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技術カンファレンスの参加者体験を最大化するためのノベルティ・装飾デザイン

コロナ禍を経て、日本各地でIT系の技術カンファレンスが少しずつ再開されるようになっています。私たちVue.js日本ユーザーグループも、2023年10月28日に5年ぶりとなるVue Fes Japan 2023を開催しました🎉

※当日の様子は、代表 kazuponの記事をご覧ください。

技術カンファレンスの主役は、もちろんスピーカーによる講演(セッション)ですが、会場まで足を運ぶ参加者のみなさんの体験をより豊かにするには、さまざまなアプローチがあります。

その内の1つが、ノベルティや装飾のデザインです。これらは単純にもらって嬉しい、便利というだけに留まらず、技術カンファレンスの世界観や個性を演出し、エモーショナルを喚起する役割を持ちます。大きく感情が動いたとき、人はコミュニティとの結びつきを強く感じたり、ポジティブな気持ちを持ち続けたりできるのです。

バックパネルを背にしてキーノートに臨むVue.jsクリエーター、Evan You氏

私はVue Fes Japan 2023の全体を統括する役割の中で、これらのデザインにあたりどのようなポイントに着目し、制作を進めていったのかを、実際の写真で振り返りながら本記事にまとめました。

技術カンファレンスを開催するすべての人々の参考になれば幸いです。

デザイン時に抑えるポイント

技術カンファレンスのデザインにあたっては、その規模に関わらず必ず意識しなければならないポイントが4つあります。ずばり、人、時間、金、会場です。

1. 人的リソース

デザインをするには当然のことながら専門的なスキルが必要で、誰でもできるわけではありません。デザインのクオリティによって、カンファレンスのイメージが左右されると言っても過言ではないのです。

やっぱりいい感じのグラフィックがあると、テンション上がりますよね

まずは必要なスキルを持つデザイナーを集めて、チームを結成しましょう。特にノベルティや装飾の制作では、グラフィックデザイン(DTP)の知識が必須となります。IT企業ではウェブやUIのスキルを持つデザイナーは多くいますが、紙やCMYK、特色といった印刷のノウハウ、スキルを持つデザイナーは案外少数派だったりします。同じデザインでも、印刷の経験があるかどうかで大きく変わってきますので、十分注意しましょう。

紙だけでなく、布への印刷もあります

Vue Fes Japan 2023では、ボランティアベースで8名のデザイナーさんにご協力をいただきました。半数以上は印刷のスキルもお持ちで、大変心強かったです💪

また、人的リソースではスキル面もさることながら、人数も考慮すべきポイントです。カンファレンスのプラン段階では夢が膨らみがちで、あれもこれもと作るものを増やしてしまう傾向にありますが、実際にデザインする手は足りるのかを常に意識しながら計画する必要があります。

2. スケジュール

カンファレンスに限ったことではありませんが、スケジュール管理は重要な要素です。特にノベルティや装飾の印刷では、物によって印刷にかかる日数が大きく変わってきます。

スポンサーロゴを印刷したマシュマロなどのお菓子は、注文から約3週間かかりました

印刷完了から発送、到着までの日数も大事なポイントです。発送される場所によっては、到着まで数日かかる場合もあります。また、気候や災害などで配送が遅延する可能性もありますので、考慮に入れておくとよいでしょう。

物量がすごい

カンファレンス当日から逆算し、余裕を持った制作スケジュールを組みましょう。

3. コスト

ノベルティや装飾の制作には、大なり小なり費用がかかります。費用によって、できることや成果物の質も大きく変わってきます。例えばステッカー1つとっても、海外で大量に生産するとかなり安価にできますが、航空便で送られてくるときに端々に折れやシワが発生したり、カットライン(ロゴなどの外周に沿ってカットされるライン)のカットが雑だったりします。

今年利用した業者さんはすばらしい品質でした!

限りある予算の中から、重点的にお金をかけるところ、優先度を落としてもよいところを探りましょう。質の違いを探るために、同じノベルティでも複数の業者を探して見積もりしてもらってもよいでしょう。このとき、価格だけでなく質がどう違うのか、にも着目しておきます。

また、デザインができてから作る予算が足りなかった、ということにならないように、実制作に入る前に全体予算の中からどの程度の費用をかけられるのか、しっかりと確認しておきましょう。

4. 会場

見落としがちなのが、会場とデザインの親和性です。会場は、広さ、費用、アクセスなどさまざまな観点で選びますが、その中にカンファレンスやそのデザインとの相性も考慮に入れることをお勧めします。

