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漫画『違国日記』感想 ※ネタバレあり

※ネタバレを含みます。未読の方は先に原作を読んでください。是非に。



ヤマシタトモコさんの漫画作品、『違国日記』について。
先日完結しましたね。
どういう結末なんだろう?って思いながらずっと追っていたけれど、正直まだまだ続いてほしい、この登場人物たちのことをもっとずっと見ていたい、という気持ちも強かったから、完結してしまって、嬉しいけど寂しい。
どうでもいいようなみんなの日常とか、増えていった朝ちゃんのお料理レパートリーとか、塔野せんせの休日とか、ダイゴさんの仕事風景とか。そういうの、もっと、際限なく見ていたい。徒然なるままに。

私はものを書く人間だから(プロではない)、そう生まれてきてしまったから、心情的にはかなり槙生ちゃんに寄った視点で読み進めていた。性分的にも、近いものを感じる。
まあ、朝ちゃんには自分とは真逆のものを感じるから、という部分も大きいけれど。
そう考えると、最初から槙生ちゃんと朝ちゃんは真逆だったのかな。
そういう、『逆』というか、『表』と『裏』みたいに二分しちゃわないで、曖昧な各々のグレーゾーンの中で、それでも自分とは違う誰かを想いながら生きていく、っていう話だったと思うから、安易に真逆って言いきっちゃうのは違う気もするけれど。

でも、真逆だったよな、と思う。
性格の部分も、環境の部分も、棲み処という意味でも。
もちろん、いくつかは共通してる部分もあるけどさ。
少なくとも出会いは、初対面ではなく物語の始まりの出会いとしては、かなり真逆というか対照的な存在だったと思う。
真逆だけど、真逆だから、私はあなたを受け入れることができる。私とあなたは異なる人間だから、私はあなたを補うことができる。
最初っから愛だったよね、やっぱり。

誰かどう見たって、槙生ちゃんが朝ちゃんに向ける気持ちは愛だったと思うんだよ。誠実で、丁寧で、とても大切に扱っているのがわかる。それを愛と呼ばずに何と呼ぶのか、っていうくらい。
でも、槙生ちゃんは朝ちゃんに愛してるとは言わない。愛してるという、自覚も多分最初はなかった。愛せないとすら思っていた。
うん。嫌いな人の娘、だし。私はその気持ちがめちゃくちゃわかるんだよな。
でも、最終巻で、愛してると言わない理由について明言された。
それを言わないのは、愛してないからじゃないんだ。
愛してる、なんて言葉じゃ、足りないから。全然足りないから。
そして、そのセリフが出たのは、槙生ちゃんが朝ちゃんのことを愛していることを、最終的に自分で認めたからなんだよね。
怖いけど、しんどいけど、愛している。愛するよ。あなたのことを。

槙生ちゃんがどのくらい言葉を大切にしているか、そして言葉だけじゃなく、同じように他者を尊重しているか、というのが痛いほど伝わる。
槙生ちゃんの著書を読みたい。

私は子育てはしたことないけど、なんとなく、「わかんない」「(槙生ちゃんの)言葉難しい」と言う朝ちゃんに「考えろ」と返せるのは、自分が実母じゃないからなんじゃないかな、って思ってしまう。
実母だったら多分、教えてあげたくなるし、なんなら「お母さんがしてあげる」って言いたくなっちゃうんじゃないかな。
どうだろ、もし槙生ちゃんが将来子供を産んだとしたら(ほぼ確実にないとは思うけれど、絶対というのは存在しないので)、槙生ちゃんは子供が「わんない」って言ったときにどんなふうに接するんだろう。
少なくとも、めちゃくちゃ過保護に育てることはなさそうな気がする。
朝ちゃんにしたみたいに、個人としての『あなた』を尊重して、好きにやってみなさいなって少し突き放すんじゃないかな。それともやっぱり、相手が実子だったら、心配して干渉しすぎちゃったりするのかな。
どっちが正しいとかではなくね。

