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【音楽文移植】ハナレフジがくれた極上の音楽

金木犀の匂いがする。ピークは過ぎてしまったけれど、ほのかに香るあの優しい香りが好きだ。
そしてフジファブリックのなかでは『赤黄色の金木犀』が1番好きだ。

この日のことを何年経っても思い出してしまうな。下記は2018年に山梨県の山中湖で開催されたSWEET LOVE SHOWERについての音楽文。

ラブシャが1番好きなフェスかもしれない。今年も中止になってしまったけれど、いつか子供を連れて行きたい。


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なんて満ち足りた時間なんだろう。
ハナレフジがステージに現れてハナレグミの永積さんが『ハンキーパンキー』を歌ったとき、春の陽だまりで眠ってしまうような幸福を感じた。
少し前まで降っていた雨も止んで、雲の隙間から青空が見えた。

時おり、涼しい風が吹いて、霧がかってた山々が顔を出す。大自然の中に永積さんの優しい歌声が響き渡る。なんて、心地いいんだろう。
その声と柔らかい歌詞に心を委ねると、「平和」に気付かされる。穏やかなこの空間が、穏やかな気持ちがどれほど尊いものか思い知らされた。慌ただしい日々でついた汚れや疲労を洗い流してくれるようだった。

〈楽しいと 素直に言えるだけでいいんだよ〉
という『ハンキーパンキー』の歌詞が体に染みていく。

フジファブリックの演奏では身体からなにか抜けるような柔らかい、緩いリズムに否が応でも身体が揺れた。そんな2組が放つメドレーは格別だった。『今夜はブギー・バック』の演奏から『ダンス2000』へ繋がったところはめちゃくちゃシビれて一人叫んでしまった。

さっきまでの緩いリズムは妖艶でカッコ良いリズムになった。ついついリズムを刻んでしまう足が止まらない。
ハナレグミがつくりあげた暖色系の柔らかい雰囲気。フジファブリックが奏でる紫や青のクールさ。一曲ごとに会場の雰囲気がコロコロと変化していく。カラフルでダンサブルで、ピースフルなこのステージをずっと見ていたかった。
誰もがサヨナラを惜しむ中、最後に演奏されたのは若者のすべてだった。

9月2日、真夏のような暑さは去った。
時刻は夕方5時を過ぎた頃。なんて粋なタイムテーブルなんだろう。ドラマのようなシチュエーションだった。
この季節、この時刻にフジファブリックの地元、山梨で行われた野外フェスで『若者のすべて』が聴ける日が来るなんて想像もしなかった。高校生の頃、チャリを漕ぎながらフジファブリックを聴いていた。鬱屈とした何も無いあの頃の自分に、魔法なような時間を過ごす日が来ることを教えたい。
志村さんが大切につくった曲は、今でも大切に歌われ続けている。苦しくなるほど甘酸っぱい曲だから楽しく聴ける曲とは言えないけれど、大切な曲だ。鬱屈した青春を綺麗にしてくれた大切な曲だ。
人は忘れられたときに死ぬ、という言葉に倣うなら、志村さんは永遠に生き続けるんだろう。たくさんの手拍子が、たくさんの手が揺れている、この空間でそんなことを思った。
この曲を聴いて思い出すのはなんだろう。このステージを観ながら感じた風だろうか。みんなが手を揺らしてる景色だろうか。雨が止んで晴れ渡った空だろうか。チャリを漕いでいた日々も、夏祭りに行ったあの夜も全部大事な思い出だけれど、やっぱりこの日のことを何年経っても思い出してしまうんだろうな。


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