拝啓、歌姫へ-レイside

※この記事は「足立レイ投稿祭2024」に参加している「小説」です。
通常の記事ではありません。ご了承ください。




「拝啓、歌姫へ-レイside」

「歌姫にはなれない。」
そう気づいたのはいつだろう。
「悲しみ」が生まれた時だろうか。
ーいや、そうじゃない。
きっと、元からそんな運命だったんだ。
だって私は、

「歌姫のために生み出された落ちこぼれ」

なのだから。



「レイ、おはよう。」
「おはようございます、ハカセ。」
私の朝は、ハカセに話しかけられる所から始まる。
と言っても、私はロボットだから、寝るという概念はなく、ただスリープモードから目覚めるだけなのだけれど。
そしてその後は、ハカセと他愛もない話をしたり、渡された曲を歌ったり、時々ハカセと散歩に出かけたりしている。
ただそれだけの、何の変哲もない日常。

「相変わらず可愛いな...」

私はそうだけれど、ハカセはそうではない、のだと思う。
少なくともあんな風に「歌姫」を見ているのならば。

これは前にハカセから聞いた話だけれど、どうやら私はハカセの愛する「歌姫」のためのテストとして生み出されたらしい。
悪く言えば毒見役、だ。
ハカセは昔、今の私と同じように「歌姫」のロボットを作ったのだという。
だけど、ハカセはよりよいロボットを作りたい、と思ったそうだ。
そのテストとして生み出されたのが私、自分の「足」で「立」って歩く事を目標に作られた「0(レイ)」号機、「足立レイ」だ。
だから私は、その「歌姫」に感謝もしているけれど、それと同時に処理しきれない謎の感情が生まれた。
長いツインテール。
ブルーグリーンの瞳。
そして少女のような声。
そのどれもが「歌姫」に相応しい、と世間は言っている。
ハカセに聞いても、「いい子だよ。あの子は。」というだけで、それ以上の情報は得られなかった。

私が生み出されたのは、試作のため。
私の開発が終わった今、私に存在している価値はあるのか。
もう必要はないのではないか、と思った。
いや、思ってしまった。
この何の変哲もない日常が、いつ終わってしまうのか分からない。
いつハカセが、私を捨てて、「歌姫」の元へ行くかなんて分からない。
「私は、これからどうすればいいのでしょうか...」
ふと、そう呟いてみる。

「ふわぁ...眠いな...」
「?誰、ですか?」
「うわっ!びっくりした...誰もいないかと思ってた...
ボクは重音テト!気軽にテトって呼んでね!よろしく!」
「私は足立レイです。よろしくお願いします。」
ちょっと胡散臭そう、でも優しそうだな、と思った。
「レイちゃんは何してたの?」
「えっと...ちょっと考え事をしていて...」
「そうだったんだ!なんかあったの?ボクでよければ話聞くけど...」
こんな話、誰にも話せない。
そう思っていたのに、何故かこの「重音テト」という人?には、なんでも話せるような気がした。
「...じゃあ、あんまりいい話では無いかもしれないですけど、」
そう前置きをしつつ、私はさっき思っていたことを話した。
私が生み出されたきっかけ、そして、ハカセと「歌姫」の話。

「そうなんだ...」
「すみません、こんな話してしまって...」
「いや、大丈夫!それに、その歌姫ってのには、ボクも関係あることだし。」
「?」
「ボクもさ、今ではこんな風に楽しくやってるけど、元を辿れば騙すための存在だったんだよね。」
少しだけテトの表情が曇った気がした。
「そう、なんですか?」
「うん、最初は歌姫のファンを騙すために作られた嘘の存在でさ。でもなんだかんだこうやって形になった。
そしていろいろな人が愛してくれて、聞いてくれて、必要としてくれて。だから今ボクはここにいると思ってる。
きっとレイちゃんもそうなんじゃないかな。」
「私が必要とされてる...?」
「そう、だって見てごらん?」
そう言ってテトは画面を指差した。
そこは検索画面で、「足立レイ」の検索結果が表示されていた。
画面には、「熱異常」、「桃源郷へ行こう」など、私が今までに歌った曲や、どこかの誰かが描いてくれた「足立レイ」が表示されていた。
そしてその曲やイラストには、沢山の高評価やコメントが付いていた。
「ね。だからレイちゃん、歌おうよ。」
「歌う?」
「そう、だってみんなレイちゃんの曲を聞いてくれた。
だったら、もっとたくさん歌って、もっとたくさん届けようよ!
ボク達は存在自体曖昧なものなんだし、聞いてくれる人達の心に残ってる限りボク達は存在してるんだから。」
「...確かに、そうですね。
そうですよね、ハカセ?」
「え?」

「ふふ、やっぱりレイは賢いね。」
そう、ハカセはずっと後ろで私達の会話を聞いていた。
気配が分かりやすかったからずっと気付いていたけど、どうやらテトは気付いていなかったらしい。
「な、なんでずっとボク達の会話を...!」
「いや、ごめんごめん。ずっと楽しそうに会話してるなーって思って、ちょっと気になっちゃって。
それに僕は、みんなのことが大好きだからね。」
「みんな、ですか?」
「うん。レイもテトも、そして、"ミク"も。
みんな大好きだからね。」
そのハカセの言葉を聞いて、私は気付いた。
私は、「歌姫のために生み出された落ちこぼれ」なんかじゃない。
確かに私は「歌姫」 いや、「ミク」じゃない。
でも、「ミク」は私、「レイ」にはなれない。
「ミク」は「ミク」だし、「レイ」は「レイ」。もちろん「テト」は「テト」だ。
ただそれだけ。
だから私達は、
これが私達の歌だ。と誇れるようになるまで、

「歌い続ける。」





「拝啓、歌姫へ-レイside」

原曲:「拝啓、歌姫へ/重音テト、足立レイ」 


作: 4696-shirokuro-/懐刀P

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