槙生ちゃんの愛は、当初の朝ちゃんには冷たく見えてしまったんだろうけど、その実めちゃくちゃあたたかいなって思うよ。熱いくらいで。
笠町くんの言葉を借りると、薄情者ではなく「激情家」。
見えないけれど、見えないだけで、熱情がある。まあ、そうじゃなきゃ表現者(小説家)になんてなってないだろうし。
頭の回転が速いのもそうだけど、その機知が、しっかりと他者に対しても向けられているというか。
槙生ちゃんは、言葉もそうだし、他者のことを、本当に尊重している。その尊重こそが愛だなあって感じるよ。時には無関心に見えてしまうこともあるかもしれないけれど、それはある種の信頼であって。
「あなたは私を絶対に裏切らない!」っていう信頼ではなく、「あなたがどうなっても私は受け入れるし後悔しない」の信頼。に近い感じ。
私はそれを愛と呼ぶ。

まあ、槙生ちゃん、後悔が多そうではあるけど。
でもそれは、過去の自分に対する後悔や嫌悪であって、誰か他人に対して、「あなたがこんなふうになってしまって後悔してる」みたいなふうに思ったことはないような気がするなあ。
他人は他人だし、それは自分がコントロールできるものではないから。結果として、事実がそこにあるだけで。私はそれを見て、理解して、何かを思うことはあるかもしれないけれど、それを侮辱する権利はないし、干渉したいなんて傲慢だ、みたいなふうに思ってそう。
自分が誰かに影響を与えること自体を怖がってる部分もあるもんね。

で、そう、話変わるけど。
笠町くんいいよね。笠町くんめっちゃいい男だと思うし、めっちゃ好き。
槙生ちゃんを好きになるという時点でもう見どころがある男ですよ。だし、(若い頃はそうじゃなかったんだろうけど)冷静さというか、一歩引いたような寛容さがあるよね。
余裕があるように見える、ので、大人の色気みたいなものを感じる。
実際は(父親に対して)まだ少年みたいなわだかまりを心に抱えていたり、槙生ちゃんの言葉に内心一喜一憂してたりするんだろうなって思うけど。
でも、そういうの隠せるのが、そんで必要なとき(朝ちゃんに聞かれたときとか)には隠してるところからすっと出せるのが、いい大人だしいい男だなあと思う。

あとは槙生ちゃんの交友関係でいうと、ダイゴさんもめっちゃ好き。
ああいう友達が1人いると、本当に、世界で息がしやすくなるんじゃないかと思う。
馬鹿話でひゃひゃひゃって笑ってくれる友達ね。
私自身がああいうタイプになれないっていうのもあって、すごく憧れる。
ダイゴさんにとっても、槙生ちゃんはそういう代え難い友達だったんだろうなっていうところもいいよね。
一生ものの友人というやつ。羨ましい。

えみりと朝ちゃんの関係性は、個人的には割とひやひやするところが多かったかな……。
えみりが『そう』なんだろうなってことは、割と序盤の方からわかってたんだけど、どう考えたって朝ちゃんには話せないだろうっていう感じだったので。最終的に話すことができて、わかってもらえることができてよかったなって思う。
いや、友達だからなんでも話さなきゃだめとは思わないし、話せないまま仲良いってことも全然あるんだろうけど。でも、えみりにとっては、話したいことだったしわかってほしいことだったのかなって思うから。
あそこで素直に受け入れて謝れる朝ちゃん、本当に根っこが善人で真っすぐだよなあと思う。地頭もいいんだろうけど、コミュニケーションが率直で他人への尊敬がちゃんとあるんだよね。めちゃくちゃいい子。
この2人も、ずーっと友達なんだろうなって思うよ。そうあってほしいっていう私の願望もあるけど。

