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即席郷愁誘導装置 : “金木犀の香り”

“金木犀の香り”と書かれた商品が増える時期になった。
実家のあるマンションに植えられていたこともあり、子供の頃は秋の訪れを感じる、どこか懐かしいものとして好きな匂いだった。
鼻をくすぐるあのほんの少しだけ乾いた酸味を纏った甘ったるい香りを、10メートルも満たない道を歩きながら何度も何度も肺に送り、全身を幸せで満たした。

ここ数年、市場で、特にコスメにおいて“金木犀の香り”が注目され、InstagramやTikTokではコスメ系のインフルエンサーアカウントがこぞって商品を紹介している。
私も初めて“金木犀の香り”を店頭で見た時、気になって手に取った。そして、がっかりしてしまった。それは私がノスタルジーを感じるあの香りとは違った。
我儘を言っているのは分かっている。
しかし企業の開発部や調香師の方々がどれだけ時間と手間をかけて“金木犀の香り”は再現できたとしても、あの夏休みが終わってまた日常生活が始まった陰鬱な気持ちを「お疲れ様」と和らげてくれた金木犀はそこには存在しない。
大人になった私を袋の中から睨みつけるエタノールの香りが、すぐに現実に引き戻してくる。
「お前は金木犀を名乗るな」と向こうからしてみれば理不尽な苛立ちさえ覚える。

果たして“金木犀の香り”をチヤホヤと讃えるアカウントたちは、本物の金木犀の香りを感じたことがあるのだろうか。
もしかすると“金木犀の香り”から金木犀を知る人だって居るかもしれない。(現に私の生活圏内で金木犀の香りがする場所はひとつもない)

ありえる。ありえてしまう。

だって“ヴァーベナ”を私に教えてくれたのは、ハンドクリーム等でお馴染み、天下のL'OCCITANEだったから。

恋の力を目覚めさせるフレッシュな香り。
誰もがたちまち恋をする、
恋を呼ぶハーブ、ヴァーベナ。

L'OCCITANE公式サイトより

公式サイトに記載されている地中海の人たちも──たとえL'OCCITANEが南仏発の企業であるとしても──もしかしたら“ヴァーベナ”を嗅いで、「勝手に私の初恋を名乗るな」と思っているのだろう。
匂いは最後まで忘れないからこそ、簡単に自身のパッキングした記憶と照らし合わせては行けないのかもしれない。

こんなことを書いていたらほんの少しだけ、忘れてしまったあの金木犀の香りを嗅ぎたくなった。
さて、どっちの香りことでしょう。

記憶を扱う舞台、T1project MEMORY三部作の情報は下記に。
私の出演する『心のかけら』は明日が初日です。
台風が近づいておりますのでお気を付けていらしてくださいね。


T1project MEMORY三部作
『心のかけら』に出演いたします!


[場所]
下北沢 小劇場B1

[期間]
2023年9月7日(木)〜9月18日(月/祝)
(心のかけらは9月8日〜9月18日)

9/8(金)19時
9/10(日)14時(※残席わずか!)
9/12(火)14時
9/13(水)19時
9/15(金)14時
9/16(土)19時
9/18(月/祝)12時

(※公演時間は2時間を予定しています)

[チケット]
一般:¥4,800
ダブル:¥9,000 トリプル:¥13,000
※こちらは同期間上演の他の作品も見たい人用のチケット

[公演公式ホームページ]

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