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【読書メモ】今週読んだ6冊


『こうして彼は屋上を燃やすことにした』カミツキレイニー


「他に好きな人ができたんだ」
「い、嫌だっ」
彼氏のアメくんにフラれて生きる希望を失った私は、衝動的に学校の屋上へと向かう。身を投げるために。
けれどそこで私は、「ライオン」「ブリキ」「カカシ」と『オズの魔法使い』になぞらえて呼び合う奇妙な3人と出会う。みんな私と同じように死にたいと思っていて、だけど3人は「復讐してから死ぬんだ、あなたもそうしませんか」なんてあっけらかんと言う。拍子抜けして、自殺する気がしぼむ私。そして、アメくんとの思い出に彩られていない唯一の場所である屋上へと、日々、私の足は向くことになる――。
「独特の空気感を纏ったジュブナイル小説(あえてライトノベルとは呼びません)。オズの魔法使いに登場するキャラクター名で記号的に呼び合う仲間たちの物語なので、その空気が後半まで壊れない。そしてそれを壊す時=その隠されていた登場キャラクターの名前が一気に明かされるシーンは、鳥肌モノでした」と『CLANNAD』『AngelBeats!』の麻枝准氏が賞賛した、第5回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作。誰もが経験する恋愛の痛みを、こぼれ落ちそうな思春期の内面を描き切った、青春小説。

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・致死念慮マシマシの、湿度高めの青春モノ。メインキャラがみんな自殺を考えているという、なかなかな設定。
・ラノベとしては珍しく女性主人公。異性愛要素もあるけど、物語の展開としては男女の友情作品といった方がいい。男女の友情が好きな人にオススメ。
・雰囲気は全体的にやや重めで、いじめや依存といったいかにも重いテーマが扱われるけど、最終的にはさわやかなハッピーエンドです。
・後半まで引っぱっていた物語上の謎がアッサリと、本当にアッサリとメインキャラの口から明かされる。そこはもう少し、主人公が頑張った結果として明かされるといったヒネリが欲しかった。
・主人公が夜にほとんど眠れない不眠設定があるんだけど、物語場でほとんど活かされていない。本格ミステリじゃないので提示した設定を全て活用しなければいけないというわけでもないけど、後々の展開で不眠が影響してくるのかと思ったので拍子抜けした。
・自殺・致死念慮の扱いが軽すぎるように感じる。幸運にも私は死にたくなったことがないのだけれど、自殺を考えたことのある人、現在進行形で考えている人が読んだら凄まじくイラッとするかも。

『夢探偵フロイト マッド・モラン連続死事件』内藤 了


“人を殺す悪夢”の正体に挑むミステリー。
 ある会社員が、自宅マンションから謎の飛び降り自殺をした事件。ネットのオカルト板で、彼が見ていたのと同じ“悪夢”を繰り返し見る人がいる、という噂が広まる。森の中を逃げ回り、得体の知れない怪物に襲われる――
 私立未来世紀大学の夢科学研究所。夢の研究をするフロイト教授と、彼の右腕であるCGクリエイターのヲタ森、彼らの助手をすることになった学生のあかねは、この悪夢の情報を募集する。同じ悪夢に悩まされているという美女・音羽楓花は、ヲタ森が再現した夢のVR映像を見ると恐怖を感じた様子で、行方不明になってしまう。
 <MUD MOLAN(マッド・モラン)>――フロイトがそう名付けた夢の中の怪物。それを見る者は次々に謎の死を遂げていて・・・。フロイト達は“人を殺す悪夢”の正体に迫っていく。
 大ヒットした『猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子』シリーズで熱狂的に支持される著者による渾身の新シリーズ始動!! 夢を切り口に怪事件に挑む前代未聞のミステリー(2018年2月発表作品)。

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・夢と現実、非科学と科学が交差する新感覚な感じのミステリ。
・物語構成は従来のミステリとは一線を画す。まず、事件が半分ぐらいまで読み進めないと起こらない。そして、事件が起こって犯行を推理して「お前が犯人だ!」という感じでもない。一定数の人々が共通して見る悪夢があり、そこから得られる情報から現実世界で過去に起こった出来事を推理して、少しずつ外堀を埋めていって真相を明らかにする。設定は斬新だけど、捜査は至って地道に進む。
・ちょっと変わったミステリが読みたい人向け。
・メインキャラは女性主人公と男性キャラ二人の構成だけど、いまのところ(異性愛)恋愛要素は無いのでストレスフリーに読めた。今後の展開であるかもしれないけれど。


『化物語』上・中・下 西尾 維新


大人気<物語>シリーズ第一作、電子版オリジナル3分冊で登場!阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった――!?青春に、おかしなことはつきものだ!

