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ユーザーの能力向上を目指したデザインアプローチ

この記事はフルリモートデザインチームGoodpatch Anywhere Advent Calendar 2022 6日目の記事です。

ロリポ卒業で消えてしまった2016年の年末ポエムをサルベージします。考えていることは6年前とさほど変わらない模様。

価値から考えるUXデザインプロセス

UXデザインは大雑把に言うと「体験のリサーチ」を元に「ユーザーの具体化」をし「体験の設計」をするという手順を踏むデザイン手法です。

「体験のリサーチ」はユーザーが内包するペインとゲイン、その背景を可能な限り解像度高く捉える活動です。

「ユーザーの具体化」はリサーチの結果をふまえ、バリュープロポジションキャンバスやバリューマップで価値とユーザーの関係を明らかにしたり、ペルソナやカスタマージャーニーマップを代表とする体験をモデル化した成果物で「価値がユーザーに届くまでの流れ」をはっきりさせる活動です。

「体験の設計」はタスクシナリオやサービスブループリントを使って「価値を届ける仕組み」を設計する活動です。

この3つのステップを踏んだあと、価値を適切に、もしくは期待を超えた価値を提供する手段としてプロダクトやサービスを開発します。

もちろん現実はこのようにキレイな流れになることはなく、プロトタイピングとリサーチを繰り返し、具体と抽象を行ったり来たりしながら体験を設計していきます。

UXデザインがここまで述べたような存在だとすると、UXデザインはリサーチで見つかったユーザーにとっての「価値」、つまり「ゴール」を達成するための体験を設計することだと言えます。いわゆるアラン・クーパーの言う「ゴールダイレクテッドデザイン」です。

ゴールダイレクテッドデザインではありませんが、アジャイルやスクラムのデザインプロセスも似たようなものです。ユーザー価値を明確にし適切な方法で価値を届ける方法を知るためのデザインプロセスです。価値やユーザーゴールが不明瞭なままのUXデザインアプローチを私は知りません。

ゴールダイレクテッドデザインと現実の矛盾

近藤隆夫先生著「サービスマネジメント入門」にサービスの定義が書かれています。

それによると顧客がサービスを体験すると顧客に何かしらの変化が生じます。例えばヘアサロン。カリスマ美容師がその巧みの技で顧客を魅力的にしたり、顧客の望むスタイルに仕上げたりします。これは、髪を整えるというサービスを通して、顧客の容姿が変換されたということです。変換された顧客自身の容姿に対して抱く感情や評価が顧客にとっての価値となります。

価値は人それぞれ異なります。また、個人の中でも文脈や状況によって価値は変化します。美容師の技術やその施術方法に価値を感じる場合もありますし、髪が傷んでるときは髪質に価値を感じることもあります。疲れてる時はマッサージに価値を感じることもあります。

価値は機能やデザインにあるのではなく、価値は顧客それぞれの中で生まれた体験の結果生まれるもので、かつ状況によって異なる価値を感じるのです。

デザイナーは気持ちをデザインできるのか?

UXデザインのゴールダイレクテッドな考え方では価値をユーザーにとって固定的だったり限定的な存在と捉えてデザインをします。

ひとつのサービスでも受け取る価値は多様である前提に立ってしまうと、検証したり設計するシナリオが無限になってしまいますし、何にフォーカスして体験設計すべきか不明瞭になってしまうからです。

UXデザインは「ユーザーゴールはタスクの達成ではなく、その先にあるユーザーの気持ちがゴールだよ」という趣旨の解説をときどき目にします。私自身もこのような趣旨の説明をすることもあります。これはゴールが固定的な何かと捉えた前提での説明です。「ユーザーに特定の気持ちになってもらうことがデザインの目的だ」と説いているような説明だからです。

UXデザインのゴールダイレクテッドなアプローチを否定したいわけではありません。Problem-Solution Fit や Product-Market Fitを戦略的に実行するためにも、組織が一丸となって目的を遂行するためにも価値の明確化はビジネス推進をするために必要条件です。

