ロックフェスで感じた大衆に迎合し過ぎると中身がなくなる
かつて日本最大級の夏フェスであるROCK IN JAPAN FESや日本最大級の冬フェスであるCOUNTDOWN JAPANには DJ BOOTHというステージが存在した。
アーティストが演奏するステージとは異なり、DJが出てきて、レコードやCDをかけるステージである。
初期のDJ BOOTHはガラガラであった。ただDJ BOOTHがなくなる前の年には入場規制がかかるくらいの人気ステージとなった。
そして人気絶頂のままそのステージは消えた。これはどういうことだったのか振り返ってみたい。
初期のDJ BOOTHはロックDJといわれる界隈のDJやアーティストでDJをするのが好きな人が、洋楽や知る人ぞ知るインディーズの邦楽をかけていた。
盛り上がりはしないが、おしゃれで独特なクラブの雰囲気が味わえた。アーティストが演奏するわけではないが、ロックフェスの中でよいスパイスのように機能していた。
しばらく年が経つととその年のROCK IN JAPAN FESやCOUNTDOWN JAPANにでるアーティストの曲をかけるロックDJやアーティストDJが現れ始めた。
これが盛り上がるのである。当然出演者のファンはたくさん来場しているので、ファン達はその曲がかかればDJ BOOTHにいこうという気持ちになる。
2010くらいからだったがこの傾向が強くなり、DJたちも集客を目指して、出演者の有名曲をかけるという傾向が高まった。
初期のDJ BOOTHはそれぞれのDJのセンスの見せ合いで、それぞれのDJに個性があった。集客にはつながらないが「ロックDJ」という、マイナーなジャンルを大きなイベントで紹介するような役割があった。
現に自分はこのロックフェスで「ロックDJ」を知り、ロックDJ達が出演するクラブにも行くようになった。そして音楽の知識がかなり深いDJ達に影響され、マイナーな曲もたくさん聴くようになった。
しかし、DJたちはウケたことに気を良くして(それはもちろん悪いことではないが)さらにウケを狙っていくようになるのである。
今までは出演者のアーティストでウケる曲をかけていた。しかし次第に出演者でもなんでもないアーティストで、ただその年に流行っている曲をかけだしたのである。
当時のロックフェスに来るような客層は、夏フェス初期の「流行りの曲なんて聴かない」という人達が減り、「なんだか夏フェスって楽しそう」というライトな夏フェスを楽しむ人達が増えてきたくらいの頃であった。
そういった事情もあり、ヒット曲がかかるとものすごく盛り上がるようになったのである。こうなってくるとただのカラオケ大会である。DJがヒット曲を次々にかけて、DJ BOOTHの客がみんなで歌う、という状況が出来上がった。
ロックフェスでこのような状況は良くないと主催者は感じてROCK IN JAPAN2013を最後にDJ BOOTHを無くして、COUNTDOWN JAPANについては13/14の年を最後に実質的に無くなった。
その後もロックDJが出ないではないが、かなり人数を減らしていて、出演時間もアーティストのステージが始まる前など、人があまりいない時間になった。DJ達は大衆に迎合し過ぎて自分たちがもっともアピールできる、ロックフェスのステージを失ってしまったのである。彼らのほとんどはクラブに帰っていくか、DJをやめた。
そんな状況でも、まだCOUNTDOWN JAPANの12月31日のカウントダウンの瞬間という、もっとも華々しい時間帯にDJとして呼ばれる人がいる。
それがDJ ダイノジである。お笑い芸人のダイノジがDJをしていて、それが理想的なロックDJだから、まだロックフェスで生き残っている。
ダイノジもヒット曲をかける。ただしそれは5分の1くらいの時間である。とっかかりとしてヒット曲もかけるが、誰も知らない洋楽、有名でない邦楽もたくさんかける。
普通はそのような曲がかかると人がそこから去っていくのであるが、ダイノジの時はそうはならない。ダイノジの大谷さんの煽りや曲の解説があり、ダイノジの大地さん率いるダンサーが参加者に同じ振り付けをする様に促す。
そうすると客席が一体化して、客たちがほとんど知らないようなマイナー曲でも盛り上がるのである。そして後日、客たちはその曲のことを調べて自分たちの音楽の世界を広げていくのである。
知っている曲だけでなく、いい曲がこの世の中にたくさんあることをダイノジは知らせてくれる。私もこのおかげでかなり聴く曲の種類が増えた。食わず嫌いしていたようなジャンルも聴くようになった。
これがロックDJのあるべき姿だということをお笑い芸人であるダイノジが示しているのである。ロックDJやアーティストDJ達ができなかったことをお笑い芸人であるDJがやってのけてしまった。
これからもDJダイノジはロックDJの正しいあり方を示し続けてくれるだろう。
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