見出し画像

定信にこじらせてる女のひとりごと

2023年度第4Qは華やかに幕開け
「ぬけまいる」から5年
「SANEMORI」の記者会見など折に触れて語られてきた宮舘涼太さんの時代劇出演
ファンはもちろん、ご自身も待ちに待ったものではないだろうか。
舞台は江戸、あの「大奥」。しかも松平定信って連続ドラマ初出演には大きな名跡。
実は私、始まる前に宮舘さんが「初めて描かれる松平定信」と語ったことに違和感を覚えたままでいた。それはいくらなんでも舞い上がりすぎだろう、直近でNHKが放映したよしなが大奥だって松平定信が出ていたじゃない?
過去作だって松平定信を演じた役者はいらっしゃるというのに、思い切ったことを言うもんだって少し冷めた目で番宣を眺めていた。
ところが、本編開始第1話目にして穿った見方でいたことを反省した。
家治・倫子の婚礼の儀で謁見したときの佇まい、爽やか好青年以外の何物でもない。
史実によれば20歳差、設定に無理があるよなと思っていたことも全てあの数秒の登場シーンで忘れさせてくれた。

婚儀で見せた登場シーンに宣伝で声が使われていたこのシーン、若さあふれる佇まいにどこか裏がありそうなセリフ、数秒だけど一気に引き込まれる

そして養子に出される理不尽さに抗えない身の上といつか幕政を担いたいという思いと同じように幼なじみの倫子に対する思いも強くなっていく

第4話で見せた定信は完全に「ファンが想像する中の人の概念」。時代劇に恋愛要素は無用という旧来の価値観は私も持ち合わせているものの、これはなんだ?答えは最終回と同日に配信されてるスピンオフを見ると納得するのだが、放映されたときは正直「いらんやろ」である、というよりはくすぐられた自分の器の歪みを認めたくなかったのかも。

当初は本編の感想とまとめるつもりだった。しかし、家治と田沼の最期で敵役がこれ以上出ることが自分の感覚で腹落ちせずモヤついていたところ、あまりにもスピンオフがこちらの期待を超えてきたのでここからはどっぷり宮舘版定信の感想を。

初見直後のpost


彦平衛、お梅そして定信。主軸はこの3人。
定信と彦平衛の出会いは本編でも演じられていた通りだが、お梅さんの境遇がスピンオフの要になっている。白河藩主の定信が貧しく不幸な境遇の子どもたちに施しをするところから始まり、本編でもファンが沸いた「おにぎり」のシーン。
定信、自覚がないがかなり慈悲深さが出てる。お鈴ちゃん、おにぎりを手に定信に微笑みかけるのもなんとも愛らしい。
城に出入りするための門札を手に入れるために猿吉のもとへ向かう定信と彦平衛、生活苦から暴力を振るわれていたお梅、自分を守るために猿吉に抵抗していたところに定信登場。猿吉成敗後、境遇を聞き、門札と引き替えに屋敷に住まわせる。意外と軽いな、なんて思いながらも白河からの単身赴任は何かとあるでしょうし、身の回りの世話、やってもらえればそれはそれででしょう、これは使えると考えるのはダークサイドの定信でしょうからあんまり考えてないのかもしれない。