昨今はUXデザイン不要論も消え、価値を明らかにすることは当然の流れとなり、各企業が各々の方法でUXデザインアプローチを汲み取りながら事業を進めています。素晴らしい時代です。

一方で、実際にサービスを通して享受する価値や達成するゴールは人と状況によりそれぞれですし、ユーザーは提供者側が想定していない使い方をするものです。

インスタでハッシュタグを鬼のようにつける文化はデザイナーが意図したものでしょうか。ツイッターの「Aだと思う人RT、BはLike」という工夫はデザイナーが仕組んだものでしょうか。メルカリで値引きをするために「○○さん専用」として再度出品することはデザインされた仕組みでしょうか。

ユーザーが手にしたのは価値ではなく能力

さてここからが本題になります。長い。

ユーザーは人、システム、道具といった、ユーザーの取り巻く環境の一連との関係により、労力のかかることを容易に実行したり能力的に不可能なことを達成できるようになります。

ペンは二次元情報を残す能力を人に提供します。その価値は無限にあり言いきれません。包丁は切る能力で様々な料理や味を食べる人に提供しますし、切るだけではなく叩いて肉をやわらかくするといったこともできます。

Twitterは情報を発信する能力を提供しますが、独り言を言う人もいれば、広告を発信する企業もいますし、意識の高さをアピールするベンチャー社長がいると思うと大喜利を楽しむ人もいます。カオスです。

ペン、包丁、ツイッターは機能的な例ですが、非機能的な要素もさまざまな能力をユーザーに提供します。

Walkmanはその小ささで場所問わず音楽を聞く能力を提供し、通勤通学で利用するだけでなくWalkmanをお風呂でジップロックに入れて音楽を聞いたりなど音楽との付き合い方を自由にしまぢた。

Googleはすぐ答えを知る能力をユーザーに提供し、世界中の人々は知りたいことはとるあえずGoogle検索するようになりました。もちろんGoogleが直接提供しているのは検索機能だけで、ゴールはウェブサイトを閲覧したその先にあり、これもまた数えきれないゴールがあります。

ゴールダイレクテッドデザインはユーザーゴールを明確にするアプローチです。もちろん何をゴールにするか次第ですが、発想としてはペンに対してコンパス、包丁に対してピーラーが生まれやすいプロセスがゴールダイレクテッドデザインなのかなと思います。

ゴールダイレクテッドデザインにより、サービスやプロダクトはユーザーゴールにとって最適なものとなります。

価値はユーザー自身が結果として享受するもので単一ではありません。価値はユーザーの状況や文脈に応じて常に変化します。

ゴールダイレクテッドデザインのアプローチでは価値やゴールの変化に対応しにくいはずです。ゴールダイレクテッドデザインでは享受する価値が単一だったり限定的になるからです。また、単一のゴールを目指すことは複数の価値が存在することを許容しにくいです。

ユーザーの能力を向上させるには

ここからはゴールや価値を限定せず、ペンや包丁、WalkmanやGoogleのように顧客がどんな能力を向上できるのかを土台としたデザインアプローチについて可能性を語ります。

デザインアプローチ
ユーザーの能力を向上させるために必要なのは「自由度」です。一つの機能/非機能に対し、ゴールに制限がなく、顧客がゴールを決めるための余白やゆらぎ、余裕を持たせることを目指します。

これはタスクをコマンドで実行しゴールを達成できるプロダクトより、顧客が自分でゴールを決めたり、調整したり、意思を込められるタイプのプロダクトに適しているアプローチかと思います。タスクに縛られず、人に自由を与えて、人の可能性を広げることをデザインによって目指します。