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・1年前ぐらいに読んだけれど、中巻で「男主人公のヘテロラノベに出てくる百合キャラ」をお出しされてこいつは無理なやつだと思い、一度は読むのを断念する。けれど、それはそれで反面教師として参考になるのでは? と思って再び最初から読み始める。
・本作を読もうと思ったきっかけは、むかし大好きだったとあるWEB小説がファンから「文体が西尾維新に似ている」と言われていたから。今ではその小説サイトは閉鎖されて読むことが叶わなくなったので、せめて文体だけでも似ている人のものを摂取しようと本作を手に取った。
・なのだけど、文体がくどい。その文章もうちょっとシュッとできたでしょ! 今の描写いる? というのが定期的に訪れる。「今日は母の日だ」と一言書けばいいところを「今日は全国的に母の日だった。お母さんが好きな人でも嫌いな人でもお母さんと仲がいい人でも仲が悪い人でも日本国民ならば、誰もが平等に享受することになる」となる。どのへんが文体が似てるのさ。あのWEB小説の作者さんはもっとスッキリとした文章だったぞ。
・これはシリーズファン向けの情報だけど、Audible版の上巻は神谷浩史さんが朗読する。そのため、戦場ヶ原ひたぎ(CV.神谷浩史)、羽川翼(CV.神谷浩史)、八九寺真宵(CV.神谷浩史)が聴ける。かわいいよ。
・出場選手紹介と言わんばかりに、各ヒロインとの馴れ初めを毎回描く連作短編方式。最初から全員出てきたら混乱するだろうから、まずは一人ずつ登場させて「この子はこれこれこういうキャラです」と説明する。登場人物が多い作品って大変ね。
・自分が付き合ってる女に想いを寄せる女が出てきた時点で大人しく身を引くことができない男に、主人公が務まるとは思えないのだけど。
・ヘテロラノベで「百合キャラ」が「百合っ子ちゃん」というあだ名で繰り返し呼ばれるのが凄まじくイヤ。なにか大事なものが棄損されている気がする。
・そして「百合キャラ」なのに、どういうわけか主人公の男にデレ始める。      
 うん。

 知 っ て た


☆おすすめ!『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』宮澤 伊織


季節は、やがて冬へ。閏間冴月を信仰する団体による襲撃ののち、拠点となっていた〈山の牧場〉を調査する空魚と鳥子たち。裏世界はいまだに危険な謎だらけ、でもだからこそ未知の探検の魅力にも満ちている。それぞれの想いが深まるなか新たな怪異が――ここから先はもう戻れない、女子ふたり怪異探検サバイバル!

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・百合SFの金字塔、神回の第4巻。
・裏世界の情景描写がシュルレアリスムの極みという感じで非常に読み応えがある。シュルレアリスム、つまり「シュール」を単に「異様」という意味で使っている人をよく見るけれど、本来のシュールは現実離れしながらもどこか現実味を帯びている、そういう一見して矛盾しているような魅力を秘めている。

二階のいちばん手前の部屋からは、遊園地の廃墟のような場所に出た。観覧車のような構造物があったから遊園地だと思ったのだけれど、近付いてみると鉄骨にぶら下がっているのは大きな石の塊だった。周りの遊具のようなものも錆び付いてボロボロで、もし新品のときがあったにしても、人間が遊ぶ方法がなさそうな形をしていた。

『裏世界ピクニック4 裏世界夜行』kindle版 位置No.674

・鳥子と一緒に温泉に入る展開で、こういうセリフがある。
「なんでそんなにそわそわしてるんだ。おかしいだろ、ただの風呂だぞ!」
 ここで「おかしいだろ、女同士だぞ」と言わないのが好き。
・個人的最恐の『招きの湯』が収録されている巻。全裸の時に怪異に出くわしたくない。
・個人的神回の『裏世界夜行』も収録されている回。主人公・空魚とヒロイン・鳥子の関係性のターニングポイントとなる展開がある。毎年クリスマスイブになると「裏世界夜行を読もう」とオススメする人が出現するとの噂ですよ。
・鳥子の感情に気付きつつも、まだ向き合わない空魚。けれども距離は縮まっていき、少しずつ関係性が変わっていく。最新刊でのこの二人の関係性を知っていると、さらに微笑ましく見守りたくなる。好きな女との関係に心を砕く女っていいよね。女同士の関係性に真剣な小説は、こちらも真剣に応援したくなる。
・チョイ役のPMCにもさりげなく百合を差し込む宮澤先生の信頼感よ。


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