長子継承の慣わしにより後継になれず、政略により養子に出され、周りの大人の扱いも家治に比べたら粗雑だった様子、でも倫子だけは違った。「賢丸は優しい子、私は知っている」なんて言われたら気になるよ、恋心も芽生える。なのに家治と婚約、慕っていた倫子を奪われたような虚しさ、自分では力が及ばない大きなうねりの中で何かが削がれ、今で言う自己肯定感が低いまま育ったのだろうか、直接的な裏切りではないけれど、幼心でも憎しみって芽生えるんだ。女中の陰口もなかなかのもの、彼も心の闇は自覚したものの、「人を憂う心がない、憎しみだけが広がる」ってお梅に告白してる定信さま、あなた十分感受性豊かよ、普通なら自分の嫌なところに向き合おうとはしないから。そんな身の上話を聞いているうちに、お梅は定信は情け深い優しい人であるという認知とともに次第に淡い恋心を抱くようになり、挙げ句は好きな男の役に立てるならと大奥へ入ることを志願するようになる。
お梅は倫子さまの元へ行く定信を見送って、もやっとしなかったのか?なんて思ったりしてたら、お紅蛤貝のプレゼント。「似合うと思ってな」って定信さんさぁ、倫子さまへの和菓子サブスクwithお手紙もそうだけど、女ごころわかってるじゃない(笑)ほんにとんでもないやつ、頭抱えたくなる。うわべの言葉でも人が救われることがあるし、倫子さま、一瞬気持ちがぐらついていたでしょ?

で、例のことを運ぶためにお梅が入城して御台様の身の回りの世話係になったわけだけど、前もってしくじったら命はないって線引きされても好きな人の役に立ちたいという気持ちが勝っていたのでしょうね。
「大奥は恐ろしいところ」彦平衛がお梅にかけた言葉は定信が倫子にかけた言葉と同じ、でもニュアンスが違うのがここでも明らか、もう婚礼の儀の頃には倫子へ恨みもあったのでしょうね、定信さま。
で、お梅がしくじったときの対応を彦平衛に託す定信、自分が手を煩わせなくてもいいと思った気持ちが大半だろうけど、ちょっとは情が湧いていたのかなとも思ったり。「聡明で懐の深い良いおなご」なんて、ちょっと定信!!って思わず画面見ながら唸ったわ。
本編の定信もここまではいい人。倫子さまの良い息抜き相手、まさに当て馬、表では。だけど、子どもを産めないように画策してもなんとも思わない、自分はやっぱり人として何かが足りてないっていう気持ちのほうが大きかったのね。
お梅に励まされ抱きつかれたシーン、心を動かさないまでも戸惑いと勘付きはあったんじゃない?安い話ならそこで2人が…なんてことも大昔のドラマならありましたからね。そうならないのも、城に入って幕政を担うという大義を果たすためにそういう感情を見てみないふりしてたんじゃないか。
方や抱きついたお梅、一世一代だったでしょう、いつもは凛々しいのに自分にだけ弱みを見せる男に母性本能くすぐられる方の女性、ただ当時で言えば身分違いの恋、ハードルが高すぎることを考えても「お支えします」とよく言えた、頑張ったよね。あのシーンは丸窓障子の陰影で儚さというかいい情景だったな。お梅にすればあれがピーク、後は身を賭して定信に尽くす道を行きましたね。結果は本編の通り、お品に悟られ、あの懺悔部屋(?)で彦平衛に斬られてしまうのだけど、お紅蛤貝がお梅にとっての支えだったのね、あれも本編だけじゃ分からない。何であれがキーアイテムだったのか、ほんと並行して撮っていたのではないかと推察しているスピンオフ、不覚にもお梅の最期はスピンオフで涙を誘われるポイントになった。
彦平衛も相棒らしく「お梅どのは定信様をお慕い申し上げていたのですよ」なんて言えるのも愛嬌、ずっと定信を信じて仕えて支えてきたのですから、今更なところはあるけど滅多に言えないよね、うん。ここまでだとお梅の『定信に恋』なんだけど、お梅に打ち明けているのは『定信の恋』なのよね。だって、「あんな男の何がいい…」って全方向に向けて放ってる、冷淡だけど青い炎が見えたもの。

