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生まれて初めて前髪を作った話

筆者は小さな頃から、親に「あなたには絶対に前髪は似合わない」と言われて育ってきた。
幼少期の子供の髪型を親が(親の好みで)決めるのはほとんど当然のことではあると思うが、筆者は学生の頃から成人した後までも本当にずーっと「あなたには今の髪型が一番似合う」みたいなことを言われ続けていたのだ。

筆者の髪型は、古い言葉で言うと「ワンレン」だった。
これはワン・レングス(均一な長さ)のことであり、すなわち前髪や輪郭に沿った顔周りの髪などを一切作らず、「一番長い部分の毛」のみで髪型が構成されているということだ。
つまりこういう髪型である。

ゆるガル(https://yurugirl.com/)様より画像を拝借しました

髪型はその時代の流行り廃りが大きいため、一概に「可愛い髪型」「可愛くない髪型」のようなものはないと思うのだが、物心がつく頃に「こんな髪型にしてみたい」という願望を抱くのはなんらおかしなことではないと思う。

私の場合は、一度でいいから前髪を作ってみたかった。
おでこを見せた方が聡明に見える、前髪がない方が美人系に見えるという意見も理解はできるし、センター分けが流行る時代があることもわかってはいたが、それはそうとして、可愛い感じの「前髪を作った女子」に一度でいいからなってみたかったのだ。

しかし、私は「前髪を作ってはみたいが、でも絶対に似合わないに決まっている」と思っていた。
何故なら、何十年もそう言われ続けて、育てられたからである。
それは親の意見に他ならなかったわけだが、あまりにもずっと聞いてきた言葉であったため、私はそれを自分の意見であるかのように思いこんでいたのだ。

どうせ似合わないなら作らない方が良い、自分に合ってない髪型に無理にしたって恥をかくだけ、どうせ髪が伸びるまで親にも「似合ってない」と言われ続けるのだろうし、というふうに思って、私は前髪を作るのを諦めていた。

けれど、この髪型の何が嫌って、髪を耳にかけなければカーテンのように髪が顔の横でぶらぶらと揺れ、時に貞子のようになり、1つにまとめるとバレリーナのように隙のない、遊びのない「THE・顔」「顔only」みたいな状態になってしまうことである。
勿論似合う人はそれでいいのだろうが、私は特に美人でもなければ小顔でもないため、正面から撮影したポニーテールの写真なんて、スキンヘッドと大差ないだろうと思うくらい微妙な仕上がりになってしまうのだ(大きめの大豆か小さめのじゃがいもみたいな)。

しかも、私は生まれてこの方、髪を染めたことがない。
学生の頃は勿論カラーが校則で禁止されていたし、働き始めてからは業種的に黒髪が望ましいとされていた。
パーマはかけたことがあるが、なんせ不器用なため良い感じにセットをしたりアレンジしたりすることが苦手で、メンテナンスができずにやめてしまった(単純にぼさぼさになる)。
つまり、ワンレン黒髪ストレートという、本当に(美人しか似合わないような)飾り気のない髪型だったのである。

別に異性に向けて髪型を選んでいたわけではないが、いいなと思っていた男性に、「その髪型、なんか変だよ(笑)」と言われたこともある(これは今でも少し恨んでいる)。
まあ、男ウケはあまりよくない髪型だと思うし、気がキツそうなイメージも少しあるし、そう言われても仕方がない部分もあったと思う。
でも、「前髪のある女の子らしい可愛い髪型」は私には似合わないと思い込んでいたので、じゃあもうどうしたって駄目じゃん、どっちにしろ変になるんじゃんという気持ちでいっぱいだった。

そんな私がなぜ今回前髪を作るに至ったのかという話なのだが、1つ目の理由は、「もう親とも絶縁したのに、なにをまだ親の言いつけをきっちり守っとんだ」と思ったからである。
似合わないなら似合わないで、一度試してみてから考えればよいじゃないか、と。
やったこともないくせに、他人の言葉だけで「やめておこう」と思ってしまうのはあまりにも人生が勿体ないだろう!と思ったのだ。

