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RIZIN28 朝倉未来の抱える不安材料

総合格闘家の朝倉未来は全てにおいて特異な存在である。そのトレーニング方法も然り、何と練習は早朝から行うスパーリングのみで、それにおける所要時間は、たった1時間ほどと聞く。

全ての格闘技の要素を含む総合格闘技のプロとしては少なすぎると思われる、この練習量で強豪ぞろいのRIZINフェザー級戦線で9戦8勝1敗の戦績を誇っている。

この練習法、実は、とてもコスパがよろしいのである。

その朝倉未来が、格闘技界のレジェンドである魔裟斗氏との対談を機に、彼に勧められるがままに走り込みやミット打ちを自身のトレーニングに取り入れた。スパーリングだけのトレーニングで結果を出しているのだから、トレーナーを付けて本格的なミット・トレーニングを取り組んだら、彼は一体どれ程まで強くなるのかとファンは想像し、期待に胸を膨らませていることだろう。

だが、ちょっと待ってくれよ。

強くなるために最重要なトレーニングって何なのか、今一度考えてほしい。そう、模擬実戦であるスパーリングなのよ。そしてスパーリングは打撃でも寝技でも、マスでもガチでも必ずケガがつきものなのよ。

何故って?コンタクトスポーツって、そういうものなのよ。相手が自分を壊しに来るのが格闘技なんだから。逆に『毎日1時間以上もスパーリングしているの?』っと驚かないといけません。

なぜトレーニングの核はスパーリングなのか

いろんな相手の予期せぬ動きに瞬時に反応して攻撃や防御することを学び、さらに組み技の局面では全身を使って上下・前後・左右に動くので耐性がつき身体が強くなる。だが、それと引き換えに負傷という代償を支払う皮肉に満ちた日々。

打・極・投、格闘の全ての要素を含んだ総合格闘技のスパーリングを毎日1時間以上行うとどうなるか?素人でも想像に難くないことだろう。

そう朝倉未来は満身創痍なのだ!

格闘家にはケガが付きものだと彼自身のYOUTUBEチャンネル内で、よくコメントしていることからも日常的に身体を痛めていることが伺える。

その対価として生身の人間が局面局面でどう反応するのかを学ぶのだ。彼は当て勘が良いと評されるが、そうではない。勘ではなく技術。数多くの実戦を経て人間の反射運動を熟知した喧嘩屋。それが朝倉未来の真の姿なのだ。

彼のユーチューブ動画のウリは各界の有名人との打撃スパーリングである。相手がボクサーであれキックボクサーであれ、ただのトーシロであれ打撃の強弱を調整して毎回見事に捌ききって見せるのは人間の反射運動を熟知しているからに他ならない。

これって誰にでも出来ることではないのよ。

朝倉未来とスパーした、そうそうたる面々を今一度思い出して頂きたい。そこには競技の頂点を極めしものも多くいた。中には朝倉未来を喰って名前を売ろうと考える輩もいただろう。そんな一癖も二癖もある連中を相手にYOUTUBEでエンターティメント・ショーを行う彼は、今一度、評価されるべき存在だと思う。

ミット・トレーニングの弊害

そして、そのスキルは決してミット打ちで得られるものではないことを知るべきだ。まず、ミットのパッドの厚みと受け手の安全を考慮したミットの持ち方自体が実際に当てるべきヒットポイント(人体の急所)から大きくかけ離れいる。

なおかつ、良い打撃音を出すためかインパクトの瞬間にトレーナーがミットを前に出すという意味のない動作によって、さらにヒットポイントがずれてしまうのだ。以上の理由から、ミット・トレーニングは朝倉未来にとって最も不必要なトレーニングだと言えるだろう。

ミット・トレーニングやサンドバック・トレーニングは打撃フォームを固めたりコンビネーションを習得したりするのには適している。だが、スパーリングを控えめにしてサンドバックやミットばかりやっていると、いざスパーとなると相手に打撃は全く当たらない。なぜなら相手は攻撃を察知した刹那、必ず避けようとして動くからだ。

さらにミット相手に強い衝撃を与えようと力むあまり打撃の質が変わってしまいかねない危険性をも孕んでいる。朝倉未来が、素手の喧嘩で身に付けた相手を失神させる打撃のインパクトやフォロースルーこそが最善のものなのだ。

アスリートと喧嘩屋 その思考方法の違い

朝倉未来は、ケガのリスクを冒してまでも模擬実戦であるスパーリングをトレーニングの核に据えた。その結果、どうすれば自分の打撃が相手に当たるかを独自に理論立て、それをスパーで実践することで生きた打撃の攻防と、その後に必ずくる組み技の局面を数多くこなすことで競技上必要な筋力と、それを発揮するための力の緩急を身に付けたのだ。

模擬実戦を多くこなすことで格闘スキルを高め、さらに身体を強くしている彼に必要なのは良質な食事と身体のケア(休養)である。専門のトレーナーについて行うフィジカル・トレーニングですら朝倉未来に必要なのか疑問に感じる。

