映画『流転の地球』が史上最高映画である件について。

 最近はNetflixで公開されていふSFドラマ『三体』が話題だが、同じ劉慈欣原作の映像作品という観点で言えば、僕は『流転の地球 太陽系脱出計画』をお勧めしたい。

 正直この作品は、全くと言っていいほど非の打ちどころがない。あるとしたらハリウッド映画にありがちな、主人公が絶対死なないことと。謎のチャイニーズジョーク。コテコテのCG演出ぐらいであろうか。僕は『流転の地球 太陽系脱出計画』の魅力は大きく3点あると思う。

・圧倒的導入!宇宙エレベーターの戦い
・「劉慈欣節群像劇」と「大衆的映画演出」の最強コンビネーション
・完璧なラスト!想像の余地を残して終わる圧倒的充実感

・圧倒的導入!宇宙エレベーターの戦い
 『流転の地球 太陽系脱出計画』の基本的なあらすじは、太陽が寿命を迎え膨張し、地球を飲み込んでしまうため、地球に核融合エンジンをつけて発射し、未知なる新惑星まで人類を移住させようとする「移山計画」を実行に移す物語である。
 しかし、「移山計画」をよしとせず、デジタル空間の中で人類を生存させようとする「デジタル生命派」のテロ活動によってこの物語は始める。彼らの目的は、宇宙エレベーターとそれに接続する宇宙ステーションを爆破することで、移山計画の進行を妨げようとするものである。ここでの宇宙飛行士VSテロ組織のアクションシーンがかつてないほど面白く、一気に作品へ引き込まれる。
 というのも、宇宙エレベーターという設定を最大限に活用し、無重力空間と過重力負荷空間を行き来するスリリングなアクションシーンは、宇宙エレベーターと宇宙ステーションの設定を詳細に作り込んでいなければ実現し得ない。上映時間が3時間もある本作だが、まず序盤で一気に引き込まれる。

・「劉慈欣節群像劇」と「大衆的映画演出」の最強コンビネーション
 劉慈欣作品の特徴は複数の人物によって展開される群像劇だ。主人公的な役割の人物が何人も登場しているにも関わらず、一人一人の人物描写が散漫になるわけでもなく、最後は一つに収束していく。今作も、そのような劉慈欣作品の特徴をしっかりと踏襲している。そして、劉慈欣は人物の心情描写が悪魔的に繊細だ。味方と悪役の境界はもはやなく、全員に感情移入できるよう人物が作られている。彼らの恋愛や家族愛は地球の命運と結びつき、セカイ系的な構造を呈している。単なるSF映画に止まらず、そこに重厚な人間ドラマが織り込まれた、まさしく完璧な作品と言えるだろう。
 また、『流転の地球 太陽系脱出計画』は原作短編小説『流浪地球(原題)』の物語をそのまま描いているのではなく、前日譚的な位置付けになっている。そのため一部設定を除いてストーリーのほとんどはオリジナルとなっており、劉慈欣はエグゼクティブプロデューサーという形で作品に参画している。そのため、劉慈欣作品特有の複雑で緻密な設定が、大衆映画的派手なアクションシーンと上手く組み合わさることで、大衆的でもありマニア向けでもある完璧な映画が出来上がっているのである。

・完璧なラスト!想像の余地を残して終わる圧倒的充実感
 この作品はラストも最高だ。本作は原作小説の前日譚的な側面があるため、作品の中で全ての謎が解決されない。そのため、僕はこの先の展開にワクワクしたまま映画館を出ることができる。決して、消化不良になるわけではない。作品は作品として完結していながらも、宇宙を旅する地球の壮大さに想いを馳せながら作品を見終わる感覚は、近年ヒットしたどの映画にも出せない最高の体験であろう。

 初めから最後まで面白い、3時間という時間があっという間な『流転の地球 太陽系脱出計画』。是非、観てほしい!

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