。構図を決めてフォーカスを合わせて、インターバル撮影の予約を開始したらあとはヒマを潰すだけである。
ちなみに、当然通常のバッテリーパックでは足りないので、USB給電に対応しているZ6Ⅱならモバイルバッテリーから直接、対応していないZ6なら外部電源用のヒモが出ている専用のバッテリーパックを使う必要がある。今回は用意が間に合わなかったので5000mlAのモバイルバッテリーを使用したが、4時間ほどしか持たなかった。

そしてニコンのインターバル撮影は公式サイトなど各所で「ホーリーグレイル撮影が出来る」との謳い文句が掲げられているのだが、これを鵜呑みにしたのも失敗だった。他のメーカーのカメラでは撮影した事が無いのでニコンはまだマシなのかもしれないが、公式サイトで言われているように全く手間がかからない訳ではなく、それなりに労力が掛かった。

「ホーリーグレイル」とは聖杯を意味する言葉で、キリスト教圏では貴重な物・困難な探究の比喩らしく、カメラ界隈においては夕方から夜に掛けて、夜景から朝に掛けての光量変化が大きい時間のタイムラプス動画を指すらしい。
今回の撮影でも夜2時からの星空の風景から朝6時の朝日に照らされる風景までの所謂ホーリーグレイル撮影に挑戦したわけだが、これを1枚1枚現像する際に設定を共通化できないのが厄介だった。

星空の写真は過剰なまでにコントラストや明瞭度を強くするのに対して、朝の風景はもっとコントラストを抑えて地上の風景もよく見えるようにした方が雰囲気が出る。しかし明確にここからが夜でここからが朝という基準は当然無いので、インターバル撮影全500枚のうち後半の200枚を8時間掛けて一枚一枚パラメーターを微調整してグラデーションにするという荒技で解決した。撮影より現像の方が時間が掛かっている。そもそも星空と朝焼けのタイムラプスは欲張りすぎなんだろうか。


撮影データを確認して分かった事だが今回のスポットは星景撮影に向いていなかった。肉眼で見えない天の川がカメラを通すと写るのと同じように、肉眼ではただの夜景に見える景色もカメラを通すと煌々と輝く街明かりが空の色を飛ばしていた。
Lightroom classicでは部分的に露出補正を掛けたりすることが可能だが、そもそもLightroomを普段使っていないのもあってやはり一朝一夕ではうまく誤魔化しきれなかった。
多分あの場所は星景撮影のためには行く事はもうないだろう。単純に光害が酷いというのもあるが、平日の深夜2時、駅から1時間にも関わらず2組ほど人が来て本当に嫌だった。廃墟の探索をする人が廃墟で最も恐ろしいものは直近に人が居た痕跡だと言うのをよく聞くが、まさにそれだ。自分も、そして相手にも心臓に悪い。

しかし今回は初めての星空インターバル撮影、そしてタイムラプス動画に纏めるという貴重な体験が出来た。次の機会があるかはわからないが、反省点も多かったのでまた挑戦したい。今度は、もっと良い場所を選びたい。今度はスマホにAmazonプライムの動画をたっぷり入れて、ヒマにならないようにしよう。

(おそらく1枚だけ露出補正マスクが適用されてないコマがありフリッカー現象のようになっているが、8時間の現像作業で力尽きたので直す気が起きない)

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