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観光史学とは? 会津は歴史で飯を食うつもりのゲスばかりの土地なのか?

 SNSで歴史談義はしないようにしています。理由はどうでもいいでしょう。端的に言えば時間の無駄です。
 しかし、長年気になっていることはある。それはWikipediaにも掲載され、そこから派生してインターネット上で定着した「観光史学」という用語についてです。
 なんでこんなことを書いているかというと、詳細はここでは書きませんが、こういう趣旨のことをSNSで見かけたのでまとめてみたくなったのですね。

「会津の連中は飯を食うために白虎隊だのなんだの持ち上げている」
「H氏だのN氏だの、ムッソリーニ碑のことを真摯に反省したのか?」

 では、考えていきましょうか。

「観光史学」とは?

 そもそも観光業とは、交通網の発達といった要素がなければ成立しません。Wikipediaを引いてみましょう。

観光史学(かんこうしがく)とは、主に第二次世界大戦後に地域の歴史において、観光資源として動員することを理由に創作された歴史観。

 Wikipediaでも他言語版がないので、日本独特の話とされそうではあります。さらにWikipediaの記述からすれば、会津のど田舎のアホどもだけが提唱しているように思えなくもありませんが。

 著名な提唱者に挑戦するようで気が引けますが、考えてみましょう。

「観光史学」は会津だけか?

 まず、他国にはないかのような「観光史学」とされますが、そんなことは無論ありません。四川省が観光資源として諸葛亮はじめ蜀を利用する。スコットランドでメアリー・ステュアートをウイスキーの銘柄にして、観光局サイトに掲げる。それは世界各地であることです。
 このメアリー・ステュアートなんて、在位当時は「あのカトリックを信じる淫らなフランス娘!」と散々嫌われ、スコットランドを追い出されて斬首されたことを踏まえれば、なんちゅうご都合主義! ってなもんですけどね。

 そういう事例にいちいち、

「スコットランド人どもめ! おまんま食うために、てめえらが追い出した女王メアリーを持ち上げてんのか!」

 なんて言います? 言ったらまあ、どういう反応されるかな、ネタ扱いかな。

 ちなみに英語にはmemory activismって言葉もありますよ。各自調べてみましょうね。

会津の観光資源は白虎隊だけか?

 スコットランドはなんといっても自然が美しい。ピクチャレスクってなもんで。観光資源は悲劇の女王に頼らずとも、たくさんあります。あくまでメアリーはその一部ですね。
 これは会津もそう。東山温泉、芦ノ牧温泉は古くからの観光資源です。それこそ第二次世界大戦後だろうが、メインは温泉がらみの観光です。だって飯盛山に登っても芸者は来ないけど、温泉ならついてくるじゃないですか。
 明治以降も裏磐梯五色沼、そしてスキーリゾート。磐梯山噴火あとのジオパーク。自然がらみのものの方が動員力があります。白虎隊や新選組も観光資源といえばそうですが、二の次になることは間違いない。
 最近では白虎隊よりも、『鬼滅の刃』の無限城そっくりな宿がコスプレイヤーに人気じゃないかと思いますがね。大内宿もいいですよ。最近は土地の高低差を生かした自転車観光も進めているそうです。

 飯の種なら温泉がある。つまり動機としてそんなに強くねえってことです。
 歴史観光資源も時代によって変わります。伊達政宗、蒲生氏郷も人気。蘆名氏の影の薄さは気の毒ですけれども。

 ともあれ、話をまとめますと。温泉だの自然だの、そういう観光資源をメインとしている会津人に対し、

「金目当てで白虎隊だのなんだの言うゲスどもw」

 と、嘲笑う。

 そんな論理破綻した嘲笑をする自分自身に何か虚しさは感じませんか? 一時が万事そうであるならば、周囲も呆れているかもしれませんね。でも、あなたが気の毒だからか、相手にするのも面倒なのか。そんな理由でっているのかもしれませんね、

「観光史学」は会津由来か? 会津に罪はないのか?

