ことぶきすばる
第二次世界大戦の史実を元に、エンタメで今まであまり取り上げられたことがなかったニューギニア戦について、戦後75年の頃に書いた小説です。拙すぎていまだ書籍化に至っていませんが、80年の節目に間に合うよう加筆修正して書籍化したい大切な作品です。私も知らない戦場でした。戦争を恋愛エンタメにするということは軽率に見えるかもしれません。でも忘れてはならない出来事を、あの戦争を知らない世代の心に届けられる手段だと思います。皆さんぜひ読んでください。よろしくお願いいたします。
漫画原作応募のため3話までです
2016年、大河ドラマ『真田丸』を見て刺激を受け執筆を始めた三児の主婦。 最初の作品はケータイ小説のスタイルで書いた約8万字の長編小説。コンテストに提出するも撃沈。 そりゃそんな甘くないよなと一作であっけなく筆を置くも、2018年にフラリと再開して書いた短編が受賞し、調子に乗って今に至る。 現在の目標は『ホーランジア』を書籍化して若い世代に第二次世界大戦の記憶を繋ぐこと。 病気レベルで大好きなピアニスト、角野隼斗氏を音楽担当に迎えて小説を映画化すること。 主な受賞歴・執筆
約束の朝。目覚まし時計が鳴る前に目が覚めて、カーテンの隙間が縦に白く光っていた。よし、予報通りの快晴だ。カーテンをひいて窓を開けると、眩しい朝日とまだ暑くなる少し前の爽やかな風が押し寄せて、僕の冴えない部屋が明るく一変した。今の気持ちは吹奏楽コンクールで聴いた課題曲『煌めきの朝』がぴったりで、僕は今、『陽キャの朝』の煌めきを浴びて浮足立っているんだなと可笑しくなった。 目的地までは電車で六時間かかるから、実際の滞在時間はほんの数時間ほどになる。会って話せる時間が短いのは少し
お盆の学校閉庁日が明けて『インタイハイ』の日。たった五日ぶりなのに体育館が妙に新鮮な場所に感じて、天井の高さや床のラインが落ち着かない。まるで入部したてのようなアウェイ感覚で準備運動をしながら、僕はまだ迷っていた。確かにコンクールで叶居さんたちの演奏を聴いたときは体がうずうずして、帰ってすぐにマンションの裏で素振りをしまくったし、部活も前よりずっと楽しんでやれていたと思う。 コンクール後の部活で僕を見た平部長が、上級生になる責任感が出てきたか、と嬉しそうに言ってきたのには驚
叶居さんが引っ越す八月になり、吹奏楽部の県大会の日がきてしまった。あの日の気まずい気持ちのまま、行くか行くまいか迷ったあげく、誰にも会わないようにギリギリに行って叶居さんにも声を掛けないで帰ることにした。会うのも行かないのも、どちらにしても気まずいと思ったからだ。 天気予報では曇りのち雨となっていて、このところのカンカン照りよりはマシかと思って家を出たものの、湿度が高くて殺人的にうざったい暑さが体にまとわりついてきた。あまり気乗りのしない外出な上、こんなサウナ状態。何かの罰
「腹減ったな」 秋田君はあたしの手をぎゅっと握って歩き出した。 「ちょ、ちょっ、ちょっと!」 平日とはいえ谷宿。道行く人たちがこっちを見てるのがわかった。来る途中の裸足の恥ずかしさとは少し違う恥ずかしさがこみあげる。だけどそんなの全然お構いなしの様子で秋田君は早足のまま突き進むから、あたしは走るみたいになってやっとでついて行く。 ふと気づく。これって恋人つなぎでは? 周囲からは、カレカノに見えてるのかな。秋田君がかっこよすぎて不釣り合いとか思われてるかも。凹んでいたら
あの日から、あの最低キス男がいつ襲来してくるかってビクビクしながら学校に通った。 柔らかい唇の感触が何日経っても消えない。 人差し指で唇をなぞるとキスの直前に見た大きな瞳が瞼に浮かぶ。一瞬、先輩に見つめられたかと思っちゃったんだ。 似てるかな? わかんない。だってあんなに近くで顔見たことない。両想いっていったってホントに何もなかったなぁ。キスとかはしてなくて当たり前だけど、思い出すのは委員会のバカ騒ぎばっかり。 二人の大切な思い出だと思ってるものは、実はホントはそんなん
あらすじ ――もう、二度と恋なんてしない―― そう誓ったのはあの日……最愛の人がいなくなってしまったから。 〈お土産たくさん買ってくるからねー〉 LINEにこんなメッセだけを遺して―― ここは久しぶり。 おじいちゃんおばあちゃんのこと以外でこんな場所に用があるなんて、考えてもみなかった。いつ来ても他に誰もいなくて、静かな場所。 小高い丘の上にある広大な敷地は、見上げれば雲が流れる青い空。 道を歩けば綺麗に整備された公園みたいな緑に包まれる。 一面の硬質なモノト
