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映画『コラテラル』マイケル・マン~一夜限りの巻き込まれサスペンス

マイケル・マン監督の映画を何作か続けて見ている。デ・ニーロとアル・パチーノの対決を描いた『ヒート』も面白かったが、少し長かった。それに比べて本作は、サスペンスが持続した一夜の凝縮した物語であり、こちらの方がすこぶる面白かった。ジェイミー・フォックス演じるタクシー運転手が、殺し屋演じるトム・クルーズを客として乗せたばかりに次々と犯罪事件に巻き込まれていく。まさに「巻き込まれ型」サスペンスだ。「コラテラル」とは、「付随的な」「巻き添え」といった意味があるようだ。タクシー運転手の一夜だけの話にしているのがいい。

ロサンゼルスの平凡なタクシー運転手マックス(ジェイミー・フォックス)は、女性検事 アニー(ジェイダ・ピンケット=スミス)を客として乗せ、目的地までの近道を賭けて勝利し、お互いにいい感じになる。金持ち向けのリムジン会社を夢見るマックスは、アニーから「電話ちょうだい」とばかりに名刺をもらう。その次に乗せた客ヴィンセント(トム・クルーズ)も気前が良く、帰りの空港まで一晩貸し切ると言う。いいことが続いたと思いきや、突然タクシーの屋根の上に死体が落ちてくる。ヴィンセントは殺し屋であり、一晩のうちに4人を殺す依頼を受けていたのだ。何度も逃げようとするマックスだったが、ヴィンセントは脅し続けながらマックスを解放せず、依頼された殺人を続ける。

ビルの窓からヴィンセントに殺された死体が落ちてくる「落下」運動から物語は始まる。映画では何度もロスの夜の街が空撮で映し出され、マックスが走らせるタクシーを俯瞰でカメラは追いかける。上下の関係から始まり、タクシーを移動させながら殺人が横への移動とともに繰り返される。途中にジャズバーやマックスの母が入院する病院が出てくるところが面白い。殺人とは場違いな日常、場違いな病院での殺し屋と刑事とのさりげない接触。

4人目の殺しの標的がその夜に乗せた客、女性検事アニーであったことを知ったマックスは、ヴィンセントが来る前にアニーを助けようと電話をかけ、地上のマックスとビルの上の階で仕事するアニーとのやり取りになる。再び上下の位置関係。ヴィンセントに従うだけだったマックスが、車を横転させ、行動的、攻撃的になっていく。

ヴィンセントがアニーの元に迫るのを下から目撃したマックスは、急いでビルの上へと駆け上がる。下を走り回るだけだったマックスが、自ら上へと向かうのだ。ビルの電源を破壊し、暗闇の中で逃げるアニーと追い詰めるヴィンセント。助けに行ったマックスは倒れていた警備員の銃を奪い、素人ながら銃を撃ちながら今度は上から下の方へ必死で逃げる二人。ラストは地下鉄が使われる。地下1階と地下2階のホームに同時に入ってきた地下鉄。ヴィンセントは地下へと追いかけながら、二人がどっちの車両に乗ったのか迷う。暗闇のビルに続いて、地下鉄の追われる者たちと追う者のアクション場面も見応えたっぷり。上から下へと身体を使って走り、横へと運動する地下鉄がアクションを盛り上げている。

無事に地下鉄に乗って逃げたと思ったら、電車の最後部に張り付いて追いすがるヴィンセント。ヒゲを生やしながら、無機的な殺人マシーンと化したようなトム・クルーズが好演。人間っぽいマックスと感情を出さない冷徹なヴィンセントの好対照。電車の中で車両を次々と乗り移り迫ってくるヴィンセント。駅に止まって降りるか降りないかのサスペンス。ラストは、ヴィンセントが地下鉄に6時間乗り続けても死んでいることを発見されなかったロスの町のエピソードを語ったように、自ら静かに眠るように地下鉄で死体となって移動し続けて終わる。死者の落下運動と激しい音から始まった映画は、横への移動をし続けながら静かに音もなく身体は静止して終わるのだ。


2004年製作/120分/R15+/アメリカ原題:Collateral
配給:UIP

監督:マイケル・マン
製作:マイケル・マン、ジュリー・リチャードソン
製作総指揮:フランク・ダラボン、チャック・ラッセル、ロブ・フリード、ピーター・ジュリアーノ
脚本:スチュアート・ビーティー
撮影:ディオン・ビーブ、ポール・キャメロン
美術:デビッド・ワスコ
編集:ジム・ミラー、ポール・ルベル
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
キャスト:トム・クルーズ、ジェイミー・フォックス、ジェイダ・ピンケット=スミス、マーク・ラファロ、ピーター・バーグ、ブルース・マッギル、イルマ・P・ホール、バリー・シャバカ・ヘンリー、ハビエル・バルデム、ジェイソン・ステイサム

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