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【読書メモ】今週読んだ5冊


『成瀬は天下を取りにいく』宮島 未奈 


「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。
各界から絶賛の声続々、いまだかつてない青春小説!
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。

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・2020年の夏から始まるポストコロナ作品。これからこういう設定の作品が増えるよ。
・「ローカル局の夕方のワイドショーの中継で映る」という、一見しょうもないことを夏休みの目標に掲げる親友の成瀬。彼女の行動に付き合うことになる島崎はしかし、意外とノリノリなのであった。地元に百貨店を建てる、200歳まで生きるなどの目標も掲げる唯我独尊の女の子が振りまく「おかしみ」に元気づけられる一冊。
・途中でヘテロフラグ的なものが立ったけど、最後にはヘシ折られたのでよかった。続編もあるので油断はできないけど。
・親友の女の子・島崎との強いようで脆く、けれども決して切れない絆がアツい。学生の身だから親の都合で引っ越すこともある。けれども絆は消えない。
・百貨店の閉店カウントダウンに毎日立つ、という奇行を女の子がやっているのが良い。フィクション作品で面白系の行動をやらかすのは男の子の方が多いので。
・「ローカル局のワイドショーの中継」という、一見あんまり面白味のなさそうな題材に目を付ける着眼点がすごいなーと。普段から色んなものにアンテナを張ってるんだろうね。

『石の繭 警視庁殺人分析班』麻見 和史


モルタルで石像のごとく固められた変死体が発見された。翌朝、愛宕署特捜本部に入った犯人からの電話。なぜか交渉相手に選ばれたのは、新人刑事の如月塔子だった。自らヒントを提示しながら頭脳戦を仕掛ける知能犯。そして警察を愚弄するかのように第二の事件が――緻密な推理と捜査の迫力が光る傑作警察小説!

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・犯人から捜査本部に直接電話が掛かってくる。現実世界ではまずあり得ないけど警察モノだと日常茶飯事レベルで起こる珍事。本作も「犯人からの電話」が重要なシーンとなっており、いつキレるか分からない犯人との対話は手に汗を握りながら読んだ。
・主人公は新人の女性刑事。男社会の警察組織だからこそ、女性主人公の警察モノは案外多いように感じる。男性主人公はそれ以上に圧倒的に多いのだけれど。
・犯人の正体が半分ぐらい読んだところで判明する。ちょっと早くない? しかも、こういう物語の途中で犯人と目される人物って後半になってやっぱこいつは犯人じゃなかったってなることが多いんだけど、本作はそういうどんでん返しも無いままマジでそいつが犯人。犯人の正体ってサスペンスの物語を読ませるために終盤まで引っ張るものだと思ってたから、むしろ新鮮に感じた。

『86‐エイティシックス‐Ep.4 ‐アンダー・プレッシャー‐』安里 アサト 


二人の奇跡を歯牙にもかけず。戦争は続く。ただひたすらに。
 ついに運命の再会を果たしたシンとレーナ。どことなくいい雰囲気を醸し出す二人に、フレデリカとクレナは戦慄し、そして気を揉むライデンらの苦労は留まることを知らない。
 しかしそんな束の間の休息を破り、レーナを作戦司令とする新部隊に初任務が下った。 共和国85区内北部、旧地下鉄ターミナル。地下深くに築かれたレギオンの拠点が、その口をあけて彼らを待つ。
 そこに見えるのは闇。レギオンの、共和国の、そして彼の国が虐げた者たちの、闇。
 シンとレーナ、二人の共闘を描く『Ep.4』登場!
 “地の底からの呼び声が、彼らに新たな試練を告げる。”

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・題材としての差別の扱い方がなんか軽くてヒヤヒヤするラノベ。1巻の感想はこちら。https://note.com/7tsubaki3/n/n1db47a5e3ce7
・「差別と戦えと言うのは、被差別者にもう一度傷つけと言うようなものだ」という趣旨のセリフがある。本作において「86」と呼ばれる人々は差別により限界まで傷つけられてきたので、何も感じなくなっている。このうえ更に傷口に塩を塗るつもりか、という。いや、そういう時のために非当事者が声を挙げる必要があるのでは? 
・差別大国である共和国は86たちを人権のない「豚」と呼ぶ一方で、86たちも意趣返しとして共和国市民を「白豚」(白い肌と髪をしているため)と呼ぶ。どちらも相手を話の通じない相手とするニュアンスを含むが、「白豚」のほうは差別とは違う、という記述があったのは好印象だった。被差別者が何か言い返すと「逆差別だー!」と謎概念を持ち出して反論のつもりの詭弁を言い出す輩が多いからさ・・・。
・被差別者も差別者に対してコミュニケーションを断絶しており、そのことは作中で批判されない。これも良いと思った。「話し合えば分かるよ!」と被差別者に対して差別者とのカッコ付きの「対話」を求めるのも立派な暴力なので。
・主人公とヒロインが1巻の最後で離別して、2巻と3巻はそのまま進んだのでもう少し引っ張るかな~、と思ったら早くも4巻で再会。そうね、あまり引っ張ってもじれったいし。

