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愛の肥満児

私には腹違いの弟がいる。

私、30歳。弟、6歳。
年齢差24歳。
パパはとうに還暦を過ぎたが恋も仕事も現役で、3回結婚し、今も第一線で働いている。
パパの奥さん(弟の母)は私より10歳上しかも美人である。
私はこの美人な母にあまり好かれていない。
彼女は中国人なので言葉があまり通じないことも関係しているが、元々妻の娘という存在が単純に気に入らないのだと思う。
というわけで我々姉弟はそこまで顔を合わせずにこの歳まできたのであった。

弟と会うのは年に一度。お正月のとき。

叔母たちに「久しぶりだね」「元気だった?」と声をかけられる。私は元気だよと返事をして、祖父母の仏壇に手を合わせた。

「ほら、お姉ちゃんだよ」

パパに促され、弟が私の方に挨拶しにきた。

「あけましておめでとうは?」
弟はさっとパパの後ろに隠れた。パパの足にしがみつき、ちらりとこちらを覗いている。
「人見知りしてるんだね、じきに慣れるよ」
そう言ってパパは弟の頭をぐりぐりと撫でた。
私は「あけましておめでとう」と弟に言った。

久々に会う父方の親戚は、皆元気そうで良かった。
従姉妹のみゆきちゃんが私に中トロを取ってくれた。やさしい。
弟は食事そっちのけでおもちゃで遊んでいる。母がそれを嗜め、弟の口にほぐした魚を運んだ。

「お魚すき?」
と、私は聞いた。
母は私の方は見ずに「ハオチー?」と弟に聞いた。

ふと、7年前を思い出す。

パパに、恵比寿の中華料理店に呼び出された。
あの日。
パパの隣には彼女がいた。
綺麗な人だと思った。どことなくママに似ているな、とも。
「彼女と結婚するんだ。」
食事が運ばれてきた時にパパはそう言った。
私は「そう、おめでとう」と言った。

「それで、きょうだいができるんだ」

えっ、と言って思わずパパの顔を見た。

「まだ男の子か女の子かわからないんだけどね、きっと可愛い子が生まれるよ」
そう言ってパパは嬉しそうに母のお腹をそっと撫でた。彼女も愛おしそうに自分のお腹を見つめていた。

「よかったね、やるじゃんパパ」
あんかけは冷め、魚の身はボソボソしていた。
そうして彼女は私の母になった。

ママが小さい頃私に言っていた。

「別れる時にあなたのパパはね、子供はあなただけと言っていたのよ。次の人と結婚しても子供は作らないって」

その言葉にどこか支えられていた自分がいた。
パパなりの愛してるだと思っていたからだ。

帰り道、私は泣きながら歩いた。
子供が生まれても会いたくなかった。


YouTubeを真剣にみる白いふっくらとした横顔に
小さく開いた唇。

子供は無条件に可愛い造りをしているのがずるい。

生まれたての時、私の指をぎゅっと握った手のひらは、むちむちと携帯を握っている。

あんなに会いたくなかった弟なのに、目の前にすると思わず顔が綻ぶのはどうしてだろう。

懐かれているわけでもないし、自分も好きかと言われればよくわからない。

でも私はこの愛の肥満児をどうしたって見つめてしまうのだ。


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