見出し画像

只見線に乗って東山温泉『向瀧』に宿泊してきた

ローカル線で行く、一人旅好きの秋野あき子です。

2023/7/30〜8/1にかけて、新潟の小出駅から只見線に乗って会津若松へ向かい、国の登録有形文化財でもある老舗旅館「向瀧」に宿泊してきました。

国の登録有形文化財『向瀧』

ローカル線を乗り継ぎ、北陸から会津までは長い長い旅となりましたが、これが良いんですよ、これが。私はいつも旅には本を一冊携えて行きます。電車の待ち時間にスマホ見てると充電はすぐなくなるし、モバイルバッテリーも熱くなるし。ローカル線でも田舎であればあるほど、駅のホームの音と空気の中で読む本が好き。なるべく小説の舞台となった所行けば旅情もますます深まるんでしょうけど…

で、今回のお供はこの本「人間失格(著:太宰治)」。

『人間失格』

何故!?

「あゝ私は人間失格だ」などと思っていないわけでもないのですが、この名著を読まずしてこの歳まで生きたので人間失格と言われてもいいです。
厚さも旅のお供にぴったり。

こちらは『旅行の友』

さて、旅の始まりは糸魚川ひすいラインから覗く日本海の日没です。

車窓からの景色

疾走感!w

雲が海面に少しかかって夕陽を隠していましたが、それもまた良し。首をだいぶ後方に捻って車窓からの景色を堪能しつつ、新潟県の小出駅へとひたすら揺られます。

小出駅に着いたのは22時頃。
途中、直江津駅付近のコンビニで晩御飯を買い込み、駅チカの『小出ホテルオカベ』で宿泊しました。
予約時「朝5時過ぎ頃のチェックアウトは可能ですか?」と尋ねたところ、「可能でございます。始発の只見線にお乗りなんですね」と話が早くて助かりました。

翌朝。
チェックアウト時、おそらく同じ只見線に乗ると思われるリュックを背負った紳士に「お先にどうぞ」と会計を譲って頂いたw
やはりローカル線を愛する者はすべからく紳士淑女…
私もこの紳士のように、いつか誰かに会計を譲って差し上げたい。

小出ホテルオカベ
快適に過ごさせて頂きました
ホテルの部屋から小出駅のホームと朝焼けが…
エッッッッモッ!!!!

小出駅から、始発で会津若松駅まで向かいます。その所要時間は約5時間!私のケツが耐えられるのかというは些末な心配事です。旅の共、人間失格がチラチラ鞄から覗きます。確かに5時間あれば読めますね、でもね、車酔いするタチなんで停車中しか読めないんですよ。

小出駅
緑のラインがとっても素敵

駅のホームにはすでに何人もいて、写真を撮ったり、電車内をうろうろしたり、座席で寛いだり。
私もソワソワしながらパシャリ。

朝焼けに淡い若草色は映える

私、ローカル線の電車に乗って旅をするのが好きなだけで、電車自体は全然詳しくないのですが、只見線は2011年に豪雨被害を受けて2022年まで11年間も廃線に追い込まれていたそうですが、地元の方々の熱い活動のおかげで再開できたんだそうです。11年間、どれだけ多くの鉄道ファンが待ち望んでいたかを思うと胸熱ですね。乗ってみて感動しましたが本当に素晴らしい路線でした。

車窓からの景色
川面に山が反射して幻想的
船頭さんが手を振ってくれました

朝靄というのか朝霧というのか、それがかかって電車の窓が曇るのでものすごく心配しましたが、なんてことはなかったです。日が高くなるにつれ霧が晴れ、幻想的な風景を堪能できました。ちなみに、座席は進行方向の右でも左でもどちらに座っても川沿いの景色は楽しめます。

3時間ほど揺られ会津川口駅に到着しました。40分ほど停車するので、休憩がてら外の空気を吸いに行きました。

鏡のような水面
風光明媚で賞受賞!

清涼感たっぷりの空気を吸い込んでから、車内に戻り座席で人間失格を広げます。ンッン〜、陰鬱ッ!!

