『レッド・ロケット』最低な男の感じが笑える映画

『フロリダ・プロジェクト真夏の魔法』が面白かったので見たショーン・ベイカー作品。アメリカのインディペンデント界から出てきた監督だ。コロナ禍の少人数のスタッフで撮った作品だそうだ。口先だけの元ポルノスターの「最低で最高な」映画。軽いノリで楽しめる。16ミリフィルムの荒っぽいリアルな映像、ポルノ映画のような適当なズーム、それでいて工場街の夜景の中を自転車でフラフラ走る男がいい感じだ。夜の町も夕暮れも高速道路もドーナツ屋もパステルカラーの安っぽい家も、この映画にピッタリだ。

ハリウッドでポルノ男優として活躍していたマイキー・セイバー( サイモン・レックス )が地元テキサスに無一文で戻って来る。妻レクシー( ブリー・エルロッド )にも母にも、「何しに帰って来たの?」と歓迎されないろくでなし。そんな男だが、どこか憎めないのか相手との距離を詰めるのがうまい。そんな男がろくでもないまま、マリファナを売りさばき、隣の兄ちゃんの車に乗せてもらいながら遊びまわり、ドーナツ屋の17歳の女の子のストロベリー( スザンナ・サン )を見初めて口説き、再び彼女を使ってポルノ界に返り咲こうと目論む話。

「レッド・ロケット」とは「発情した犬のペニス」のスラングだそうだ。まさにそんなイカレ具合がなんともバカバカしく、テキサスの田舎のくだらない日常が見えてくる。ろくでなしの男の口車に乗せられて、マイキーと一緒にロスへ行こうとするストロベリーの欲望も浅はかでエロチックで愚かだ。隣の兄ちゃんの軍歴詐称も、庭仕事して何も喋らない父親も、マリファナを彼に渡す一味の女たちや黒人たちも、セックスに夢中の妻レクシーも、口うるさい母親も、どこか哀しく俗っぽくリアルだ。

過去にポルノ出演経験があり、その映像が流出したことで一時表舞台から姿を消していたこともあるサイモン・レックスが、この映画の男マイキーそのものって感じで演じている。フルチンで家から逃げ出して走るところが滑稽だ。軽くて調子よくて身勝手なろくでもない最低の男。

ポルノ業界を描いた ポール・トーマス・アンダーソン の『ブギーナイツ』、田舎から出て行く女の子たちのイカレ具合を描いたハーモニー・コリンズの『スプリング・ブレイカーズ』などを思い出しつつ、テキサスの田舎のクソみたいな日常が描かれているのが面白かった。

2021年製作/130分/R18+/アメリカ
原題:Red Rocket
配給:トランスフォーマー

監督:ショーン・ベイカー
脚本:ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ
撮影:ドリュー・ダニエルズ
美術:ステフォニック
編集:ショーン・ベイカー
キャスト:サイモン・レックス、ブリー・エルロッド、スザンナ・サン

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