単タスク複数ゴール
例に挙げた包丁、ペン、ツイッターは、1つのタスクに対しゴールが限定されません。コンパスやピーラーはゴールが一つとは言いませんが非常に限定的です。ひとつの機能で達成できるゴールを限定せず、逆に複数のゴールを達成できる方法を考えることが能力向上を目的としたUXデザインに重要になるかなと予想しています。

もちろん多機能で複数ゴールに対応するのは誰もがご存知のとおり悪手です。百徳ナイフの例はみなさんもご存知でしょう。多機能ではなく、単機能で複数のゴールを達成できるようにすることがポイントです。

スペック
スペックは能力そのものです。例えばモノの小ささ、軽さ、速さは人間を束縛している物理的制約からの解放につながります。

良い例は携帯電話です。電話はコミュニケーションのためのシステムです。コミュニケーション自体価値が無限でした。それに加えて持ち運べること、安定して話ができることによって生活スタイルが変わり、携帯電話がある前提での生活や仕事が生まれました。

携帯電話は元々価値の自由度の高いプロダクトが物理的制約を超えてユーザーにさらなる能力を与えたパターンと言えるかなと思います。現代ではスマートフォンがさらなる能力をユーザーに与えています。

刺身包丁や果物ナイフ

刺身包丁や果物ナイフは包丁よりゴールを限定する道具ですが、これはゴールダイレクテッドというより包丁の扱いや料理の能力が高いからこそ扱う意義のある道具です。

過程だと普通サイズの包丁とペティナイフを使い分けをする人がいますが、これは自分にとって最適な道具を使い分ける能力があるからで、その能力の違いがなければペティナイフに価値は生まれないかと思います。

ピーラー以上包丁未満、能力向上アプローチはこのぐらいの方向性でデザインするといいのかなあと想像しています。包丁を目指すのは発明であり人類の進化と呼べるレベルの道具だから全く別のアプローチが必要そう。

ドラえもんのストーリー

みなさんドラえもんのストーリーを思い出してみてださい。ほぼこのテンプレで進むことが多いかと思います。

・のび太が課題に直面する
・ドラえもんが解決につながる道具を提案する
・提案された道具を使い、のび太が課題を解決する
・のび太が提案された道具の新たな使いみちを発見する
・新たな使いみちを通じてのび太がさらに良い体験をする (ほぼ悪行)
・悪行に制裁が加えられる

能力向上アプローチのUXデザインでは、この中にある「のび太による道具の新たな使いみち発見」がポイントです。ドラえもんが説明した以外の使い道がのび太にとっての価値となっています。

これは現実でも実際に起こることで、このnoteでもWalkmanや携帯電話を例として挙げました。どちらもメーカーが提示した価値以外の使い方で顧客は人生を豊かにしています。

のび太のように常に課題意識を持つ人は自身の環境にある道具やサービスで課題解決をします。その価値はメーカーやサービサーが想定した価値と一致するとは限りません。人間が道具やサービスを通して自分自身で生活を豊かにしています。

使い方をユーザーに委ねられる自由度を

人間の制約を取り払い、自由を広げるプロダクトやサービスであれば、ユーザー自身がのび太のようにそのプロダクトやサービスから勝手に新しい価値を見つけてくれるはずです。自由であればあるほど、人間の成長や変化に対応できるのです。

私はウォークマンの事例が大好きです。音楽を持ち運べるようになったことで人間の生活はまた一つ豊かになったと思っています。

ユースケースをガチガチに組んだ個別対応に特化したプロダクトやサービスは、ユーザーがプロダクトやサービスからその先を見出すことができず、最初は良くてもいつかは他のプロダクトにお引越しされてしまいます。

「あんなこともできそう」「こう使ったらおもしろそう」とユーザーがプロダクトやサービスに夢を見られるように、何を価値とするのか、何をゴールにするのか、ユーザー自身が決められるような道具やサービスに私は可能性を感じています。

価値から考えるUXデザインアプローチではなく「ユーザーの能力向上を目指すデザインアプローチ」を私はこれから探求していきたいです。

終わりに

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