2つ目の理由は、夫が「似合うんじゃない?作ってみたら?」と言ってくれたからである。
夫は女性の髪型や化粧に敏感な方ではないので、おそらく深く考えての発言ではないと思うのだが、かえってそれがありがたかった。
「絶対に似合うよ!」と力説されてもプレッシャーだったと思うし(言うて似合わないだろうと思っていた)、微妙そうな反応をされていれば前髪を作ることはやめていたかもしれない。
なので、「やってみたら?」と軽く背中を押してもらえたことが、実際に行動に繋がった要因と言えるだろう。

そんなこんなで美容室へ行くことを決意したわけだが、それでもまだ私の心の中には「まあ、似合わないだろうけど」という気持ちがあった。
20年以上に渡る洗脳・刷り込みは本当に根が深い。
似合わないだろうけれど、似合わなくていいからまあ、一度試してみるか。そんな気持ちで美容師さんに相談をしてみたのだ。
「前髪を作ろうかなって悩んでるんですけど、私、流行りの髪型とか、自分にどんな髪型が似合うのかがわからなくて・・・どう思いますか?」

なんともまあ、丸投げのような情けない相談である。
髪に関するプロであるところの美容師さんが「似合わないと思う」と言うようであれば、やっぱり諦めようかと思っていた。
顔の形的にこういう髪型がいいと思いますよ、だとか、前髪を作ると〇〇な感じになるから似合わないかもしれないですよ、だとか。
そういう言葉があれば引き返したいという気持ちも、心の中に残ってはいた。
腑抜けチキンである。

そして、美容師さんの返答はこうである。
「似合わないってことはないと思いますけどね。ちょっと切ってみましょうか」

そんなようなふわっとしたような受け答えで、私は「ああ、はい、お願いします」みたいなふうになって、その数分後に私の髪はしゃきしゃきと切り落とされ、生まれて初めての前髪が爆誕したのである。
美容師さんが私に似合いそうな雰囲気で整えてくれたのもあり、最終的にはシースルーバングで落ち着いた。
つまり、前髪の隙間から額が見えるくらいの薄い前髪であり、重すぎず、初めての前髪に相応しいライトな仕上がりとなったのである。

施術が終わった後に、鏡で自身の髪型を見て、頭をふりふりして正面の感じや斜め前から見た際の雰囲気を確認して、私が思ったことはこれである。

フフン、悪くないじゃない。

あれだけ似合わないと思っていた前髪だが、実際に作ってみると意外と似合うのである。
印象としては少しだけ幼くなったような感じで、でも重い前髪ではないため野暮ったくもならず、なんとなく、私が目指していた「可愛い女の子」のイメージに近付くことができたのである。

私は美容室からの帰り道、ちょっとだけいいヘアオイル(いい匂いのするやつ)を買って帰って、上機嫌で帰宅し夫の前でふりふりと頭を振った。
「見て!前髪!」
夫は相変わらず薄めの反応で、「いいじゃん」と返してくれた。
その後並んでソファに座っていると、こちらをちらっと見てにこにこしてくれることが何度かあったので、おそらく気に入ってくれたのだと思う。

翌日にはヘアオイルを毛先や前髪にくしゅっと馴染ませてみて、「いい匂い」「いいじゃん」「悪くないよ」などと鏡の前でにやにやして楽しんだ。
うん、案外、悪くない。
長年もやもやうだうだと悩んでいたことに、1つ結論が出て私はとても満足な気持ちになることができたのである。

別に前髪を作ったおかげで急激に可愛くなったということは全くないのだが、鏡でちょっとだけいい香りのする前髪を見る度に、「うふふ」という気持ちになれる。
前髪も、そんなふうに思える自分のことも、「悪くないんじゃないかしら」と思えたので、思いきって切ってもらってよかったなあと思った。

もしこれを読んでくれている読者の方のなかに、「こんな髪型にしてみたいけど似合わないだろうって言われた」「こんな服を着てみたいけど絶対変だよって笑われた」「こんな色遣いのお化粧をしてみたいけれど合わないでしょって否定された」という経験のある方がいる場合。
ぜひ、試してみてください。

いい結果になろうとなるまいと、自分で選んで自分の意志で試してみたことについては、「悪くないわ」あるいは「まあまあ、こんなものね」と納得できるように思う。
上手くハマった場合は、ラッキーでハッピーな気持ちになること間違いなしだ。

今回はそんなようなお話でした。
ではでは、今回はこのへんで。




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