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【読書メモ】今週読んだ5冊


『タイムマシンに乗れないぼくたち』寺地 はるな


人知れず抱える居心地の悪さや寂しさ。
そんな感情に寄り添い、ふと心を軽くする物語

「コードネームは保留」
楽器店で働く優香は、人知れず“殺し屋”の設定を生きることで、
味気ない日々をこなしていた。

「タイムマシンに乗れないぼくたち」
新しい街に馴染めない「ぼく」は、太古の生物が好きで、博物館が唯一落ち着く場所だった。
ある日、博物館で“現実逃避”をしているスーツ姿の男性と出会い――

「夢の女」
死んだ夫のパソコンに残されていた小説原稿。
それは、夫と「理想の女」が主人公のSF小説だった。

「深く息を吸って、」
息をひそめるように日々を過ごすかつての「きみ」に、私は語りかける。

「対岸の叔父」
町いちばんの変わり者、それがぼくの叔父さんだった。

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・主人公の女性がぶつかりおじさんに遭遇して、会社でそのことについて話していたら男性の上司が「そいつも寂しいんだろう」と擁護するようなことを言うシーンがある。そのことに対して「自分のさびしさのために、他人に危害を加えてはならない」と主人公が独り言ちるシーンが印象的。
・もし、あなたがさびしくて苦しいなら、ただ横に並んで同じ方角を向いてくれる。そういう一冊。
・「女としての幸せ」を押しつけてくる家族、嫌なひそひそ話や目くばせをする同僚やクラスメイト。そんなこんなに押しつぶされそうな主人公たちと一緒に孤独になれる。
・寂しさを捨てて、孤独と仲良くなれる。この本がくれるものは、勇気と呼ぶには大げさすぎる。もっと些細で日常的で、けれども隣に立って黙って同じ方角を見据えてくれるような、やけに暖かくて心が満たされるもの。
・「灯台」という話で百合フラグ的なものが立って速攻で折られるのだけはいけ好かないと思いましたわね。

『ST 警視庁科学特捜班』今野 敏 


能力抜群の5人のスペシャリストの見事な捜査、ここに始まる! 
ST初登場編新装版。多様化する現代犯罪に対応するため新設された警視庁科学特捜班、略称ST。繰り返される猟奇殺人、捜査陣は典型的な淫楽殺人と断定したが、STの青山は1人これに異を唱える。プロファイリングで浮かび上がった犯人像の矛盾、追い詰められた犯罪者の取った行動とは。痛快無比エンタテインメントの真骨頂!

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・「赤」「黒」「青」「緑」「山吹」が入った名前の5人組からなる科学特捜班が主人公。なんだか特撮ヒーローみたいね。
・5人組の紅一点の女性キャラ(紅一点だけど「緑」)があからさまなセクシー要員なのは、いかにもおっさん向け~!って思った。
・特捜班が「一匹狼」「武道家」「イケメン」「セクシー女」「お坊さん」とみんなキャラが立っており、だいぶエンタメ色の強い警察小説。悪く言えばB級。硬派な作品を求めている人には向いてないかも。
・「ロク=死体」「吉川線=絞首死体の首筋に見られるひっかき傷」など、警察小説初心者にも分かりやすい用語解説があるのが嬉しい。
・女性のレイプ&惨殺体が連続して発見される事件なので、だいぶしんどい。
・聞き込みの最中に聞き込み相手の女性キャラの胸が大きいことを、特に物語上の必然性なくやたら強調する描写が入る。いや、いまその描写いらんだろ。

『魔眼の匣の殺人』今村 昌弘


あと二日で、四人死ぬ――
閉ざされた“匣"の中で告げられた死の予言は成就するのか。
ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ待望の第二弾!
その日、“魔眼の匣"を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。

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・「本格ミステリ×ゾンビパニック」という異色の組み合わせだった一作目に続き、本作は「本格ミステリ×予言」。前作はゾンビという非現実的な要素がトリックに深く絡む特殊設定ミステリだったけど、今回はトリックに限って言えばオーソドックス。非現実的な要素を加味しなくても推理できるので前作よりも硬派寄りになった印象。
・トリックに直接関わってはこないけれど、動機の面で予言が深く関わってくる。なるほどそういう感じで特殊設定を活かすのね。
・今回も登場人物の分かりやすい覚え方を提示してくれるので、キャラの名前を覚えるのが苦手な身として助かる。軽薄なライター→臼井頼太(うすいらいた)など。
・クローズド・サークルの殺人ミステリ。他のミステリと一線を画すのは、この物語で何人死ぬかが最初に示されること。男女ふたりずつ、合わせて四人。予言は絶対であり覆ることはない、というルールのもとに事件が進行する。自分以外の同性がふたり死ねば自分は助かるという暗黙のルールのもとで。

