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「知層」の話(長文)

愛知県尾張旭市のギャラリー、GALLERY龍屋さんでアートコンペ「タツコン超」が開催中です。
テーマは「魂(soul)」。
出展した絵は下のURLからご覧いただけます。
https://www.t2y.info/item01/20431.html

テーマが発表されたとき、このさい難しいことは考えず、好きすぎる石のことを描こうと決めていました。
鉱物と地層を題材に探究心と知識への憧憬を描いた絵になりました。
これらが私を今日まで連れてきてくれたことには違いないのです。

今日はこの作品「知層」のお話です。
いくつかのトピックに分けて、解説というほどでもないこの絵のあれこれを書きました。なんてったって超ですから超長いです。
目次をおつけしましたので、気になるところがありましたら、そこだけお読みいただくのがよいかと思います。



景観

モデルの石です

絵の景観は弊鳩が拾った石や標本屋さんでお譲りいただいた鉱物から造形を考えました。
特に画材として古くから用いられてきた雲母は、そのうすい結晶の重なりが地球の来歴を語る本のように思えて、この絵の大半を占めています。
ほか孔雀石、珪孔雀石、厚切りベーコンのような菱マンガン鉱など、層をなす鉱物をモデルにしました。
そこらへんに生えている水晶は、私が最も多く身につけてきた鉱物のひとつです。
水晶、遺跡から出てくるほどには人類との付き合いがもっとも永い石のひとつでもありますね。すばらしいですね(水晶が)。


鉱物

思い出せる限り、鉱物に最初に興味を持ったのは6歳のときでした。
博物館で紅色の水晶「ローズクォーツ」の標本を買ってもらったのが最初だったと思います。
それから10数年くらいの間、私にとっての鉱物は思い出の層の奥底に埋もれていたのですが、大人になってから、ある金物の製造過程を調べる中で鉱物の原石にたどりつき、気がついたら抽斗の中が石だらけになっていました。
知れば知るほどに生活のあらゆる場面で鉱物のお世話になっていない日などなく、誰かの「これなんだろう、調べてみよう」からの、連綿と続いてきた試行錯誤の積み重ねによって築かれたものなのかと思うとなんだか気が遠くなってきます。
手のひらにおさまる石は小さいですが、あまりに途方もなく、そして美しく、いつまでも興味を惹きつけてやまない存在です。ちなみに今日も1個拾いました。


化石

絵であることをいいことに、好きなもの埋めました

鉱物沼の入り口にさしかかるまでは、福井県に住みたいとゴネて親を困らせる程度に化石が好きで、小さい頃の夢といえば「化石を掘る人」でした。
この絵の地面=知層にはいろいろの化石が埋まっています。
というか絵の世界なので好きな化石埋めました。
恐竜の骨、貝類、始祖鳥みたいなやつと…画材…おっと誰か来たようだ。
昔からなんだかよくわからないものを拾っては、これなんだろう?を続けてきた結果がこの絵です。
本を読むのと化石を掘るのは、なんだか似ていると思いました。


人物

大変身

このまるい頭の人物はもともと過去のタツコンで描いていた人物と同じです。
以前はもっとずっと具体的に描いておりましたが、もう少し見る人の捉え方に振れ幅を持たせることができないかと、いろいろ描いた結果がこの丸です。
この人物は見たことのない色彩を探してあちこちをウロウロしています。
もし見かけたらよろしくお願いいたします。


夜空

ビームじゃないとこです

この絵の空間は地下ですから、見上げたら地面の裏側が見えると思います。
地底の空ということで青金石(ラピスラズリ)をモデルにしました。
青金石といえばアフガニスタンのバダフシャン県のものが特に有名ですが、この作品に使用したウルトラマリンはまさにその地の石から伝統的な方法で抽出された顔料で、いわゆる本瑠璃です。
使用画材に「顔料、アラビアガム」とあるのは主にこの部分をさしています。
顔料は絵の具の色の素で、アラビアガムは、絵の具の素を紙に定着させる糊の役割をするものです。初めて自分で絵の具を練りました。
石に話を戻しまして、この石は黄鉄鉱という金色の鉱物とよく共生しています。
それがまるで夜空のようで、いつか青金石の青色で架空の夜空を描いてみたいなあと思っていました。今回形にできてよかったです。


光彩

なんやかんや光ります

この絵は静かですが、とてもよく光ります。
地底の星の金色、雲母の真珠光沢は自然光で輝き、ヘッドライトと地底の入り口は光をためて暗闇で光ります。
暗くして初めて光っているとわかるのです。
紫外線(ブラックライト)下で人物も光ります。
オレンジと黄色が入るとなんだか工事現場に見えますね。


画材

イラストボードに顔彩(日本画材料のひとつ)と、顔料をアラビアガムと水で練ってつくった絵の具で描いています。いずれも日本製です。
(顔料とアラビアガムについては「夜空」のトピックを参照してください。)
顔彩は今まで使ってきた画材の中で最も地面らしい風合いだったり、昔の人が見ていた色と近いものがあったりで2021年くらいからよく使うようになりました。
辰砂、白緑、緑青、群青は特に好きです。
今までついグラフィックペンを併用していましたが、今回は使いませんでした。


構造

額とマットと原画といういつもの構造ですが、普段は省略するマットの下にも絵が描いてあります。
なんてったって、地層ですからね。
(誰か「そうか」って言って。)
Webギャラリー開館中か、お求めいただいた方は常時全層ご覧いただけます。


題名

タツコン超の前夜祭的展覧会「タツプレ」で「深海アドベンチャー」「氷海アドベンチャー」を発表していたので、直近までは題名を「地底アドベンチャー」にしようと思っていました。

左が深海アドベンチャーで、右が氷海アドベンチャー。

描いている間に石と知識を繋いできた人たちの、試行錯誤の積み重ねを意識せずにいられなくなり、知識の知と地層をあわせた造語「知層」としました。地層より画数少なくていいですね。


知層

私にたくわえられた知識は
最初にそれを知った遠い人
その人から教わった人々が
魂をつなげて伝えてくれた
時間の重なりの上にあって

足元にころがる石や葉や羽
これらを素敵だと思うのは
遠いたくさんの人の誰かが
その輝きを奥底まで調べて
私に教えてくれたからです。


この絵のお話はここでおしまいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

展覧会概要

★GARELLY龍屋20周年企画展 タツコン超
会期:2023/12/9(土)〜2023/12/23(土)
   11時〜18時 会期中無休
場所:GALLERY龍屋
   愛知県尾張旭市柏井町公園通542

展覧会詳細
https://www.t2y.info/exhibition01/18322.html
作品一覧
https://www.t2y.info/artist01/19954.html
遠隔投票フォーム
https://www.gt2yvote.com/

★この展覧会はお好きな作品に投票することができます。
 私はNo.80で参加しています。
 200点の中から選ぶのは大変と思いますが、
 もしお時間ありましたらご参加ください。
★投票の際は必ず4作品(4作家)選出してください。
 3名以下ですとせっかく投票いただいても
 無効票となってしまいます…なにとぞ4名でお願いします。


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