例えば、モダンなデザインの会場で和風の装飾を施すと、どうしても違和感が出てしまうでしょう。また、どれだけ装飾に凝ったとしても、そもそも会場自体が古かったり衛生的でなかったりすると、チープな印象を抱かれる可能性が高くなります。

中野セントラルパークカンファレンスはモダンでビジネス寄りな印象

照明も見栄えに大きく影響します。明るさは明るいのか暗いのか、色温度は暖色系か寒色系かによって、装飾の見え方も変わってきます。せっかく作ったデザインが現場では良く見えなかった、ということがないように、当日設置される環境をシミュレーションしながらデザインしましょう。

また、会場によっては利用ルールがあり、デザインの要件になることもあります。例えば、壁にテープを使って何かを貼り付けることが禁止されている、重いものを立てかけられない、などです。制約がないか事前に確認し、ルールの中で創造性を発揮できる方法を模索しましょう。

Vue Fes Japan 2023での制作例

ここからは、実際に作ったノベルティや装飾を取り上げながら、役割や結果をご紹介していきます👍

クリエイティブウォール

Vue Fes Japanの歴史上、初めて2023年に実現したのがクリエイティブウォールです。幅3m、高さ2mの巨大なパネルで、ポスカを使って参加者が自由に書き込みできます。

ドン! でかい!

私は、常々カンファレンスのようなお祭りには、シンボル(象徴)が必要だと考えていました。参加者が「お祭りに来たぞ!」と強く実感してもらえて、記憶に残るような体験になるもの……クリエイティブウォールは、そんな思いから誕生しました。

開場時にはロゴしかなかった壁に、スピーカー、参加者、スポンサーなど、あらゆる来場者に書き込みをしてもらうことで、1つの作品として昇華されていく様子は、コロナ禍を経てコミュニティが再構築される流れを見ているようで感動的でした。

たくさんの書き込みありがとうございました🥰

とはいえ、大掛かりな造作物はお金もかかります。ある程度はDIYや自作によってコストを抑えられますが、この規模の物になると制作・設置時の危険性や、簡単には倒れない安全性も考えなくてはなりません。

プロにお願いする場合、イベント制作会社を通して発注するのが一般的ですが、それなりにコストもかかります。Vue Fes Japan 2023では、大きさや置く場所、色などのイメージだけを固めておき、それを私の会社のコネクションの大工さんたちに伝えることでまるっとお願いできました。

プロの手による制作時の様子

ネームカード

カンファレンスでよくあるのが、ネット上でのアイコンやハンドルネームと実際の人物が一致せず、誰が誰だかわからない、という問題です。せっかくの交流の機会に、コミュニケーションを円滑に進めてもらうため、全参加者にアイコンとハンドルネーム入りのネームカードを作りました。

PVC(塩化ビニール)製で厚みもあり、しっかりしている

デザイン面では、いわゆるバリアブル印刷という手法を使っています。ベースとなるデザインを作り、その上にアイコン、ハンドルネーム、参加者種別(スピーカー、一般参加者、スポンサーなど)のデータが動的に印刷される、という仕組みです。動的データはウェブから入力していただいたデータをExcelにまとめて入稿しています。

パンフレット

いわゆるプログラムです。ウェブに情報があれば十分というケースもありますが、パッと取り出してすぐ見られる、Wi-Fiパスワードのように参加者だけに公開したい情報を載せられる、などのメリットがあります。

メインビジュアルが映える表紙

中野セントラルパークカンファレンスは、会場内のトイレの数が少なかったため、会場外にある周辺のトイレを案内するマップを掲載する工夫もしています。

トイレは大事

スポンサーブースに訪れていただくための工夫として、抽選で豪華景品が当たるスポンサーシールラリーを実施したのですが、そのシール台紙としても機能するようになっています。

当たりますように!

紙物は印刷や品質にこだわらなければ、かなり安価に印刷できるネットプリントが普及しているため、ほとんどの場合で費用を抑えられるでしょう。

トートバッグ

カンファレンスでは、公式ノベルティ、スポンサーブースでの配布物、無料で配られる飲み物やお菓子など、両手がふさがってしまうシーンが多々あります。そんなときに便利なのがトートバッグです。大きく分けて不織布とキャンバス(または綿)の生地タイプがありますが、前者は安い・軽い・質感がチープ、後者は高い・重い・質感がリッチ、と考えてよいでしょう。

自分がデザインしたものをたくさんの人が持っているだけで気分がアガります🔥

物をたくさん入れるのであれば、マチがあるタイプを強くお勧めします。生地を問わず、かなりの収納力になります。

他のノベルティや装飾は、メインビジュアルやロゴをベースにしたデザインになっていますが、トートバッグはデザイナーさんの遊び心でオリジナルのデザインに仕上がっています👏