 確かにアジア・太平洋戦争に向かう中、白虎隊は利用されました。ヒトラー・ユーゲントが飯盛山を観光し、あのムッソリーニ碑ができたといえばそう。
 つまりは皇国史観の中にうまく取り込まれたといえばその通りです。会津といえば南京事件に関与した兵士の日記がよく出てきます。連隊がそこにいたのです。
 
 で、そのことに無反省かと言い切られたら、いったいどういうことかとは思います。プロパガンダ作家としての柴四郎も忘れてはいけませんし、その弟である柴五郎にしたって、手放しで褒めていいのか悩ましいところではあります。松江豊寿がいるからといって、会津の戦争がらみのことが消されるわけだってない。

 話が飛びました。ムッソリーニ碑のことでも。あれは一旦は表示が変えらえれたし(現在は復元済)、あの碑があるから飯盛山に行かないという海外の人は多くいたものです。

 実は明治時代の飯盛山整備のころから、観光と慰霊の兼ね合いは取り沙汰されてはおりました。それこそ東山温泉の湯治客が、芸者同伴で訪れたらどうするのかと議論になっています。
 今だって、『ポケモンGO』のポケストップにされて削除されたという話がある。観光と慰霊の混同なんて、目新しくもなんともない。それこそ靖国神社なんて問題ですよね。

 こういう慰霊を国民性に刷り込んでいくやり口は、会津でなくて、根源を辿れば皇国史観、ひいては後期水戸学に向かいます。会津を批判するのであれば、いっちょ水戸学もいきましょうよ!
 なんでも水戸には、桜田門外の変をネタにして、萌えキャラをつけたお土産菓子も販売されているとか。『青天を衝け』でも盛り上がっていますし、何やら水戸学再評価活動をしている人もおられるとのこと。今、時代は会津よりむしろ水戸です。

 そもそも論として。
 被害を訴えた相手を「要するに金目でしょ?」っていう理屈と同じじゃないですか?
 そういうことを先住民族や、女性や、先の大戦被害者や、被災者にはいわない。言う前に悪いと気付くのに、戊辰戦争被害者を除外するとすれば、その心理は何故ですか?
 
 観光うんぬん以前に、先祖代々伝えられてきた慰霊を守っている人もいる。そういう相手に「要するに金目でしょ?」と言う心理はどこから来ますか? ネットならオッケーなんですか?

「観光史学」は第二次世界大戦後のものなのか?

 会津が観光を売りに出したということは正しくもない。さんざん書きましたが、温泉観光は長いこと人気です。
 明治以降、交通手段が発達すると、観光業が本格化していったものです。その当時は別に会津が白虎隊観光なんてしていなかったじゃないか! と言われましたらそうですね。温泉がメインですよね。鶴ヶ城は復元前ですし。

 では第二次世界大戦後、昭和以降、何も白虎隊で飯を食うために推したからゲスかというと、これはあまりに単純化しすぎています。

・交通網のさらなる発展
・ラジオやテレビの発達
・司馬遼太郎ブーム(といっても、田中清玄が薩長の提灯もちと呼んだだけあって、むしろ薩長の方がプッシュされてますよね)

 こういう要素は何も会津だけでなく、全国各地になんちゃって犬山城天守閣を建てることがブームになって、問題化されたわけです。日本全体の規模ですね。
 こんな歴史観光の本丸である大河ドラマを考えてみましょう。
 薩長と比べて会津が多いと思いますか? 『獅子の時代』と東日本大震災復興枠の『八重の桜』くらいですよね? 民放ドラマを加えれば増えますが。

 第二次世界大戦後の歴史と観光の結びつきを批判するうえで、先頭に薩長でなく会津を持ってくるとすれば、そのことそのものがイデオロギー由来だとみなすことはできませんか?