『逆ソクラテス』伊坂 幸太郎


逆転劇なるか!? カンニングから始まったその作戦は、クラスメイトを巻き込み、思いもよらぬ結末を迎える(逆ソクラテス)。足の速さだけが正義……ではない? 運動音痴の少年は、運動会のリレー選手にくじ引きで選ばれてしまうが(スロウではない)。最後のミニバス大会。五人は、あと一歩のところで、“敵”に負けてしまった。アンハッピー。でも、戦いはまだ続いているかも(アンスポーツマンライク)。など短編全5編の主人公はすべて小学生。デビュー20年目の新境地ともいえる本作は、伊坂幸太郎史上、最高の読後感! 2021年本屋大賞第4位。柴田錬三郎賞受賞作品。

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・小学生が主人公の短編集。大人も楽しめる子どもの物語です。
・いわゆる「スカッとジャパン」みたいな、ムカつくキャラに一杯食わせてやる展開がほぼ毎回ある。その点は好みが分かれるかも。
・友達を救うためにドローンが必要になる展開があり、その入手方法がゲームセンターのクレーンゲーム。クラスのクレーンが得意な子にお願いして取ってもらうのがすごく小学生っぽい。こういう小学生の目線に立った話を大人が書くことは案外難しい。自分が子供の頃なんて大半は忘れているものだし、そもそも自分の小学生時代と今の小学生とでは環境が全然違うし。伊坂幸太郎が子供の頃にはドローンなんてなかった。
・「悪いことをした人にもその後の人生がある」「昔話みたいに悪人を退治しておしまい、とはいかない」というメッセージが物語の根底にある。犯罪者にも救いがあると。これは意外に感じた。これまでの伊坂作品は分かりやすい悪人が出てきて、最後には悲惨な死を遂げる展開が多かったので。分かりやすい悪役が出てきて、完膚なきまでに退治するのが伊坂作品の様式美だと思っていた。
・「犯罪ではないけれどやるべきではないこと」をやるかどうか。もしやってしまったらそのことにどう向き合うかにその人の人間性が現れる、という主旨の一文があり大いに共感。ネット上で「別に犯罪じゃないしー」と露悪行為を肯定するオタクが悪目立ちしているので。

☆おすすめ!『明日の世界で星は煌めく』1巻 ツカサ


“終わった世界”で二人の旅が始まる――。
その境遇から「魔女」と呼ばれてきた少女・南戸由貴の環境は、高校へ進学しても変わらず、暗い日々が続いていた――続くはずだった。入学式の翌日、世界は終わった。街にあふれた生気のない人型の怪物・屍人にによって、人類は終末をもたらされた。
それから一ヵ月。由貴は事件から行方不明となった父親の遺した“魔術”と使い魔の力によって生き延びていた。
ある日のこと、生活用品の補充のため屍人が溢れる街へと繰り出した帰り道、由貴は銃声を耳にする。自分の暮らす街に助けたいと思える人間はいない。そう考える由貴だったが、かつて、一人だけ、中学時代に仲良くなった少女がいた。転校した彼女のことを思い出し、奮起し助けるために銃声の方へ由貴が向かった先で出会ったのは、まさに転校したその少女・榊帆乃夏だった――。
帆乃夏の目的のため、由貴は協力することにしたのだが……。
『銃皇無尽のファフニール』『ノノノ・ワールドエンド』のツカサ×『ふりだしにおちる!』『先パイがお呼びです』のむっしゅによるガールズサバイブストーリー、開幕!

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・かわいい女の子がかっこいい話。
・Audibleで再読。クラスの爪弾き者だった女の子がゾンビパニックに巻き込まれてクラスごと壊滅。一人だけ魔法の杖を与えられて生き残り、終末世界をサバイバルする毎日。そんなある日、一人の少女と出会う。それは暗黒の学校生活で出来た唯一の友達だった。
・百合ラノベです。百合度は友情以上百合。終末世界で手を取り合って生き残る女の子ふたりの関係性が眩しい。最終巻まで読んだ身として言うけれど、主人公たち百合メンバーに異性愛要素は無し。百合メンバーではないサブキャラにはあるけど申し訳程度。
・ゾンビ×魔法×百合という新しい組み合わせが魅力的な作品。魔法は水=液体、土=固体、風=気体を操る仕組みと説明される。よく分からない原理ではないのが分かりやすい。そしてヒロインは銃を使う。魔法×銃、これもまた異色。
・ヒロインの女の子が主人公の女の子のことを「かっこいい」と好き好きしてるのが最高に良い。主人公は表紙の右の子だけど、「かわいい」じゃなくて「かっこいい」のがいい。そして見てくださいよこの身長差。
・擬音が多めなので文体で好みは分かれるかも。あと、イラストは可愛らしいけど文章におけるゾンビの描写は割とリアルです。




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