開け放たれた体育館の四隅で、サーキュレーターが低く唸っている。ジェットエンジンのようなゴツさだ。けれど大きさの割にはあまり効果が感じられない。バドミントンは風の影響を受けやすいから、涼しくない上にシャトルのコントロールがしにくいという迷惑なシロモノだ。感染症対策や熱中症対策はバドミントンにとって敵といってもいいかもしれない。けれど他の部活と体育館を共有しているから、バド部だけいりませんと言って止めるわけにもいかない。 座っているだけで汗が滝のように流れてくる。思い付きでほん
叶居逢花が転校すること。 別に高校生活が永遠に続くなんて思っていたわけじゃないし、誰かが転校したって僕の高校生活は続く。けれど、今あるものが三年間続くものだと信じて疑わずにいた僕にとって、これは大事件だった。なぜなら僕は、叶居さんに片思いをしているから。気持ちを伝える気など全くないけれど、高校にいる時間だけは、あと一年半のあいだは、目で追いかけることができると思っていたから。もうあと少しで会えなくなるなんて、心の準備が全然できていない。 それでも、このことがきっかけで叶居さ
※この小説はPenthouseの『夏に願いを』を聴きながら書いています。フィクションで、バンドの楽曲の世界観とは必ずしも一致しませんが、もしよかったら楽曲を聴きながらお楽しみいただけると嬉しいです。 僕の青春タイムリミットは、突然やってきた。 叶居逢花が転校する。 そのことを知った時は、青天の霹靂という言葉を今ほど的確に使えることなどないんじゃないかと思った。 動揺のあまり頭痛がして、しばらく机に伏して、頭の中の嵐が去るのを待つしかなく。 今日は部活、行けそうにないな。
参・おっさんとポニーテール 目的の旧取水施設は広い疏水公園の中にあり、那須野が原の開墾の礎となった施設。現在はその役目を終えて、木々に抱かれひっそりと佇んでいる。すぐ近くには現役で那須を潤す西岩崎頭首工も見える。鉄筋の赤が青空と緑の山々に囲まれ、良く映えて美しい。 翔利たちが着くと普段は川底が見えるほど透明で穏やかな那珂川が、台風の影響で濁った水を貯え、轟々と唸りをあげていた。水位も、プリントの写真にあるよりかなりあがっているようだ。 「ああ、懐かしいわね。私が見たのは
*****あらすじ 壱・あやかしとハザマの世 高久翔利が目を覚ますと、辺りは無に包まれていた。確かに目を開けたはずなのに、真っ白のような、真っ黒のような……まるでまだ目を閉じたままのような、何もない世界に翔利はいた。 『……て。目を開けて』 「ん……」 白い闇の中、初夏の風鈴のように柔らかく澄んだ心地よい声が響く。頭の中に直接注がれるような不思議な距離感。 『よかった。もう大丈夫ね』 ゆっくりと立ち上がると、足元さえも無だった。足裏に伝わる感触がない。無重力という
全身が酷く冷たくて、鈍く痛む。喉が痛い。 「ごほっ、ごほっ」 「弥生……おかえり」 「晶……」 気がついたら、私は焼け焦げたゼロポイントを臨む小さな東屋の下にいた。晶の膝で目が覚めた。私は向こうの時代でふた晩を過ごしたはず。その間ずっと、ここにいてくれたってこと? 「ずっと、そこにいてくれたの?」 「うん。もっと西まで移動しようか迷ったけど、ここにいた方がいいような気がしたんだ」 「晶……」 「会えたんだよな?」 「うん。だけど、私のせいで、昇さん……」 「俺はここにい
筒入りポテチにクッキー、キャンディやキャラメル、醤油せんべい。たくさんのお菓子と、外袋を開けたら温まってホカホカを食べられる非常食のパック、薬や便利グッズの数々を、リュックから全部だして昇さんに見せた。 「すごいな……少し食い伸ばせばひと月はいけるぞ。ラムネは未来でも同じなんだな!」 「うん。ガラスじゃない容器で売っているのもあるけど、これ見たら昇さん喜ぶかなと思って」 「喜ぶにきまっているだろう! 懐かしいなぁ」 昇さんは23歳の男の人とは思えないほどの無邪気さで目を輝
非常用持ち出しリュックに限界まで食べ物や飲み物を詰めて、私はチャリで駅まで飛ばした。ここからはタクシーだ。 「ゼロポイントまで! 急いでください!」 汚れた軍服に身を包んだ私を、運転手さんが嫌そうな目でチラ見したのがわかった。乗車拒否されなかっただけマシだ。 「サバゲー、ってやつですか?」 「ああ、まあ」 「本物の軍人みたいですね」 「あは、は」 本物の軍人じゃないけど、本物の軍服ですよ。弾まない会話が止み、景色は徐々に山道になっていく。戻らなきゃ。戻ったからって、ど
歩けるようになったところで退院して、家に戻った。なぜか謎の栄養失調になっていて、病院としてはもう少し加療したいようだった。だけど未知の感染症が世界的に猛威を奮い始めていて、病床を整理しないといけないらしい。 謎の栄養失調。点滴を入れてもなかなか改善されなかったと心配された。私は理由が分かっていたけど、リアルで栄養失調だったんですとも言えず、大丈夫ですとだけ言って病院を後にした。それに、退院は私にとっても都合が良かった。できるだけ早く退院して、あの時代のあの島に戻らなきゃいけ