自省の悪用……みんな大好き大河のことでも考えましょう

 じゃあ、なぜ会津が筆頭か?
 それは福島県会津若松市の郷土史家・宮崎十三八(とみはち)が提唱したからでしょうね。

 でもそれって結局自省ではありませんか? 初心にかえって純粋な気持ちで慰霊をしようと言いだしたら、喜んでWikipediaに項目を立てた誰かがいたのではないかと推察しますが。

 会津は幕末研究についていえば、自省は散々しています。
 2010年代の幕末大河で最重要人物といえば、『八重の桜』での川崎尚之助だと私は感じております。川崎は大河直前、ギリギリのタイミングで新資料が発見され、大きく評価が変わった人物です。
 それまでは山本八重を捨てて逃げた卑怯者扱いでした。それが斗南藩までついて行き、尽くして非業の死を遂げた人物だと判明したのです。そのことをドラマではさらに膨らませて、八重との愛情や死がドラマチックに描かれたものです。新島襄より魅力的ではないかと言われたほど。
 川崎の目線で会津を見ると、保守的な藩の問題が見えてきました。斗南藩で使い捨てにされたような、会津藩の悪いところも見えてくる。
 会津戦争遺体埋葬論訂正、ムッソリーニ碑の混乱。そういうことへの反論と反省も、郷土史家の野口信一氏筆頭に取り組んでいて、かつフィクションにも反映されるようになっています。

 こういうことを、同時期の他の幕末大河ができたかどうか。『花燃ゆ』では長州藩がいかにえらくて愛されているかと描写されました。某政治団体幹部先祖の長州藩県令が来るまで、群馬県がリアル『北斗の拳』、まさしくグンマーのようだと描写していましたね。
 『西郷どん』でも、奄美黒糖地獄をロンダリングした。『青天を衝け』の天狗党関連もロンダリング済み。
 『八重の桜』は会津を褒めているドラマです(でも、そもそも、主役側を褒めて何が悪い?)。それも良識範囲内であることが、川崎尚之助をみればわかると思いますけどね。

 そんな『八重の桜』ですが、それでも気に入らない政府上層部が散々ケチをつけ、あてつけのように真田幸村四百忌に吉田松陰三妹大河がねじこまれる謎の現象が発生しました。松蔭の妹のうち、功績が一番少なく、年齢差もあって目立たないのが三妹だったのですが。あのドラマの吉田松陰役の役者は、大物政治家夫人と大麻をプッシュする仲であったと報道され、逮捕されるという後日談もありましたね。

 話をおにぎりと大麻から戻します。
 要するに、会津が真面目に反省すると、そこにつけ込まれる状況が発生しています。会津が無反省に思われるとすれば、そういう反省結果が地道に地元出版社刊行物に掲載され、日の目を見ない状況もあると思います。地元に行けばそういう本が書店に並んでいるのですけどもね。ネットで完結しがちな昨今、そんなことを言っても無駄ですよね……。
 
 ともあれ、反省しても無視されるし、それどころか漬け込まれるのならば、誤魔化してシラを切って、郷土史なんてぶん投げたらいい。暴こうとする変人研究者がいたら、脅してでも調べるのをやめさせりゃいいんですよ。これもある意味伝統と言いますか。松平容保は明治以降、一切弁明をしませんでした。渋沢栄一あたりと自己正当化をした徳川慶喜やら。俗論党と決めつけた相手の史料をバンバン捨てさせた長州系政治家とは違うんですね。そこをさんざんつけ込まれるところではある。山川浩と健次郎兄弟はじめ、藩士たちは反論していましたが。それだって逮捕された人もいますからね。鬱陶しいゲスな会津どもの言い分を嘲笑う面々は、そんな時代まで遡ることが理想でしょうか? そういう過去を踏まえて、会津を嘘つき呼ばわりできるんですか……それほどまでに公明正大な人生を送られてきた人格高潔な方なのでしょうか?

 そしてこれは過去のことでもないんですよ。
 長州藩幕末史専門の某研究者はいろいろな妨害を受けているそうです。そういうことを会津もすればよいのですか? いいえ、それは悪手。権力勾配を意識せねばどうにもなりません。

