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話題作『バービー』グレタ・ガーウィグ~理想化された女性像の虚実~

画像(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

グレタ・ガーウィグ監督は、『ストリート・オブ・マイライフ わたしの若草物語』が面白かったので、期待して見た話題作だが、それほどでもなかった。脚本にガーウィグの夫であるノア・バームバック(『フランシス・ハ』『マーゴット・ウェディング』など)が入っている。

いちばん驚いたのが、ライアン・ゴズリングがよくこの役を引き受けたなぁということだ。それだけボーイフレンド人形ケンの魅力はない。まったく戯画化されているだけであり、間抜けなのだ。この映画ではすべての男たちが戯画化されているので、笑いの対象でしかない。ライアン・ゴズリングは、『ドライヴ』『きみに読む物語』『ブルーバレンタイン』など、せつない恋愛物語に数多く出演している。それだけ本作のこの間抜けで添え物としてのケンのバカバカしさは哀れなほどである。つまり色男のイケメン俳優のライアン・ゴズリングは、あえて男社会の宿痾を身をもって人形のようにおバカに演じたということか。

バービー人形は、女の子の夢を具現化した理想そのものであり、その時代時代の社会を反映している。だから男社会である時代において、男に気に入られ、男目線で理想化した女性像であったという指摘はその通りであろう。脚線美が求められ、ハイヒールが当たり前であり、細身のモデル体型、プロポーション、セクシーで、今で言うところの「ルッキズム」を助長していた。当初のバービー人形は白人ばかりで、CAや看護師、デザイナーやスポーツコスチュームを身につけ、憧れの職業や生き方を具現化し、「理想の女性とはこういうものだ」という社会の価値観が反映されたものだった。だから時代の価値観の変化とともに、黒人やヒスパニック系のバービーが生まれ、ふくよか、小柄ボディのバービー、車椅子のバービーまで出るようになったそうだ。フェミニストにとっては、誤った「女性の理想像」の押しつけでしかなかったバービー人形が、現実世界において批判にさらされるという始まりは、なるほどなぁと納得できる。

バービー人形たちの「バービーランド」は、空疎な理想化されたピンクのイメージ空間であり、死の不安やセルライトの悩みも何もないお気楽な生活が繰り返されている。そんなバービー人形が、「リアルワールド」を体験して、女性たちが感じている生きづらさ、男社会の抑圧、偏見、悩みを体感することで、再び「バービーランド」に戻ってきて、自ら選び取るような自由で多様な生き方を見つけようとする物語である。バービーの添え物ボーイフレンドでしかなかったケンが、現実社会の男の力、パワーを知り、「バービーランド」に戻って男の理想の王国を築こうとするのはまさに滑稽であり、そこからのバービーたちの逆転劇が後半に展開される。そのあたりは、もう見ていてどうでもよくなる。それぐらい滑稽でしかない。それを楽しめるかどうかなのだろうが、あまりピンとこなかった。

今の時代に求められる人種や男女の枠組み、属性を越えてどう自由に生きられるかが問われている映画だ。お気楽で何も考えないで暮らしていたかつての楽園はどこにもない。そんな皮肉や風刺がキッチュなピンク色の世界でコミカルに展開するバカバカしい映画である。

2023年製作/114分/G/アメリカ
原題:Barbie
配給:ワーナー・ブラザース映画

監督:グレタ・ガーウィグ
製作:デビッド・ハイマン、マーゴット・ロビー 、トム・アカーリー、ロビー・ブレナー
脚本:グレタ・ガーウィグ、ノア・バームバック
撮影:ロドリゴ・プリエト
美術:サラ・グリーンウッド
衣装:ジャクリーン・デュラン
編集:ニック・ヒューイ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
音楽監督:ジョージ・ドレイコリアス
視覚効果監修:グレン・プラット
キャスト:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、アメリカ・フェレーラ、ケイト・マッキノン、マイケル・セラ、アリアナ・グリーンブラット、イッサ・レイ、リー・パールマン、ウィル・フェレル、アナ・クルーズ・ケイン、エマ・マッキー、ハリ・ネフ、アレクサンドラ・シップ、キングズリー・ベン=アディル、シム・リウ、クーティ・ガトワ、スコット・エバンス、ジェイミー・デメトリウ、コナー・スウィンデルズ、シャロン・ルーニー、ニコラ・コーグラン、リトゥ・アリヤ、デュア・リパ、ヘレン・ミレン、ジョン・シナ、エメラルド・フェネル

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