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至高の休日

学生時代、アルバイトをしていたころ、店番をしながら店長と雑談をしていたときのこと。「何もかも気にせず、好きなだけ休んでいいと言われたらどれくらい休むか」という話になった。二人してほんの数秒黙り込み、店長はあまりにも控えめな数字を答えた。以前の店長から代わったばかりの、私より少し年上の、割とマジメな店長だった。その割とマジメな彼のスタイルのために、アルバイト仲間の主婦の皆さんからは少し煙たがられはじめていた、そんなころだった。


「そんなんでいいんですか?」
謙虚すぎる数字に驚いた私はそう尋ねた。曰く、そんなに休んでもやることがなくなりそうとのことだった。
「じゃあ、どれくらい休みたいの」
「そうですね、とりあえず七年くらいですかね」
「そんなに!?」
今度は驚いた店長が絶句する番だった。


私は休むことに対して自信がある。七年という数字だって、むしろ私的には控えめに出した数字だ。休んでいろと言われたらいつまでも休める。そんな気がする。私は休みが大好きである。きっとみんなもそうであろうに、なぜ人々はこんなに働かなくてはならないのか。なぜAIの台頭を過剰に恐れるのか。おお、人類よ、休め休め。


そもそも私は幼稚園児のころから休みが好きだった。小学生のころには近づく台風のニュースを眺め、明日学校が休みになるかもしれないとウキウキした。高校生のころにはもうどうせ休みにならないと悟り、通学をただただ億劫にするだけの台風に悪態をついていた。学校が嫌いというよりも、とにかく休みが好き。できるだけ休みたくて仕方がない。それくらい筋金入りの休み好きである。


そんな私であるが、さて休みとなったら何をしてどう過ごすのか。結論、私の思う至高の休みとは「何もしなくてよい日」である。出かけない、溜まった原稿も洗濯物もない、何もない日。それこそが私の脳が、骨が、臓器が求める「お休み」なのだ。
こんなとき、夏休みの日々を思い出す。田舎だから出かけて行くところもないし、そもそもしたいこともない。仕事へ行く親を見送って、宿題を片付けて、アニメを見て、用意してもらった昼ご飯を食べて、『大好き!五つ子』と『キッズ・ウォー』を見て、またアニメを見て、『相棒』の再放送を見る。たまには映画も見る。小学生のころは『下妻物語』にハマっていて、中学生のころは『風の谷のナウシカ』を何べんも何べんも見た。


今日、私はお休みである。正確に言えば、この原稿を書いているので一つやるべきことはあるのだが、他には何もない。休もうと決めた日だ。今日の私はとてもよい気分である。そんな休日、つまり今日したことをここに記録してみようと思う。よく「休日何してるんですか?」と聞かれるのだが、これで答えの用意は完璧となるはずだ。


朝、六時に起きる。いつもより布団でゆっくり過ごしてから、アイスティーを淹れる。朝食を食べる。シャワーを浴びる。虫よけハーブ(効かない)の鉢に水をやる。いつもより丁寧に麦茶をつくる。やろうやろうと思っていた場所を掃除する。映画を流しながら焼きそばをつくって食べる。川本真琴の曲を聞く。あつあつの緑茶を淹れて冷房の効いた部屋でまんじゅうを食べる。そして今、これを書いている。これが終わったら本を読んで、ついでに漫画も読んでしまおうかと思っている。


「休日何してるんですか?」と聞かれていつも何も思い浮かばず困る理由が今解明された。本当に何もしていない。このように本当に何もしていない日と、すべてを放棄して一日中戯曲を書いている日の二種類が私の休日にはあるのだが、どちらも軽い雑談の答えとしてはノイズが大きすぎると思ってしまい答えられない。きっと私は今後も適度に嘘をついて「読書ですかね」と答えるであろうと思う。


それではそろそろこの辺りで私は真の休日に向かわせていただこうかと思う。みなさんも、よい休日をお過ごしください。


おわり

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