 で、どうして長州がそんなことできるって? それは……。

権力勾配を考えよう

 山口県は、日本一首相経験者を輩出したことが誇りらしい。はいはい、藩閥政治。それで終わりにできる。でも、素直な方はこうなるんですね。

「わあー、山口県の人って優れた方が多いんですねー」

 いいんじゃない? その話をネタに桜でもみながら獺祭でも飲めばさぞや美味しいでしょうね。

 嫌味はそのへんにしまして。
 薩長土だって幕末観光資源にしているのに、なぜ会津が叩かれるのか? その時点でイデオロギーだと指摘したいわけです。

 今の30代から50代が、ネットでニチャアとした笑みを浮かべつつ、こういう投稿をする心理は説明できます。

「会津藩は新政府が示した寛大な条件を拒んだのですから、いわば自業自得です。会津藩をもっと厳しく処罰しなかったことが悪い影響を残したのではないでしょうか」(※松平容保は家督を譲り隠居し、譲歩していましたし、嘆願を握りつぶしたのは新政府側です、何が寛大だったんでしょう? だいたいそもそも、京都で攘夷テロしまくってそれを取り締まられて逆恨みしておいたわけですよね?)
「負けた側にもイデオロギーがあると会津から学びました」(※会津から学んだあたりお察しというか)
「会津は反省したか?」(※反省したところで、そちらに届くんですか? くどいようですが軍国主義は日本全体のことであり、会津に限ったことでもないのですが)
「会津を庇う作家どもは何様のつもりだ?」(※そういうあなたは何様で?)

 いいですねえ。わかりやすいですねえ! 
 面白い現象があるんですよ。SNSの暴言で問題になった日本史研究者が2021年にいたじゃないですか。彼も似たような論調で会津叩きをしていて、そのスクリーンショットは見ました。言葉は丁寧ですけど、論調は一致します。

 こういう理論は、権力勾配をまるっと無視しています。
 前述の通り、藩閥政治で山口県は大物政治家、政権中枢の人物を輩出している。優秀なわけではない。それこそサンデルの『実力も運のうち 能力主義は正義か?』日本版の状況が展開されていくわけです。
 山口県出身者が政権に近い。そうした権力者が「うちの先祖をかっこよう描いて欲しい!」と言った場合と。会津の人々が「おらほの郷土偉人をかっこよくしてくんつぇ!」と言った場合では結果がちがいます。

 それでも山口県ルーツの方は抑制が効いていたのは過去のことなのか。前述の『花燃ゆ』では、某大手政治団体が口を挟んだ形跡はあるわ。某政治家高見会員の子息が奇兵隊士のエキストラに起用されるわ。
 『平清盛』うんぬんどころではない(あれは有名で誰でも知っている類のトリビアですね)、露骨な利用があったわけです。

 でも、権力勾配を無視すれば、こんなふうにフラットにされてしまう。

「薩長がどうこう言うけど、会津だってイデオロギーありきで観光史学展開してるでしょw」

 よくある手口かつ、2021年現在の30代から50代が大好きな手口ですよね。性差別の話、フェミサイドの話をしていると、こう返してくる。映画『ジョーカー』論法と言いますかね。

「でも差別する側も派遣社員という生い立ちがあって」

 話を混ぜっ返すな! 権力勾配を考えろ! 以上です。ついでに言うと、あなた方、論破って言葉と、www大好きですよね。漫画のコマを切り取ってレスにつけてくるのもお好きですね。

靖国神社への問題提起が振り出しに戻りかねない

 靖国神社の問題点とは何か?
 そう考える書物は、無知で知られる私ですら一応は目を通していまして。根源まで遡れば、そもそも幕末明治維新に到達するという論は定番です。
 そりゃそうだ。禁門の変で帝の御所を砲撃した側や、天狗党の乱で民間人を虐殺した側が早々に合祀されている。その一方で、禁門の変で御所を守った会津藩士は、大正末期まで合祀されていない。

 靖国問題は日本史の問題であり、明治維新の正統性まで考えることは避けて通れません。半藤一利氏が昭和史から幕末史まで到達したことはそういう動機がある。岩井忠熊氏や小島毅氏の本でも、幕末まで遡って理論展開します。山田風太郎もそういう傾向が強い。

 そういう戦争を踏まえて靖国問題を考えてゆくこと。
 アジア・太平洋戦争からさらに遡っていくこと。

 そういう試みを、冷笑じみたwww生えまくりのリプライは粉砕する雑ないやらしさがあると思えるんですね。そんな本で先生方が一生懸命展開していることに、こうつきつけられるわけだ。

「でもネットで知ったんですけど、会津の連中は白虎隊で飯を食うために会津戦争の被害をでっちあげているわけじゃないですかw」
「まあ靖国にケチつけるのなんて、こういう会津wの連中みたいな言いがかりだと思うんですよねw」

 あー……口調文体まで想像できますわ。
 
 幕末維新がらみのことをこういう冷笑で否定するのって、日本近代史そのものの混ぜっ返しになるって理解できていますか?