そしてさらに2時間かけ会津若松駅に到着。

ちなみに人間失格は最後まで読めませんでした。これまで慣れ親しんだ現代小説とは打って変わって、純文学って、目が慣れないとなかなか読み進められませんね。特に太宰治は句読点がいつまでもこない印象で、つらつらと書き連ねる文体というのか、呼吸をいつすれば良いの?と感じました。しかしながら、『「馬鹿野郎。貞操観念、……」』だとか『「モチよ」モチとは、「勿論」の略語でした。』のくだりはなんかすごく好きw言ってみたい台詞ナンバー1と2独占です。

会津若松駅

いいですね〜、この蔵のような?趣深い駅。写真ではわかりづらいですが、時計もとってもレトロで素敵です。駅構内もお土産屋さんや飲食店が充実しています。

ちょうど昼時なので食事をと思いましたが、せっかくなので会津の観光をしつつ、気の向くまま昼食を取ることにしました。
「あかべえ」「ハイカラさん」という2種類の周遊バスが会津若松内を良い感じに巡ってくれるので、早速1日フリー乗車券(大人600円、子供300円)を購入します。

公式ホームページより拝借

私が乗った時は、普通の市内バスという感じでしたが、車内では会津若松の名所をガイドしてくれる音声が流れていて、観光客でひしめき合っていました。

最初に訪れたのは『野口英世青春館』。千円札の人だぁ、囲炉裏に落ちた人だぁ、程度にしか知らない日本人としても失格の私。ちなみに、千円札といえば夏目漱石の方が馴染み深い年頃です。

野口英世青春館

野口英世が手の手術を受け、書生として3年間過ごしたのがこの『會陽医院』だそうで、現在は1階を喫茶店、2階を資料館として当時の建物のまま残してあるそうです。2階の資料館には野口英世の書簡や、実際に使っていた動画が家財など展示され、ビデオ上映などもあり、入館料200円で野口英世の功績や歴史を贅沢に学べます。
1階の喫茶店はレトロな内装にドギュウゥン!

レトロオブザイヤー受賞

まだ奥にも座席がたくさんあって、6人くらいかけられるような大きなテーブルもあります。
珈琲一杯を頂く予定でしたが、

ハムエッグと珈琲のセット

しっかり軽食を摂ることにしました。
会津名物、ソースカツ丼を食べるつもりだったのになぁ。ソースカツ丼といえば、北陸では福井県のソースカツ丼が有名です。福井のソースカツ丼とどう違うのでしょうかね。ぜひ違いを堪能したいものです。

次は、『鶴ヶ城』。

鶴ヶ城

赤瓦の天守閣は全国的に見ても、この鶴ヶ城だけだそうですよ。赤瓦発祥の地が、この会津なんだそうで。
そうそう、赤瓦と言えば只見線に揺られながら農村風景を堪能中、赤屋根の家がぽつんぽつんと現れて、この地域の家屋の特徴なのかなぁとぼんやり眺めていたんですが、その土地の風習や風土に触れる瞬間がたまらなく良いですよね。ああ、知らない所に来たんだなという非日常感とちょっとした緊張感が旅の醍醐味ですね。

天守閣からの眺め

鶴ヶ城のすぐ麓に、『鱗閣』という茶室があります。千利休が豊臣秀吉の怒りを買い自害してしまったことで、千家の茶道が絶えるのを惜しんだ、時の会津藩主が利休の子、少庵を会津に匿い茶室を建てて千家の再興を願い出たそうですよ。(公式ページ丸々引用)

茶室鱗閣
平成になって復元されたそう
冷たい抹茶と薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)

とにかくうだる暑さで若干疲れが出て来たんですが、抹茶はアイスかホットを選べるのでありがたく冷たい方を頂きました。さらりとした飲み口で美味しかったです(語彙力)また、この薯蕷饅頭はすりおろした「つくねいも」と米粉を使って、皮剥きした餡子を包み込んだ上品な和菓子でして、とても美味しかったです(語彙力)。

さらに訪れたのは『栄螺堂(さざえどう)』。

栄螺堂

国重要文化財に指定されている観音堂です。文化財の響きだけでもう好き。3階造りのこのお堂、その名の通りサザエのように渦巻いた面白い構造で、中はスロープになっています。不思議なことに行きと帰りですれ違うことなく、中を一周できるんですよ。何を言ってるのかわからないと思いますが、私も何が言いたいのかわかりません。

不思議な感覚…

この造りの遊具があったら子供達喜ぶだろうな。大人でさえはしゃいでるんだから。気づいたら2周してましたね…

さあ、この王道のコースを辿って行き着く先はいよいよ『向瀧』!秘境感満載なのに、周遊バスで行けるのも魅力ですね。ちなみに、だいたい3カ所巡るのに4〜5時間ほど要しました。本当はもっと訪れたい場所がたくさんあったんですけど、絞りに絞って3カ所です。

ところで今回、向瀧に宿泊を決めたのは、5月に公開された映画『岸辺露伴 ルーブルへ行く』で、露伴の青年時代、執筆活動のため夏休みの期間だけ祖母の屋敷で過ごしたシーンがあり、その屋敷のロケ地というのが向瀧だったからなのです。

