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北海道の夜行列車

 JRが日本国有鉄道だったころ、北海道にはいくつもの夜行・急行列車が走っていました。今や希少な客車列車も多く、広大な北海道を夜間に無駄なく移動するにはうってつけ。おまけに旧型の客車を使った編成もあり、今や垂涎もののお宝列車が走っていたものです。

・・・宵に札幌を出て網走方面を目指す急行の大雪七号にに乗ったのはドラマ、北の国からが放送されて間もない頃でした。編成は10系寝台客車を中心に旧式な40系客車や荷物車も組み込んだ「豪華」な編成、のちの寝台列車は全てブルー・トレインばかりとなってしまったので貴重な思い出です。スハ43系のクラシカルな木目の内装は欧州っぽい雰囲気でもあり、黄色っぽい蛍光灯のランプも旅情を駆り立てます。

 冷房はありませんが秋口の北海道では早くも暖房装置が活躍。真っ暗な鉄路を一路旭川方面へと向かいます。車窓の景色は皆無といっていいほどに真っ暗、晴れていれば星空も望めたでしょうが、それも叶わず、まだ炭鉱が現役だった頃の砂川あたりを通過してゆきます。明け方近くになって遠軽に到着、列車はここで向きを変えるため機関車を付け替えます。何故ここが折り返し点なのかというと・・・・
 実は旭川~遠軽間は比較的新しい路線で、それまでは名寄からオホーツク海沿いの路線が先に伸びており、美幌や北見へ繋がっていました。そこにあとから石北本線が完成し、遠軽駅に南からアプローチ、といった経緯なのでしょう。
 夜汽車は早朝の美幌に到着、ここで今はなき相生線に乗り換えです。(廃止となったのは乗車から3年余りあとのこと)本来ならば南に延伸して白糠線とつながり、釧網本線と並行する南北を縦貫するルートになり得たでしょうが、結局それもかないませんでした。

 始発後まもない列車は学生たちに囲まれることもありません。まだキハ22系・52系全盛の時代。床下の二機のディーゼルエンジンが唸りを上げ、二重窓だから白く曇ることもなく、冷たい冷気の中を一路終着の北見相生駅に向かいます。そこからは路線バスに乗り換えていかにも北海道な景色の北海道道122号をドライブします。緩やかな起伏の丘が続く草原には放牧された黒い牛や茶色の牛、もう日本離れした光景です。フランスかスイスの田舎でもドライブしている気分。バスはクッシーで有名になった一大観光地、屈斜路湖に到着しました。
 お決まりの観光の後はバスで釧網線の川湯あたりの駅を目指します。まだ地図上には標津線や中標津の駅も健在でした。網走迄木立の間を抜けると初めて目にするオホーツクの海・・・・。


 今、夜の高速道のサービスエリアや新宿の高層ビルの足もとには無数の夜行バスが行き交っています。その鉄道より安価な運賃も魅力なら、二階建て3列USB付き大型シートなど、ビジネスクラス並みの装備も嫌いではありません。しかしなんといってもATS、ATCはじめ数々の安全保安装置に守られた鉄道旅の安心感。下手くそな運転手みたいに微蛇行を繰り返したり、路面の突起に脅かされることもありません。定時性の高さも鉄道ならでは。
 座席が向かい合わせの固定だった12系客車、特急並のリクライニング付き14系、485系電車、起き上がると天井にぶつかる初代電車寝台の三段B寝台上段、そして大きな窓から夜の瀬戸内海にライトアップされた赤い橋が浮かび上がる光景を眺めたあさかぜ、富士、みずほ・・・・高校生の頃デビューした14系・24系寝台車を、学校帰りの横浜駅で羨望の眼差しで見つめたものでした。ゆうづる、はくつる、北星、あけぼの、北陸と云ったブルートレインが数多く発着した上野駅,十和田、八甲田、能登といった夜行急行もお得で実用的な存在でした。が、結局そのままブルートレインの最終型となってしまい・・・・・・そして二度と経験できない貴重なものとなりました。
 北斗星の上段寝台はベッド脇の広い荷物置き場が思いのほか重宝したのも懐かしい思い出、青函トンネルを抜けて明け方の津軽海峡を眺めることは出来なくなりますが、函館までは新幹線で4時間台に。東京で朝食をとり、雪の舞う中 昼食を函館の市場で食べる夢ももうすぐ叶いそうではありますが・・・・時間を浪費して旅することは今や贅沢な選択。特急料金ばかりを浪費するだけの旅しか選べなくなるというのは本当にリッチな世の中と呼べるのか?考える暇もなく終点駅です

 観光路線として、今も立派に「稼いでいる」釧網線はJR北海道が「単独では維持することが困難」としている区間のうち、観光での利用がおよそ5割から6割にのぼり、多くの観光客が沿線以外の道内各地を周遊していると考えられるとして経済波及効果は富良野線、花咲線と合わせて年間でおよそ330億円にのぼると推計されています。
 まだまだ色褪せない鉄道旅の魅力、夜行列車はもう道内を走っていませんが、これからもローカル線区の運営は頑張って欲しいものです。



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