 会津叩きと特定アジア叩きって、論理構成がそっくりなんですよ。

被害者はイデオロギーありきだ。
被害を主張する奴らは下劣で愚かだ。
そんなバカどもに振り回されるこっちこそ被害者だ。
奴らは金目当てである(会津は観光収入、特定アジアは賠償金)。
高潔な我々がそもそもそんなことするわけないんだ! あいつらは嘘つきなんだ!

 先祖の苦難を伝えたいとか。真実を語り継いでいきたいとか。そんな人間の普遍的な尊厳への思いを嘲笑い、自分たちこそ可哀想と言い募る。薩長ルーツと掲げている人がそうすることもよくみかけました。そんなものSNS登場以前から散々伝え聞くところではありますが、そうやって会津を一方的に嘘つき断定してバズ稼ぎする姿勢にはなんと申せばよいものやら……。

 反論の想像はつきますけどね。自分はネトウヨじゃないってねでも、人間の意見とはどこからどこまでが影響を受けているか、私自身だってわかったものじゃないんですけどね。特定の世代は、根底にネトウヨになる要素があることを認めましょうか。

 これは2021年前半の、日本史界隈のSNS炎上にも関係あるので、突っ込んでおきますね。

 あの騒動は、現役中世日本史研究者が、「サヨク=反日」という、ネトウヨそのまんまの分類法を、よりにもよってA氏という知の巨人に当てはめて、SNSバズりでも狙うように茶化したことが問題でして。
 これをきっかけにして、中世日本史研究者界隈(この範囲はもうちょっと広いかな?)が、冷笑系アンチリベラル、ネトウヨ思想にまみれていることが発覚したことが衝撃的だったんですよ。

 そのことに気づかず、今日も元気にネトウヨ、ミソジニー、野党ガーフルセット、果てはPCR検査抑制論までぶん回していそうな方がおられますけど。

 で、そういう界隈の好物は会津叩きなわけ。あの騒動のど真ん中にいた方も乗っかってましたっけね。

 私がある方から「第二の呉座」になると言われていることが納得できません。こういうのはむしろ大嫌いで、あちらから叩かれる側なんですけど。

人は親世代に反発し、祖父母世代を賛美する

 人間とは、人間は親世代に反発し、祖父母世代を賛美する傾向があるようです。

 自分なりに調べてたどり着いたと思っている、「会津wwwプゲラww」だってそういう普遍的心理がないとどうして言い切れます? クラウゼヴィッツじゃないほうの『戦争論』にころっとなりかけた過去はありませんか?

 要するに、さんざんここであげてきた今の30代から50代は、親世代の価値観に反発するのが若者らしくてクールだと思う深層心理がある。
 親世代が、我が子を戦火から守ろうとしてきた工夫を「ダサいw」と嘲笑ってきた。親が嫌がるから、先の大戦をクールだと言いたがり、中国韓国を貶す。
 そういう心理から人間は卒業するものですが、巨大掲示板世代はそれができない、年老いることすらできない傾向を感じますね。

 それと会津に何の関係があるのか? ヒントは散りばめていますよ。

 会津叩きなんて、それこそ戦時中までは当然でした。白虎隊のようなものを賛美し、軍国主義に取り入れた。だからといって別に会津を認めるわけじゃない。猪苗代湖の水力発電以来、会津は東京に電気を送り続けている。それに見合うだけのインフラ整備なり教育機関、医療機関整備をしてきたか?(答えを言いますと、会津唯一の会津大学までずいぶんと時間がかかりましたが) 白虎隊顕彰だの、松平容保の孫と皇族とのご成婚だの。そんな甘い餌を投げられたところで、実のある事業がなければそんなものは上っ面に過ぎないのですよ。

 ま、悪い癖で話がずれましたけど。会津を持ち上げるようで小馬鹿にするのなんて、それこそ30代から50代の祖父母世代の焼き直しにすぎない。そんなもんを親世代への反発ありきで持ち上げて、プゲラしている。永遠の若者って感じで素晴らしいですね。お見事です。

