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本名よりあだ名がいい件【不思議な話】

私は保育園に通っていた幼児の頃から自分の下の名前を他人に呼ばれるのが大嫌いだった。下の名前とは、『山田花子』の花子の部分だ。

保育園というと、保育士の先生方は皆さん子供達を呼ぶときは下の名前で呼ぶ。『花子ちゃん』とか『太郎くん』とかいうふうに。

しかし私はこれが不愉快だった。三〜四歳の頃の記憶では、保育士の先生方に「寅子ちゃん」と呼ばれるたびに不快でたまらなかった。

(なんで他人から下の名前をこんなふうに呼ばれなきゃならないんだ…?)

ずっとそう思っていた。

非常識だと感じていた。幼児だった頃の自分がいつの時点で『非常識』という言葉を覚えたのかは定かではないが、確実に保育園に通っていた5歳までの間に、「血縁者以外の他人が人の下の名前を気安く呼んではいけないはずだ、それを守らないやつはヒジョーシキだ!」と思っていた。

とはいえ、一応幼児の私にも理性はあった。相手が非常識とはいえ、保育士さんのことは年長者だから敬わねばならない。先生から「寅子ちゃん」と呼ばれるたびに理性を働かせ虚無の表情で返事をしていた。

しかし同年代の幼児との付き合いでは不快感を隠せなかった。とはいえ、私は多少大人びたところのある子供でもあった。『まだ幼い子供達のやることにいちいち目くじら立てるのは良くない。彼らはまだジョーシキを知らない子供なのだ。ここはひとつ私が大人になって……』と思って、ひたすら笑顔で耐えた。

本当は下の名前だけではなく、上の名前… 苗字を他人から気安く呼ばれるのもあまり好きではなかったが、まあそれには我慢できた。小学生になると先生から「寅田!(苗字)」と呼ばれるようになったが、まぁいい。相手はやはり年長者の先生だ。下の名前を呼ばれるよりはまだ苗字を呼び捨てにされる方がよほど我慢が出来るというものだ。

小学生活も高学年になった頃、初めて良い友達ができた。彼女は私に初めてあだ名をつけてくれた。

私は「みいこ●」というあだ名をいただいた。友達のあだ名は「え▲ちゃん」だった。私たちは「みいこ●」「え▲ちゃん」として毎日呼び合った。

これが大変嬉しかった。なんせ今までずっと耐えてきた実名を他人から気安く呼ばれる苦しみからやっと解放されたのだ。こんなに快適なことはなかった。

こうしてみいこ●となった私は、クラスメイトからも「みいこ●」や「みいちゃん」と呼ばれ、その後しばらくは快適な小学生生活を送った。

しかし、やがて中学生になるとえ▲ちゃんとも別のクラスになり、お互い他の友達とつるむようになった。

ただ、ありがたいことに中学でできた友人達はみな、私のことを「寅田さん」と、丁寧に苗字にさん付けで私を呼んでくれた。これもまた大変ありがたかった!

下の名前より苗字を呼ばれる方が何倍も楽な私ではあったが、呼び捨てにされるのはあまり気分の良いものではない。きちんと『さん』をつけてくれるのはありがたいことだ。

やがて私は成人して漫画を描くようになりペンネームを使いはじめた。これもまた便利であった。なにせ他人から実名を呼ばれるストレスから一気に解放されたのだ!

以降、漫画を通して知り合った人々からは今でもペンネームで呼んでもらえている。(もう今は漫画描いてないのにな!)

そしていま、不思議系文章を書くようになった私は現在では『三寅さん』となり、ハンドルネームに自ら『さん』を付けることで、『偽名➕さん付け』という二重の保護機能によって守られた鉄壁の防御体制でここにいる。

ちなみに、私がジョーシキだと思っていたことが世間の常識ではないと気づいたのは中学生くらいの頃だったように思う。

「うーん…、どうやら世間一般では下の名前を他人が呼ぶことに問題を感じないらしいな…、みんなお互いの下の名前を呼び合いながら楽しくやってるみたいだ…、うーん?」

高校生になった頃、昔の日本には実名を気安く呼んではいけないという風習があったことを知ったときは、「ほら!やっぱりこれがジョーシキじゃないか!!」と思った。やっと長年実名を呼ばれる苦しみに一人耐え続けたことに、答えが見つかった思いがした。

私の前世は何度も何度も日本人として輪廻転生を繰り返していると占い師さんから言われたことがある。私自身もそんな記憶がある。

ただあとで知ったことだが、この実名を気安く呼んではいけないというのは主に身分の高い人の実名のことらしい。では私の前世は身分が高かったことがあったのだろうか?

うーん…?

自分が身分の高い家に生まれて苦労した夢を見たことは何度もあるが、今の私はわりと貧しい家に生まれたので、なんだか自分のこととは思い切れない部分がある。

それに前世で身分が高かったなんて、どうでもいい与太話だ。なんの証拠もないことだしな。

ちなみに私は、自分の実名を呼ばれることには怒ることがあるが、みんなから「花子ちゃん」などと下の名前で呼ばれてる人のことは遠慮なく花子ちゃんとよぶこともある。人の苗字を呼び捨てにすることもある。

我ながら、自分だけは実名を呼ばれたくないと思っているようで、「おいおい、何様なんだ私は……」と、ちょっと思う。

こういうのは良くないので気をつけねばならないと思うのだが、自分基準で下の名前を呼ばないスタイルで人と関わると、みんなから「花子ちゃん」と呼ばれている人に対して、「山田さん」と頑なに苗字にさん付けで呼び続けねばならず、それも堅苦しいなと思う。

さて、私はいつまでこの昔の風習を引きずって生きるのかわからないが、まぁ一生治らんだろうと諦めている。

そういえば、私は長年夢に出てきた戦国時代の織田軍の話をダラダラここで書いているのだが、記事の中で私はいつも信長公のことを『信長公』と書いている。これはわかりやすいようにそう書いているのだ。

普段の私は彼のことを『三郎さん』と呼んでいる。身分の高い人の実名を呼ぶのは失礼なので……

(とか言って、私いつも他の武将のこととかは完全に呼び捨てにしてるけど、これは大丈夫なんか?)

(たぶん大丈夫じゃないのでは…?)

こないだ行った有馬温泉のカフェでのランチ。野菜メインすぎた……

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