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【詩】夜を想ふ【なん歌】

夜を想ふ

静寂がしとやかに降り積もる夜
ドビュッシーの雲とターナーの月あかりに連れられて
おずおずと私のなかにそれは入って来た
不確かなそれに名をやると
みるみる膨らみ動き出した

とろみれ濃厚な珈琲 らそたせ陽気な音楽
君と私は語らった
散らかった部屋でとりとめなく
溶け合い すれ違い たまに、ぶつかり合い
私と君は駆け抜けた
入り組んだ街を果てしなく

ずぶとい雷鳴がドアを破ったある日の夕暮れ
私のなかから君がむんずと引き摺り出された
欲望を喰らう赤い獣の脂ぎった手によって

びかでら下卑た照明 どらぜか無骨な踊り
君は私を呼んでいた
がらんどうの舞台でとめどなく
とまどい さすらい 時に、はげしく損ない
君は私を探していた
道しるべを失い絶え間なく

私は君の名を叫んだ
なにもかもかなぐりすて
声が嗄れるまで繰り返し叫んだ
私が贈ったその名を
君に託した一握の祈りを
はじめて君が私に微笑んだ
あの夜を憶える星はそこに
遠くおぼろな雲を掴まんと
手を高く伸ばして

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