それを行うことで崩れた姿勢が正され、さらに中心軸(センター)の感覚が身につき各筋肉群が効率よく働くことでケガ予防となり選手生命は延びるかもしれないが、一番大事な勝率が、それに比例するとは限らない。

彼の弟である朝倉海は兄とは異なり、中心軸が確立されたアスリートとして素晴らしい肉体を持っている。そして兄同様、相手を失神または戦意喪失させるつもりで試合に臨む。

その強烈な闘争本能とバンタム級では圧倒的なフィジカルの強さとスピードを併せ持つという自負が、朝倉海の四肢を対戦相手に向かって強烈に内旋させる。彼の強烈な打撃は上記のような意識の持ち方と圧倒的なフィジカルから生まれる。

四肢を内旋させた彼の身体で唯一のウィークポイントは固定された頭の位置である。これだけ身体を締めていたら相手の打撃を頭を振って躱せない。同じような力量の相手との足を止めての接近戦の打ち合いに若干、不安が残る。

閑話休題。

朝倉未来はアスリートではなく喧嘩屋なのだ。だからケガのリスクが高いが最速で強くなるスパーリングをトレーニングの核に据えた。30歳までと決めた太く短い格闘技人生。負けることは死ぬことと同義と感じているのか。

そして左半身に重心がかかった自身の身体特性を直すことなく、そのまま生かして自分の出しやすい打撃を相手に確実に当てる方法を模索したのだ。

格闘技のトップ戦線はフィジカルモンスターの集まりである。もともとあった均整のとれた肉体を厳しい鍛錬や寝技でさらに鍛え上げ、打撃も基本から、みっちり行いパンチやキックに磨きをかけた彼らの勝率がなぜ朝倉未来ほど振るわないのか。

総合格闘技は、まず打撃の攻防から始まる。基本に忠実にワンツーを打っても戦局は大きく変わらない。相手に察知され避けられるとローやカーフキックを蹴って相手戦力を削りにいく展開が多いように思う。

しかし、ほとんどが10秒前後でカタがつく喧嘩を数多くこなした朝倉未来は、そんな悠長に構えていない。相手の頭部にダメージを与えるべく、あらゆるフェイントをかけながら技をちらし、自分の得意な攻撃が入る状態へ相手を誘う。

少々話が脱線するが、ヒッ〇マンは相手が油断している状況を狙って襲撃すのはもちろんだが、そういう状況にない場合もある。そういう時は相手を挑発するだけ挑発して、おもむろにもろ手をあげて相手に抱きつくそうだ。『大好き!』っと言葉も添えれば完璧だとか。

難なく相手に密着した、そのあとに隠し持った凶器を用いて……以下略。

暴力的な言動をもって挑発を受けたものは相手の攻撃に備えて身体を緊張させることだろう。その状態の相手に、もろ手をあげて抱きつくという想定外の出来事を与えることによって相手は軽いパニック状態に陥いる。その結果、容易に距離を潰して射程距離に入るのだ。

ヒッ〇マンや喧嘩屋は数多の実戦経験から局面局面で人がどういうリアクションをとるのかを熟知している。あとは自分の武器が使える状況まで相手を誘えばよいのだ。

そう喧嘩屋とアスリートは、もともとの思考方法が違うのだ。そして朝倉未来の喧嘩(ストリートファイト)は相手を戦意喪失させるか戦闘不能にすることでしか終わらないのだ。その部分は総合格闘技の選手となっても変わらない。

相手を失神させるべく策をめぐらし技を磨いて試合に挑み、その結果としてKOまたは判定となるので勝率は上がり、さらに彼のファンは熱と夢を持ち続けるのだ。

試合中に成す術なく見合っている選手たちは、相手を倒す技術はもとより、その気概すらファンに知らしめる機会を失っているのだ。

朝倉未来の抱える不安材料

今回の対戦相手であるクレベル・コイケがキャリア最大の難敵であることから大先輩である魔裟斗氏のアドバイスを素直に受け入れ、新たなトレーニング方法に取り組むこと自体は素晴らしいと思う。

ただ前述のように、朝倉未来がRIZINで驚異の勝率を誇っているのは、実戦に近い殴り合いと極め合いを日々行っていることと無関係ではない。

彼は左半身に重心が偏っている。これにより左股関節が外旋し、左脚に蹴りのタメがサウスポーに構えるだけでできるのだ。このことから右利きでありながら左の蹴り技も上手く蹴ることができ、さらに相手の打撃に関しても左股関節の外旋を用いて頭の位置を変えて避けている。

朝倉未来のカウンター技術は、この独特な身体特性を活かしたものである。彼のトレーナーは、まずこのことを理解しないと技術指導など出来る訳がない。指導者の無知が、彼の個性を潰してしまわないかが心配だ。

