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【読書メモ】今週読んだ3冊


『アンデッドガール・マーダーファルス』3巻 青崎有吾


村人が次々喰い殺され、闇夜に少女が連れ去られた――犯人は人か、それとも狼か?
〈牙の森〉の謎を追いドイツへ向かった〈怪物事件専門の探偵〉真打津軽たち、鳥籠使い一行が遭遇したのは、人狼にまつわる怪事件だった。犯人は人か、それとも狼か?
怪物たち〈夜宴〉と保険機構〈ロイズ〉も介入し、やがて舞台は人狼の隠れ里へ。満月の夜が戦乱を呼び、二つの村がぶつかり合おうとしたそのとき、輪堂鴉夜の謎解きが始まる。ミステリと冒険が入り乱れる予測不能の笑劇(ファルス)、第三弾!

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・1巻は吸血鬼やフランケンシュタインの怪物がトリックに関わってくる特殊設定ミステリ。2巻は一転してトリックに怪物が関わらない王道ミステリ。では今回は? 
 結論を言うと、再び怪物の能力を活かしたトリックだった。
・今までは事件の真相が明かされた後にバトル展開が始まる、ミステリパートとバトルパートの二部構成だった。けれど今回はバトルが始まっても事件の真相は明かされず、ミステリとバトルが並行して進む構成となっている。3巻になって展開に変化を加えてきた。続き物のミステリの天敵はマンネリだけど、物語構成を上手く変えていくことで回避している。
・冒頭で主人公が列車強盗の集団を一人で全滅させるシーンを挿入することで「本作の主人公はこれくらいの強さで、この程度の身のこなしができます」という説明を読者に対して行なう。「もう3巻だし、主人公の強さはみんな知ってるよね?」みたいに強さ描写を省略することはない。
・「屈強な黒人のオネエ」というカリカチュアの二乗みたいなキャラが登場する。ここまで思い切っていると逆に受け入れられるような気が・・・、しないか。
・ロンドンを舞台に繰り広げられるルパンVSホームズVS主人公というエンタメ色が強くて明るい雰囲気だった2巻と比べて、今回は連続殺人に加えて「因習村」的なストーリーとなっており、重くて暗め。
・非百合作品で主人公たちヘテロ(異性愛)CPの添え物みたいに扱われる「百合キャラ」を見るたびに、心のどこかが少しずつ死んでいく気がするんです。グサッとなって、ピリリとするんです。本作もそう。ヒロインのお付きのメイドがヒロインのことが大好きなんだけど、ヒロインとくっついてるのは主人公の男。グサッ、ピリリ。グサッ、ピリリ。悲しいね。
 その一方で、作者はあるインタビュー記事で百合が好きなことを公言していて、百合ラノベの名作『安達としまむら』がものすごく好きとも言っている。さらに『彼女。』という百合小説アンソロジーに寄稿もしているので、 考えなしに「百合キャラ」を登場させたとは思えない。少なくとも、百合が好きでもないくせにコッテコテの「百合キャラ」をキャッチーな当て馬としてお出しするような誠実さのカケラも無いタイプではないと思う。今回のストーリーはシスターフッド的なものを感じたし。

『三体II 黒暗森林』上・下 劉 慈欣 (著) 大森 望 (訳) 立原 透耶 (訳) 上原 かおり (訳) 泊 功 (訳)


人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が宇宙に向けて発信したメッセージは、三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、地球へと送り出す。太陽系到達は四百数十年後。人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決という未曾有の危機に直面した人類は、国連惑星防衛理事会(PDC)を設立し、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設する。だが、人類のあらゆる活動は三体文明から送り込まれた極微スーパーコンピュータ・智子(ソフォン)に監視されていた! このままでは三体艦隊との“終末決戦”に敗北することは必定。絶望的な状況を打開するため、前代未聞の「面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)」が発動。人類の命運は、四人の面壁者に託される。そして、葉文潔から“宇宙社会学の公理”を託された羅輯(ルオ・ジー)の決断とは? 中国で三部作合計2100万部を突破。日本でも第一部だけで13万部を売り上げた超話題作〈三体〉の第二部、ついに刊行!

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・異星人の武装勢力を地球に呼んでしまい、400年後に襲来する話。四世紀にわたる長い戦時下が始まる。
・400年後に人類が滅ぶとしたら、あなたはいま何をするだろう。本作では多くの人類が当事者意識を持って人類の危機に備え始めるけど、現実で起こったらそうはならないだろうなと思う。気候変動で地球がヤバイ! ってなっても「関係ないしー」「地球が壊れる時にはオレ死んでるしー」みたいな人が大勢いるので。
・異星人の勢力を撃退するために核爆弾を抱えて特攻するというトンデモ作戦が立案される。作戦に参加する人員を募集するために、自己犠牲の精神を人々の間に広めるべく神風特攻隊やアルカイダの精神を復活させるというこれまたトンデモ発想が生まれる。なかなかスパイスの効いたSFである。
・語り口は淡々としていて感情的な描写は抑えられている。どれだけえげつない敗北シーンでも、あくまで淡々と事実が描写される。暗いシーンのしみったれた雰囲気が嫌いな人でもサクサク読めてオススメ。
・地球のあらゆる情報を偵察できる異星人に対抗するべく、人類は4人の救世主を選んだ。人間の頭の中までは覗けないので、いち個人の頭の中だけで異星人の迎撃作戦が立案される。さながらSF世界に降り立った選ばれし勇者だけど、全員男性なのはバランス悪くない? そのことに作中で何のツッコミもないし。
・「敗北主義」という東側っぽい言い回しがたびたび出てくる。この言葉って今でも使われるんだろうか。

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