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【読書メモ】今週読んだ2冊



☆おすすめ!『同志少女よ、敵を撃て』逢坂 冬馬


・本当の敵を見抜き、殺す話。
・独ソ戦を舞台に女性狙撃手部隊の戦いを描く。本作の物語自体はフィクションだけど、女性兵士は当時のソ連に実際にいた。
・Audibleで再読。朗読の演じ分けがめちゃくちゃ良い。
・戦争では人間の尊厳が損なわれる。そのなかでも特に傷つけられるのが女性だ。戦時下の性的暴行は枚挙にいとまがない。本作の主人公の少女、セラフィマはその戦争のなかで「女性を守る」ために戦うことを決意する。
・女性兵士は味方の男性兵士からも疎まれて奇異の目で見られる。味方のはずなのに仲間意識を持たれない。軍隊ってホモソーシャルだからね。
・ヘテロフラグが完膚なきまでに粉砕されるところが見たい人は読もう。「これ絶対ヘテロエンドになる流れでしょ」と思われていたのがバッサリ断ち切られて百合エンドになるので。
・女性の集団が主人公の作品において鬱陶しいのは、主人公たちをやっかむクソ男よりもむしろ主人公たちを理解してくる「いい男」だと思ってるので、あのラストは本当に胸がすいた。
・「わあ、綺麗な子・・・」から始まる百合。ただし主人公が村を焼かれる場面で。ナチスに襲われて壊滅した村を焦土作戦で焼き払う部隊に属する女狙撃手に、主人公がある意味一目惚れする。村を焼いた仇をこの手で殺すために兵士として殺人の腕を磨く。つまり殺伐百合な始まり方をする作品だけど、最終的には殺伐成分が抜ける。なので殺伐百合を期待して読むと肩透かしを食らう。
・戦争のリアルを描くので戦線で性的暴行が行われていることを示唆する描写があるけど、主人公たち百合メンバーがひどい目に遭うことはない。
・ジャンルはシスターフッド百合。男が始めた戦争の男ばかりの戦場で、女たちが手を取り合って敵に立ち向かう。熱い。とてもアツい。恋愛要素は最終的には匂わせ程度にはあったけど、明言はされず。でもヘテロ要素はほぼ皆無の良い百合です。オススメ。


『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ アレクシエーヴィチ (著) 三浦 みどり (訳)


・歴史。それは男の口から語られる、男の物語。本書で語られるのは、女たちの戦争。
・独ソ戦で軍隊として戦った女性兵士や女性看護師の話をまとめた名著。戦争が語られる時は必ずといっていいほど男性視点になる。だけど本書は語り手を女性に絞り、これまで語られなかった視点から戦争の現実を書く。
・下着が男用しかなかったり、生理用の脱脂綿すら無かったりと、配給物ひとつ取っても戦争は男のものとしてデザインされている。男性しか想定せずにデザインされたところへ女性が行くと、必ずエラーが起こる。女性が不利益を負う形で。もちろん悪いのは女性ではなく、人類の半分を占める女性を想定しなかったデザインのほう。これは現代でも社会のあちこちで見られる現象だけど、戦争ではそれがより顕著に現れる。
・女性兵士と出会った人は、男性も女性も必ず驚く。例外は無い。
・「家庭に入って妻となり、母となることが女らしさ」という価値観が多くの元女性兵士にあるのは、時代とかモロモロの事情によってある種仕方ないといえる。
・戦争の記録でこういうことを言うのは不謹慎かもしれないけれど、戦場の日常をリアリティあふれる語りで知ることができて、非常に面白い(interestin)一冊。
・語られる内容は物語のように整理されているものもあれば、唐突に始まって唐突に終わるものもある。体験とはそういうもの。ましてや戦場の日常にみんなオチが付いているわけじゃない。小説のような起承転結がある物語を期待して読むと拍子抜けするかもしれないけれど、逆にリアリティある語りを聞きたい人にはオススメ。
・戦争の記録に個人の感情や想いは決して載らない。いち兵士の感情、それも女性という記録から真っ先に排除されるであろう語りを山ほど読める、非常に貴重な一冊です。

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