岸辺露伴 ルーブルへ行く

かねてより、只見線は絶対乗りたいと思っていましたが、北陸から東北ってなかなか行きづらい位置関係にあって、いつか乗りたいという気持ちだけが募っていました。
そんな折、映画を見て、露伴の青年時代に過ごした家に魅了されました。この屋敷は一体どこなのか?ものすごく文化財のかほりがするッ…
検索しているうちに、あれよあれよと向瀧の予約ページで予約し、気がついたら北陸から只見線へ乗るための計画を立てていました。

映画の話にはなりますが、どのシーンを切り取ってもアートでしたね。泉くんのファッションもとっってもキュート。ルーブル美術館もいつか行きたいですね。いつか行きたい場所が多すぎて、人生一周では足りない。

さて、周遊バスで東山温泉まで行き、東山温泉駅から徒歩で2分ほどで向瀧が見えてきます。

凄……
胸が高鳴る!
ついに見えた『向瀧』の看板

川沿いに見事な木造建築物が連なります。建築にも疎いんですが、何造りというんでしょう。ググりましたところ、「木造漆喰壁入母屋瓦葺二階建」。ふむむ。なんと明治時代から続いているそうです!
「きつね湯」の愛称で親しまれてきた温泉保養所だったとのこと。一度ホームページを見て頂きたい…客室一室一室の画像と説明の豊富さ、温泉のクオリティ、歴史、こんなに胸が高鳴る旅館のホームページがあるだろうかッ

正面玄関

橋をスタコラ歩いていると、宿から数名従業員の方が颯爽と出迎えてくれました。身に余るおもてなし…

古い時計やトトロでしか見たことない電話が!
渡り廊下
中庭の池、鯉が泳ぐ
どこからでも庭に出られます
この複雑な構造!客室の扉もおしゃれ
どの部屋からも庭が望める
泊まったのはこの部屋でした

もうこの空間にいるだけで狂い悶えそうでした。喜びでなッ!

webサイトの予約時、「当館を知ったきっかけは?」という項目があり、正直に「岸辺露伴ルーブルへ行くのロケ地と知って」と答えたんですが、宿に着いて早々従業員の方から「岸辺露伴を見てお越し下さったんですよね?」「こちらの場所で撮影されていましたよ」など、親切極まるお声かけをたくさん頂きましたw

「なでしこ」というお部屋に案内され、一息つきます。

最高かよ…
またしても抹茶を頂きました!
この机も凝っていて素敵

一服したところで館内を散歩します。

迷路のやう
レトロな鏡1
レトロな鏡2

散歩していると、「後ろからお声がけ失礼致します」と先ほど出迎えてくれた従業員の方が、何やら資料を持って声をかけてきました。
「こちら、映画で撮影されたシーンと同じ場所を並べた写真です。よろしければこちらを参考になって館内まわられてはいかがでしょう」

ズギャアアアン!!!

さらに、「ここの階段が映画で使われてますよ」「この画角です!」「カメラをこう下から上に向けて撮るようにすると映画のシーンになります」

親切すぎて笑うわwww

「木村文乃さんがこうして立ってらっしゃったシーン印象的でしたね、お撮りしましょう」

本物はこちら…木村文乃さん、お美しい
似ても似つかないんですが!?

旅館の方の小粋な計らいで、非常に楽しい散策となりました。日が沈んでからの散策も楽しみです。

ひとしきり館内を堪能した後、次は温泉に入ります。
大浴場が2ヶ所、家族風呂が3ヶ所あって、全部お好きにどうぞ!との大盤振る舞い。

尋常じゃない熱さのきつね湯(大浴場)

昔から湯治場して人々の健康を支えていたとのこと。きつね湯は洗い場が2ヶ所ほどありますが、主に湯に浸かるための浴場という感じでした。
他の宿泊客も「あっっつッッ!!!」と身悶えしていましたw意を決して肩まで浸かりましたが、足のつま先から痺れを伴って、えもいわれぬ快感が全身を襲います。ちょっとクセになりそうでした。痛気持ちいい♡

ぬるめのさるの湯(大浴場)

こちらは景観も素晴らしく、ガラス張りの窓から深緑の庭が望めます。半露天風呂のような感じでした。壁は大理石なのかちょっとわかりませんでしたが、幾何学模様のデザインが美しかったです。浴場と脱衣場を仕切る引き戸がなんとも趣き深い凝った造りで、昭和の時代によく見た模様付きのガラス張り引き戸となっており、隅から隅までここは文化財なんだなぁと感じさせます。他の宿泊客がいらっしゃるので撮影はできませんでしたが、実物を見てもらいたい…!