冒頭のおにぎりを持ってはにかんでたお鈴ちゃんが人さらいにあって助けに行く場面、この扉蹴破って登場はもう悲鳴を上げるほどのカッコ良さ、これこれこれってなったし、お待たせしました皆様と言わんばかりの救出劇。悪役の第一声って何で揃いも揃って「何だ、てめぇは」なんだろう(笑)いい顔してましたね俳優さん。
ここからはほんとに個人の推測でしかないけど、東映スタッフさんも立ち回り撮りたい、演りたかったんじゃないかって。あの倫子さまと風来山人こと平賀源内とのシーンもそうだけど、なくても良いし、女性の物語だから風花さんを初め大奥の女性たちを存分に見せないとって思うけど、本編のあの場面にこのスピンオフは時代劇の後継というか育成枠(演者もスタッフも)なんじゃないかなと推察しています。宮舘ファンにはたまらなくご褒美、なので八方良しの大立ち回りの殺陣、いい間合いと太刀筋でしたね、何度も見たくなるシーンの1つになりました。
そこでお梅の父親に出会うんだけど、ここでもちゃんと人の道理もわかってる。「この期に及んで命乞いか」「多くの娘たちを傷つけた罪人が何をいう」って勧善懲悪シーン、表の屈折している様子とは対照的にここでは彼が正義、時代劇はこれがないと爽快感が出ない。なぜ貧困と犯罪がセットになるのか現場で学びを得た定信、いいぞいいそ、人情味溢れてるじゃないか。
そしてお梅が父親に宛てた手紙、とはいうものの遺書になったのだけど、お梅もそのつもりで書いていたのかな、と思ったりする。そこには世直しへの情熱に溢れる定信ヘの期待と恋心、定信に幸せになってほしいという願いが綴られていたのを彦平衛の機転で定信の目に留まることになったのだけど、いい手紙でしたね、ここも涙を誘われるポイント。
貧しい女が身を売らなくてもいい世界、貧しさから犯罪に手を染めなくてもいい世界、定信ならきっと世の中を変えてくれる…私にとっては心の優しいお方、その方がいつか愛する人と笑い合い幸せになりますように…って凄い恋文、あの父ちゃん読んだらびっくりするだろうね。
献身的だったからこそ一緒に夢を見ていたお梅、そんな彼女を大義のためと言いながら斬ってしまったこと、「これが…心が痛むということか」と言って流した一筋の涙。悩んでいた何かに気づきを与えたお梅。定信がお梅にどんな感情があったのか、先述の通り、当時の背景を考えれば積極的に恋仲になることはなかったでしょうが、人を慈しむという気持ちを「恋」と表したのなら、定信にとってお梅はただの駒ではなかったのかもしれない。
史実はともかく、定信とお梅が身分相応で出会っていたらきっと定信も救われていたのではないか…と思ったりするわけです。

で、タイトルの回収。
立ち姿、声、表情に殺陣。「初めての松平定信」はあくまで役名、立派に務められていたのではないでしょうか。宮舘さん、雑誌のインタビューで芝居が大きくならないようにって思っていたようですが、時代劇には丁度いい塩梅、台詞回しも優しい声がときに冷淡さを際立たせているし、サイコパスというよりは苦悩するがゆえに屈折したところが表現されていたように思います。

優しいとは何か、人を憂う心が何かを悩み続けた定信、復讐を遂げた果ては倫子によって立場を追われることになったけれど、それもまた本望だったのではないか、初恋とともに「ピリオド」を打ってくれた倫子を斬れなかったのも、経験を経て幼いときの痛みを克服していたから情が出たのではないでしょうか。
本編10話にスピンオフ、宮舘涼太さんの時代劇を切望し続けて叶った今、どうしたって毎日見返しては不器用な定信を愛おしく思い、満たされた気持ちに…
これは恋というよりも渇望、次の宮舘涼太さんへの期待、だって、必ずこちらの期待を超えてくる宮舘さんの夢の続きをみたいじゃないですか。
舞台が始まる前まで整理したかった大奥、いい作品に出会えてよかったですね。
2024年度第1Qは新橋演舞場から。
これからも思う存分好きを極め、魅せて欲しいです。

この記事が参加している募集

今月の振り返り

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?