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【読書記録】「藍色時刻の君たちは」(前川 ほまれ)

2010年10月。宮城県の港町に暮らす高校2年生の小羽は、統合失調症を患う母を介護し、家事や看病に忙殺されていた。彼女の鬱屈した感情は、同級生である、双極性障害の祖母を介護する航平と、アルコール依存症の母と幼い弟の面倒を看る凛子にしか理解されない。3人は周囲の介護についての無理解に苦しめられ、誰にも助けを求められない孤立した日常を送っていた。しかし、町に引っ越ししてきた青葉という女性が、小羽たちの孤独に理解を示す。優しく寄り添い続ける青葉との交流で、3人は前向きな日常を過ごせるようになっていくが、2011年3月の震災によって全てが一変してしまう。

Amazon 販売ページあらすじより

 前半部が主人公たち三人の高校生が東日本大震災に被災するまでの物語、後半部が十二年後に主人公たちが再会し過去と向き合う物語という構成。

 主人公の故郷の緻密な情景描写と三人の会話や表情の描写からは、震災当日の様子や残された人が抱える傷と葛藤が鮮明に描かれていて、読みながら手が震えるくらい胸が痛みました。

 三人がそれぞれの行動で過去の記憶に触れることは、起こった過去を無かったことにするわけでも、心の傷を消し去るわけでもなく、抱えた葛藤をすぐに帳消しするわけでもありません。
 それでも、僅かでも未来への希望を抱きながら、過去への気持ちに折り合いをつけていく様子は、決して悲壮感だけではない前向きさを感じさせます。

 恥ずかしながら、この本を読むまでヤングケアラーという単語こそ知っていたものの、そこまで問題意識を持ったことも大きく気にしたことはありませんでした。あとがきに書かれていた「子供たちに向ける眼差しの新しい視点」の一つとして、胸に刻みたいと思います。


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