家族風呂の入り口
映画にも出ていましたね
タイルが可愛い!温泉堆積物の年季の入りよう
天井まで凝ってますね〜

家族風呂の方はまだ誰もいなかったのでパシャリ。非常に歴史の重みを感じる温泉です。温泉はサラッと透明で肌に優しくなじみました。
一つの旅館内でいろんな湯めぐりできるのも良いですねぇ、温度の違いもあるし、それぞれ個性のある造りでワクワクさせてくれます。全てが古くて鄙びていて、それでいて上品で…そんな年寄りに私もなりたい。

湯めぐりツアーの次は、いよいよお部屋で夕食です!会津の郷土料理が頂けるとのことで楽しみです。中でも「鯉料理」ですが、予約時に「鯉は大丈夫ですか?」と念押しされたくらいなので、好き嫌いがはっきり分かれるのでしょうか。

鍋の蓋を開けて撮るの忘れましたw
一番右手にあるのが鯉の甘煮
写真撮るの下手すぎやろw

食べ始めると写真のことなど忘れてしまって、ろくに撮っていなかったです。鯉の甘煮は、鯖の味噌煮に近く濃く炊いてあって臭みなど一切気になりませんでした。骨が多くちょっと食べにくいですが、ちまちま箸でつついて頂きました。この後に「こづゆ」も出てきましたが、写真がない…具沢山のお吸い物という感じでした、具材が豪華だったことは覚えています。多分、お酒も進みアッパラパーだったんだと思います。
仲居さんが一品一品丁寧に説明してくれて、地酒も頂き、会津の食を堪能できました。

お腹も膨れ、酔いもいい感じに回っているので夜の徘徊に出掛けます。

雰囲気ありますね
闇夜に浮かぶ向瀧の看板
ここも映画で奈々瀬が立っていた場所
各部屋の明かりが風情です

部屋に戻り、一日を振り返ります…。寝て起きたらもう帰らなくてはいけない、そんな寂しさが込み上げますね。人間失格はこの日、最後まで読みませんでした。

翌朝。遠くの方で響く雷の音に目を覚ましました。昨日はあんなに天気に恵まれたのに。雷鳴が徐々に近づいていて稲光が届きます。そして屋根を叩きつける雨粒の轟きの中、布団の中でまどろみつつ考えました。
帰りの列車、運休になるんじゃね???
そんな不安を煽り立てるように、雨は容赦なく弾丸のように中庭の池に降り注いでいました。
しかし通り雨だったのか、数分後には静けさが戻ってきて、しとしとと控えめな雨音に包まれました。
会津は盆地なので、こういった激しい通り雨は多いのでしょうか。

朝食は控えめでお腹に優しい

朝食を給仕してくれた仲居さんと、今朝の雨について語り合いつつ、頂きます。米うっま。おかわりしてしまいました。北陸の米も美味しいですが、福島もさすが米所ですもんね。

通り雨のあと

雨の余韻が耳に心地よくて、しばらく中庭を眺めていました。とても寂しい。旅の終わりが近づいています
。急に現実が蘇りますね…
始まりには必ず終わりが来る。終わりがないのはゴールドエクスペリエンス・レクイエムくらいなもんです。

向瀧は本当にいい宿でした。文化財そのものに泊まれる贅沢さと、人情味あるおもてなしの波状攻撃。何度でも訪れたい宿です。

東山温泉駅の駐車場
退廃した感じがエモい
苔むして侘しい温泉街

会津若松駅へは、再び周遊バスに乗って向かいます。バスの待ち時間でその辺をぶらついてみました。侘しく鄙びていて何もないところがとても良い。

惜しむらくはソースカツ丼を食べられなかったことです。
またもう一度訪れた時には絶対食べたいですね。

心配していた帰りの列車は運休せず、定刻を少し遅れて出発しました。会津若松から磐越西線に乗り新津へ向かい、新津から北陸新幹線でふるさとまで帰ります。

磐越西線の車窓からの景色
美しい川沿いの風景が続きます
ホームに誰もいない平日の新津駅

帰りの電車の停車中や、待ち時間でやっと人間失格を読み終えました。最後のマダムのセリフに、「お父さんが悪いんですよ」「葉ちゃんは神様みたいにいい子だった」とありますが、太宰は誰かにこう言って欲しかったのかなぁ…と感じた次第。終始陰鬱で救いのない展開にみる人間の業に、人とはどうしようもないやつで、愛に振り回されるが愛なしには生きられない悲しきモンスターなのだと感じさせられました。葉蔵が心中未遂をはかって、自分だけが生き残り自殺幇助罪に問われ、取り調べを受けている場面を物語にした「道化の華」も非常に読みたくなりました。しばらくは太宰治フェアになりそう。

旅の締めくくりは、妙高はねうまライン線で見る北陸新幹線「はくたか」の車窓からの景色です。

慣れ親しんだ日本海
新幹線から見る日本海もまた乙なもの

会津の朝で見舞った弾丸のような通り雨が嘘みたいに、穏やかな日本海が広がっていました。

今回の旅はここまで。
また次は、どんな旅に出て、どんな本を読もうかな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?