ミット・トレーニングの弊害については前述の通り。一般には有効なトレーニングが全て彼にも当てはまるとは限らない。急所を的確に捉える朝倉未来の打撃は、とても繊細なもので、その技術は、お互いヘッドギアすら被らないで行われるパートナーとの殴り合いのなかで育まれる。

聡明な彼は、このような身体に負担のかかるトレーニングを何年も継続しながら試合で高いパフォーマンスを披露することが難しいことを理解している。ファンを失望させてはいけない。強さを保ったままリングを降りたい。だからこその30歳引退宣言なのだろう。

クレベル・コイケに朝倉未来が勝てる数少ない局面がスタンドでの打撃の攻防である。筆者の不安を一掃してくれるほどのキレのある打撃を見せてくれることを切に願っている。

コロナ禍のなかで開催されるRIZIN28。東京ドームという大会場で行われるビックイベントのトリを飾る大一番だ。久々に勝負論のある日伯ストリートファイター対決。両雄の健闘を祈念して、この項を終わるとしよう。

試合観戦が終わっての雑感

クレベル選手のローで距離を潰されてのテイクダウンが敗因。カーフキック全盛の今、あんなに前脚を内にひねっていてはカットもできませんね。まぁ、カットする気も無かったようですが...。

喧嘩屋、朝倉未来が得意のスタンドの攻防において、クレベル・コイケに気圧されて(ビビッて)後退したのです。このことは、当人および関係者が深刻に受け止めないといけない部分です。

私が見たところ朝倉選手の右脚は試合前から壊れていた気がします。だからなのかクレベル選手の打撃を受けての嫌下がりのようにも見受けられました。

前述したように私は、朝倉選手のオーバーワークからの負傷を懸念していたので、この試合結果は、なんとも残念です。朝倉選手の打撃軸は右脚なので、こうなると、どうしようもないですね。ここはホベルト・サトシ・ソウザ選手を含めたボンサイ柔術チームの極めの強さを素直に褒め称えたいと思います。

日伯ストリートファイター対決。今回の喧嘩は、クレベル・コイケ選手の圧勝で終わりました。不得手なスタンドでの攻防で朝倉未来を後退させコーナーに詰めたのです。朝倉未来は、技術ではなくメンタル面で後れをとっての完敗となりました。

クレベル・コイケを、その戦績から実像よりも大きく見すぎたのです。その反面、自身もトライフォースという柔術ジムに所属していることから、柔術技で自分を極めることは出来ないと過信し、他流派ボンサイ柔術の極めを見誤ったのです。

喧嘩に負けて尻尾を丸めて逃げるも良し。

捲土重来を期して闘いの場に戻るも良し。

朝倉未来がリングに描く成り上がりストーリーは東京ドーム程度では終わらないことを願っています。

そう、格闘技の魅力のひとつは一発で人生が変わる大逆転劇。

朝倉未来が、本当に格闘技を世に広めたいと思うのであれば、今が最高のシチュエーションなのではないでしょうか。

何かと話題のセコンド陣について

未来選手と海選手は、兄弟でありながら戦闘時において見ている世界が異なります。これは各々の身体感覚が違うから起こりうる現象です。中心軸が確立され各筋肉群が理想的に働くアスリートボディの海選手。片や、左股関節の外旋が強いという身体特性を活かしたカウンター技術に特化した未来選手。

同じ目的をもって相手に対峙しても、その方法論が異なれば、もはや別の生き物と言ってよいでしょう。このことから海選手の戦況分析は兄、未来選手にフィットしないことが多々あるかと思います。逆に、海選手はセコンドの指示に何でも反応出来る理想的な身体をもっているので未来選手のアドバイスが活きるのです。

海選手は兄が気弱になったときに檄を入れ、そして未来選手が本当に危険な状態になったとき身を挺して試合を止めるべき存在としてセコンドにつくべきです。まぁ、兄は弟の前ではカッコつけたいものですから、海選手が傍にいるだけで、すでに100人力でしょう。

ガードポジションからの正確無比な極めがボンサイ柔術の特徴なのが、はっきりとした今、対処方法も自ずと分かってくるでしょう。ボンサイ柔術は寝技でカウンターを取りに来るのです。相手が動くまで、放っておきましょう。

さて、私は朝倉未来チームに最も必要である、攻撃時に的確なアドバイスを出せる参謀役にうってつけの人物を知っています。

その男は、未来選手と同じ身体的特徴を持つがゆえ戦闘時に見える風景を共有し、さらに、それを補完するための高い経験値をも備えています。

そして彼は、朝倉未来より世間一般からの認知度が高い格闘技界のトップランナーでもあります。

そう、神童・那須川天心、その人です。

これで朝倉未来はRIZINフェザー級タイトルが狙えます。

皆さん、コレ、話が飛躍し過ぎだと思いますか?

えっ!畑違いだって?

朝倉未来の勝ちパターンは寝技なんですか?打撃でしょ!

私は、アリだと思います。最強チームで間違いないです。

written by 7th street

END

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