ネットの歴史論はバズれば勝利

 でも、私はこれを読んだ方に私に対してムカついてもらって、さんざん反発はしてもらいたいけれど。ハッシュタグでも作って、仲間同士でプゲラしあっていただいて構いませんけどね。
 でも、私から相手に行いを改めろとか。そういうことは一切言いたくない。言う権利だってない。

 懐かし漫画アイコンを使い、『銀英伝』ヤン・ウェンリーのセリフと連ねて、黄金期の『週刊少年ジャンプ』用語で遊び、「ワイw」となんJ口調を使う。漢籍知識も中国思想知識も曖昧なのに、挨拶がわりに儒教を貶す。そういうノリでこれからも「会津www」とバズ稼ぎを続けて行って欲しいとむしろ願うくらいです。

 だって、ネットの世論って、歴史論て、真実うんぬん以前に、バズれば勝ちでしょう? 土方歳三が新選組時代は誰も斬っていないとか。そういう嘘トリビアでもバズれば勝利でしょ?

 SNSバイオに学歴を記し、お利口さんだとアピールする。研究者アカウントをフォローし、やりあって、博識だとそれとなくアピールする。それで特定の年代が受けるようなネタと口調を仕込む。大河ドラマハッシュタグはもちろん使う。
 日本史知識の範囲とは当然広いけれど、とりあえず戦国時代の武将や城に比べれば、歴史全体が詳しいと思ってもらえますからね。世界史のことを間違えたり、漢籍デタラメ引用しようが、もちろん幕末史で変なことを言おうが、こうなるから大丈夫ですよ。

「だってこのアカウントは歴史に詳しいんだよ!」

 そうやってバズって、どんなしょうもない情報であろうと、RTといいねを稼ぐのが、今の時代の賢くて正しい人の振る舞いなんです。
 だから、あなた方は、そのままの、賢い振る舞いをずっと続けてください。
 外部だの、書物だの、最新研究だの。そんなことは些細なこと。仲間同士が楽しむエコーチェンバーで、「ちょwwwwおまwww」と笑い合って、それでしあわせなら、いいじゃないですか!

 子どもたちが公園の砂場で遊んでいる。そこに入り込んで叱り飛ばす大人がいたら、大人の方が悪いでしょう? 私はそういう悪い大人になりたくないのですよ。だって愚昧、卑劣、臆病と三拍子そろっていますから。
 私ごときの塵芥に、そんな権利はありません。

 それに一人一人を言い負かして、論破でしたっけ? そんなものをして時間を無駄にしたくはないのです。

 SNSの歴史界隈がらみで、おもしろい現象がありました。

 ある日本史研究者がテレビに出ると、一斉に叩くツイートが回ってきた。それが別の日本史研究者が不祥事によりSNSアカウントを削除した途端、そうした投稿はピタリとやんだのです。

 もうひとつ。
 
 大学生たちが日韓関係を考え直すための本を出した。するとそのAmazonレビューには、大学生相手にこう罵倒するような意見が並んだ。

「古い歴史観w 自虐史観と日教組に洗脳されたみたいな意見だなw」

 こうしたレビューからは、自分たちこそがトレンドの最先端をゆく若者であり、歴史観をアップデートするつもりがない。そんなドツボを読み取ることができます。

 こうしたヒントに、私なりに考えたことはあります。
 有害な意見を一件一件潰すよりも、水の流れを変えるべき。そういう意見を言うのは老害じみていて、馬鹿げているのだと。そう流れを変えれば、論破するよりも手っ取り早く目的は達成できるでしょう。

 孫子曰く、兵の形は水に象(かたど)る。水の流れを変えればいい。曹操を習って、「梅を望んで渇きを止む」を応用してもいい。現代人は梅でなく、バズりで釣れるんですよ。

「あの丘に登ったよとツイートすればバズるらしい」

 これでスマホを手にした兵士は進軍してくれるでしょう。

 地道に、どうすればそうできるか、本でも読んで考えたいと思うところですよ。

 そうそう、最後に素敵な会津の観光地を教えますね! 私にだって親切心はありますもの。ここから申し訳ないけど、投げ銭で。

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