細かい模様もキレイに印刷されました

バックパネル

スポーツ選手へのインタビューの背景でよく見るアレです。スピーカーの写真を撮影したときに必ず記録に残りますので、スポンサーのロゴを掲出しやすい装飾です。

布が1枚あるだけなのに、妙に本格感が出ます

ロゴを丁寧に並べてサイズ感を整えるだけなので、意外と簡単に作れる割には、1つあるだけでカンファレンスの雰囲気をガラッと変えてくれるため、お勧めのアイテムです。

意外と見逃しがちなのが、使い終わった後の廃棄方法です。ばらばらに分解できるタイプのものもありますが、それでも1~2mを超えるサイズになるため、事業ごみや粗大ごみとして捨てる方法をあらかじめ考えておかなければなりません。会場で処分してもらえると楽ですが、あまり期待できないでしょう。費用はかかりますが、イベントの廃棄物を処分してくれる専門業者を使うのも一手です。

サイネージ

会場の設備によりますが、サイネージを使える場合もあります。電源さえ確保すれば、ほぼコストなしでビジュアルや会場案内を掲示できます。

縦型のサイネージだったため、パンフレットの内容を流用して作ることで工数を削減できました。

会場に備え付けのサイネージ

サイン

受付や会場誘導時に利用するサイン(案内)も、カンファレンスの世界観を醸成する大切な要素の1つです。なにげない表示ではありますが、細かいところを徹底的に作りこむことで見た人に「らしさ」を印象付けられます。

ブランドカラーやフォントが統一されている

しつこいほどに作りこんでいくと、不思議なもので特定の色とフォントにするだけで、「Vue Fes Japanっぽい」ように見えてくるのです。

駅前でも誘導していました

タトゥーシール

なくてもいいけど、あると嬉しい……それがタトゥーシールです。IT系の技術やフレームワークは、しっかりとロゴまで作られているケースが多くあります。そんなロゴをもっと身近に、もっと楽しむために作りました。

スタッフもご機嫌!

必要なサイズで作ってくれる専門業者もありますが、家庭用のインクジェットプリンターで印刷できる市販のシートでも十分なクオリティが作れます。貼り付けは、濡らしたティッシュなどを使うだけ。楽しいです。

グッズ

無料で配布するノベルティのほかに、欲しい人だけに販売するオリジナルグッズも作りました。今年はTシャツ、パーカー、アクリルピンバッジ(3種)、ステッカー、クッション、マスキングテープの6種類です。

100均の有孔ボードを利用して展示

デザイナーチームでは、何のグッズを作るのか、から始まり、質と価格のバランスが良い業者を探したり、デザインに四苦八苦したりと、なかなか負荷の高い作業ではあります。

グッズ販売は在庫を抱えてしまうリスクがあるため、事前販売と当日販売の2種類の販売方法を作りました。事前販売で受注し、生産数が確定してからグッズを生産開始する仕組みです。当日販売分はあくまで少量という前提にすることで、在庫リスクを最小に抑えることができました。

アパレルショップのような店構え

当日販売分については、現金での決済をするとお釣りの準備、お金を見守る人が必要など、タスクが増えてしまうため、キャッシュレスでの決済のみとしています。

ケータリング

カンファレンスに欠かせないのは、食事やドリンクなどのケータリングです。ケータリングは専門業者にお願いすることがほとんどですが、その中でもテーブル装飾に力を入れてもらえる業者であれば、食事の際にもカンファレンスらしさを表現できます。

Vue Fes Japanの場合、海外からのスピーカー、参加者も多いため、会場の雰囲気や食事内容に合わせて、和風に飾り付けをしていただきました。

竹をモチーフにおしゃれな装飾

また、自分たちで装飾するフリードリンク、スナックのコーナーは、サインと同様に統一感のあるデザインにしています。

リフレッシュメントスペースの掲示

Vue Fes Japan 2024に向けて

さて、ここまで読んでいただいた方は、技術カンファレンスにまつわるノベルティ、装飾は本当に多岐に渡ることをご理解いただけたのではないでしょうか。

これらの準備を綿密に、かつ粛々と進行していくのは、なかなか至難の業です。特にVue Fes Japanのように、ボランティアベースで運営しているカンファレンスであれば、なおのことです。しかし、困難な道だからこそ、一緒に乗り越えた先にはコミュニティの発展という素晴らしい景色が待っています!

今年も、Vue.js日本ユーザーグループでは、Vue Fes Japan 2024の開催に向けてデザイナーを募集していますので、ぜひお申し込みください。ぜひ一緒にカンファレンスを作り上げましょう!

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