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本のはなし

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読んだ本や、やってみた研究のはなし。ちなみに7等星は日本近代文学専攻、坂口安吾を研究してます。
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千早茜『ガーデン』について

千早茜『ガーデン』について

千早茜『ガーデン』を読み終わった。この方の小説は、元々『しろがねの葉』が気になっていたのだが、それより先にこちらを手に取ることとなった。結果としては個人的に大当たりであったため、他作品にも期待が高まる。

『ガーデン』に話を戻す。主人公羽野と彼の育てる植物たち、そして彼を取り巻く女性たちとの関係が丁寧に描かれていた。もっとも、基本的に文章は羽野の視線に寄っているため、女性たちひとりひとりが羽野ほど

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命綱の会話

命綱の会話

自分が、随分と繊細なやつだと気付いたのはいつ頃だったか。小さい頃から泣き虫ではあったけれど、それにしたって今に引きずりすぎていやしないか。
長い間、人の顔色を伺いながらそれに対応した行動をしてきた。多分それは今もそうなのだろう。

「君は基本的に誰に対しても他人行儀だから優しくて、心を開いたひと握りの人だけをものすごく信頼してるんだと思うよ」
と、恋人は言った。間違っていないと思う。だからこそ、理

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母をたずねて3万字

母をたずねて3万字

卒業論文を書き始めて約2か月が過ぎた。元々考えていたテーマを変更したこともあって周りの友達より書き始めが遅く、かなり焦った時期もあったが、ずっと好きだった作家の作品についてまだ誰も発表していない考察を述べていくというのはやはり楽しいし、そのために大学に入ったといっても過言ではない。私は現在、坂口安吾の描く「母」という存在について小説の本文に基づきながら卒業論文を書いている。

ただ、同じ観点(いわ

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とある文学部生の独白

とある文学部生の独白

「文学部に行ってどうするのか」
「行ったところで役に立つのか」
今までたくさん言われてきたし、私もどう答えたものかたくさん悩んできた。多分、文学部に属す、属していた方々で言われたことあるよという方も多いのではないだろうか。

これまでの私の回答としては、
「好きでやっているのだから放っておいてくれ」
である。
本当は、三浦しをん氏の『きみはポラリス』より「骨片」という作品を引っ張ってきて、これを読

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谷崎潤一郎作品を初めて読んだ話

谷崎潤一郎作品を初めて読んだ話

谷崎潤一郎作品を初めて手に取ったのは、今日みたいに日が照りつけて暑い日だったと記憶している。高2の夏休み。部活が終わった帰り道に、ふと思い立って本屋へ寄った。
ふらふらと涼しい店内を歩いていると、赤いカバーに青字の光る1冊が目についた。それが『刺青・秘密』だったのだ。

なんだか心を惹かれてそのまま買い、帰りの列車でページを開いた。

気がつけば私は貪るようにページを進めていた。私はこのような世界

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続 坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌」について

続 坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌」について

前回の投稿からずいぶん時間が経ってしまいましたが、続きとなります…!
前回を読んでからこの文章をお読みいただけると色々わかりやすいかなと思います。

今回取り扱っている作品も、再度掲示しますね。

目次は以下の通りで、今回は4からになります。

「私」と「風景」

「少女」の面影

崩壊の始まり

「私」と「姉」

「別れのみ、にがかった」

「讃歌」

4.「私」と「姉」さて、前項にて「何事か、

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坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌」について

坂口安吾「ふるさとに寄する讃歌」について

Twitterなどでご存じの方もいるだろうけれど、私は坂口安吾作品が好きである。まだ歴は浅いものの、とりあえず大学で研究するくらいには好きである。
今回のnoteは、私が昨年秋から冬に掛けて取り組んだ研究をざっくり(?)解説したものにしようと思う。

お時間のある方は、ぜひリンクから作品を一読してほしい。この短編作品は安吾の2番目の作品で、同時期に発表された「風博士」や「黒谷村」に隠れて影が薄くな

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衝撃のひとめ惚れ ―坂口安吾作品―

衝撃のひとめ惚れ ―坂口安吾作品―

まだ私は人にひとめ惚れしたことはない。しかし、物だったり文章だったりにはたまにひとめ惚れしてしまう。今までで1番衝撃の大きかったひとめ惚れ相手が、坂口安吾の文章だと思います。

前にもどこかで書いたけれど、きっかけは高校時代、「文豪ストレイドッグス」という作品の坂口安吾。キャラデザインがどストライクだったのです。長身、黒髪、丸眼鏡、スーツ、あと性格も。性格は到底、本当の安吾とはかけ離れていたけれど

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解せぬ、古事記

解せぬ、古事記

大学の良いところの1つは、自分が興味のある分野を学部を越えて勉強できるところだと思います。私は文学部所属ですが、宗教学などにも興味があるため、他学部の比較宗教学や古代サンスクリット語学、聖書学を覗きに行ったりしていました。
世界中に色んな宗教があるけれど、その「宗教」という枠組みで様々な現象を説明したり、社会のルールを作ったりするところは基本的にどの場所や宗教でも共通している、という発見が1番興味

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「一緒にいる」ということ

「一緒にいる」ということ

初っ端からのろけて申し訳ないと思うけれど、まず前提条件として、私は今の恋人がいる生活がとても気に入っているし、できればどちらかが先に死ぬまで一緒に暮らすことができたならと思っています。これを先に述べないと、もっと話が重くなってしまいそうだったから。

私は小さい頃から「母親」というものになりたかった。理由はよくわからないし、もしかしたら生き物としての本能がそう思わせるのかもしれないけれど、私の1つ

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虫の見る夢

虫の見る夢

読書に没頭する人の事を、本の虫という。私はがつがつと読むときもあれば全く読まない時もあるが、基本的にゆるゆると読み進めるタイプだと思います。そんな私でも、あまり読まない方たちから見ると本の虫の端くれなのでしょう。

読み始めたのは3~4歳からだったと母は言います。字を書けはしないものの、読むことはできたらしい。運のよいことに、母方の祖母の家には母が小さい頃に読んでいた多くの童話集や絵本、小説や漫画

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