『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第二部「神殿の巫女見習い1」』香月 美夜 



洗礼式を終えた少女・マインは巫女見習いとして神殿の仕事を開始する。そこには図書館と大量の本が待っていた! 待望の状況だが、周囲は貴族出身者ばかりで、貧民出身のマインには戸惑うことばかり。おまけに身体も弱く……が、持ち前の「本への愛」を武器に、巫女の仕事に奔走する! 大人たちに負けるな! 待望の「ビブリア・ファンタジー」第二部開幕!!

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・いわゆる異世界転生系。タイトルでは分かりにくいけど第4巻。
・主人公の行動原理が「本が好き」という極めてハッキリしているのでストーリーが分かりやすい。今回は神殿に巫女として入ったけれど、その目的は神殿内にある図書館に入るため。そのためなら神殿内のしがらみや問題も解決してみせる。
・神殿や教会などの宗教組織はクロ。異世界ファンタジーあるある。本作では環境が最悪な孤児院を神殿が抱えているという展開があり、それを主人公が解決していくことになる。理由は「隣で飢え死にしそうな子どもがいては落ち着いて本が読めないから」という。うーん、ブレない。
・サブキャラがほとんど男性で、主人公に絡む女性キャラはほんの僅か。世の中における男性主人公作品では、女性キャラ同士の関係性の薄さが指摘されることがある。せっかくの女性主人公モノなのに同じことをやってどうする。まだ4巻なのでこれからあるのかもしれないけど。
・異世界転生だけどチートではない。転生先の現地人にマウントを取るような展開や目線も無いので、そういうものに不快感を覚える人でも安心して読める。

☆おすすめ!『安達としまむら』3巻 入間 人間 


2月4日、バレンタインデー10日前。放課後に二人で出かけたモール内のドーナツ屋の前で、安達が聞いてくる。 「14日に、しまむらはなにか、用事ありますか?」 「ないですけど」 「ないなら、14日に、遊ぼうという……」 鼻の上に加えて、手の甲まで真っ赤に染まっていた。そんな安達の決意や覚悟に感心して、私はこう応える。 「いいよ。今年はバレンタインをやっちゃおうか」 2月14日までの10日間。安達のどきどきな10日間が、しまむらの日常に彩りを与える。そんな二人のお話。

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・Audibleで再読。しっとりとした雰囲気の朗読で原作の雰囲気が3割増しにヒシヒシと感じられてオススメ。しかも安達役としまむら役で朗読者が二人ついている。Audibleでは一冊につき朗読者ひとりが普通で、二人以上つく場合は主人公が男女ふたりなので男性朗読者と女性朗読者であることがほとんど。なので、二人とも女性朗読者のAudible作品は珍しい。Audibleで250冊以上聴いている身として断言します。あだしま、人気なのね。
・安達の想いとしまむらの気持ちが交錯するバレンタインデー編。女の子が女の子を好きになることの感情の機微がものすごく緻密に描かれていて、百合小説の感情描写として参考になる。
・誰かを好きになるって、とんでもないことなんだなぁ。と、しみじみ思う。誰かを好きになると、良くも悪くも変化せざるを得ない。それこそ、初期はクール系だった安達がわたわた系にキャラ変するくらいには。
・女の子が女の子を好きになったり、女子同士で手を繋ぐことを「普通じゃない」とする描写がある。この辺はまだ時代を感じる。本作の発売日は2014年、百合ジャンルでは10年前でもすでに「時代を感じる」のです。セクシャルマイノリティ描写の変化の影響を直接的に受けるジャンルなので、最近では「女の子同士なのにこんなことおかしいよ・・・」というのはめっきり見なくなりました。
・しまむらの本名が判明する回。お母さん、何を思ってその名前にしたの。




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