実里さんに関しては、最後まで深い部分では明言されなかったなあ。
朝ちゃんにとっての『お母さん』、槙生ちゃんにとっての『姉』。その描写が全てで、実里さん自身の内心が描かれてる部分はほとんどなかった気がする(朝ちゃんへの手紙はある種そうだけど)。
他人のことはわかりっこないし、死んでしまった相手なら尚更そう、っていうのを最後まで貫いた感じがあるね。変な独白パートがなかった。
朝ちゃんを身籠ったときの友達とのシーンとか、そのときの(内縁の)夫とのシーンとか、(おそらく)槙生ちゃんと決定的に決別する原因となったであろうシーンとか、ところどころで「きっとこう考えていたんだろうな……」っていう推察はできるけど。でも、わかんないもんね。
お父さんに関してはもっとわからん。
実里さんが朝ちゃんを愛していたことに関しては、間違いないと思うんだけど。

槙生ちゃんと実里さんの関係性に関しては、めちゃくちゃリアルで生々しいなあって思った。2人のお母さんのことも含めて。
私自身、育ち(家庭)に問題があったから共感できる部分が多いだけかもしれないけどさ。
家族じゃなければ、聞き流したり、程よく距離を取ったり、やんわり縁を切ったりできるんだろうけどさ。家族はそれができないから。自分自身も頑なになってしまうし、意地を張ってしまうし、一度こじれると修復もしづらい。
だからこそ、実里さんは『普通』の家庭に憧れがあったんじゃないかと思うんだけど……、そう思うとあの(内縁の)夫からの拒絶はめちゃくちゃきついな。

実里さんにとっての『普通』は、多分、『標準の範囲内だけど平均値よりも少し優れたところにいること』だったんじゃないかなと思うし、その『普通』は自分に対しても他人に対しても『当然』だったんだろうなって。
だから、槙生ちゃんと実里さんの2人の関係性について、最初は槙生ちゃん側に感情移入して読んでたんだけど、途中からは実里さん寄りになってしまったんだよね。
実里さんの方が、正しくて、真っ当で、「ちゃんとしなきゃ」っていう自負があって、だから実里さんにとって『そう』じゃない槙生ちゃんにはっきりと「お前がおかしい」みたいな態度を取られたの、そりゃあしんどかっただろうなっていう。
実里さんは多分、槙生ちゃんのこと嫌いじゃなかったと思うし。悪態をついても、いじってても、本当は「あんたはほんとにしょうがないわねえ」って笑いかけられる可愛い妹だったんじゃないかなって。
(内縁の)夫に関してもそうだけど、本当は自分が思う『普通』が一番正しいわけじゃないのはわかってて、だから正しくありたくて、でも上手くいかなくて、そういう意味で槙生ちゃんには強烈な憧れもあって。
それで文章を書いてみたりもしたけど、結局は「ああ私には才能がないんだな」って思ったりもしたんじゃないかなって思う。しんどい。

けど、槙生ちゃんにとっては、相手の内心がどうであろうと、自分が傷付けられたことには変わりないし、相手に歩み寄る姿勢が感じられるわけでもないし、憎くて許せないっていうのもめちゃくちゃわかる。
許さなくていいと思うし、許す機会ももう失ってしまったわけだけれど。
うーん、家族って上手くいかないよなあ。難しい。

だらだらととりとめもない感想を書いてしまった。
まだまだ思ったこと、言いたいこと色々あるけどきりがないので。

色んな人がいるね、その色んな人を、あなたは大切にしてもいいし大切にしなくてもいいけど。
でも、叶うならばあなたが納得できる、安寧と幸福を手に入れられるといいわね。そう、祈ってるわね。
そういう愛のお話だったと思います。

100万回読み返します。好きです。

余談ですけど、ヤマシタトモコさんの漫画作品である『BUTTER!!!』もめちゃくちゃいいので、『違国日記』が好きな人は是非読んでみてください。
完結済みの6巻です。

ではでは、今回はこの辺で。

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