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ハトに鳩サブレー

 神奈川県の生まれのせいか、崎陽軒のシウマイが好きだし、鳩サブレーにもなじみがある。

 それぞれ横浜と鎌倉のもの、という意識があって、子どものときだけではなく、崎陽軒のシウマイは新幹線の駅にも売っているし、わりと途切れなく食べてきて、おいしいと思ってきた。

 だけど、鳩サブレーは他にも様々なお菓子が世の中に登場してきて、それぞれに気持ちを奪われてきて、いつの間にか鳩サブレーを食べる機会が減っていたし、誰かに買ったりすることもなくなっていた。ショッピングセンターや駅ビルなどに鳩サブレーの店が入っているのを、あまり見なかったせいもある。

 そのうち鳩サブレーは昔のサブレーに過ぎなくて、昔はおいしいと思っていたけれど、そのうちに古い記憶のまま、なんとなくパサパサした印象だけが残っていた。

 食べなくなっていたのだから、その思い自体が勝手なものだった。


鳩サブレー

 それは20世紀の記憶で、それから年月が経って、気がついたら何十年か過ぎていて、21世紀になった頃、何かの機会に鳩サブレーを食べた。

 おいしかった。

 昔、おいしいと思っていた飲食物が、とても年月が経ってから食べたりすると、その記憶が強すぎるせいか、そこに届かないで秘かにがっかりすることもあったのだけど、鳩サブレーは違っていた。

 個人的には記憶の中のおいしさを上回っていた。

 それは、コンビニやファストフードなどのCMで、今年もおいしくなりました、といった言葉をよく聞くけれど、もしかしたら、鳩サブレーはそのことを本当に実現してきたのだと思っていた。

 それでも崎陽軒と違って鳩サブレーのショップをあまり見かけないから、おいしいと思っても、他のお菓子を買ったりすることが多くて、鳩サブレーを買うこともなく、また微妙に時間が過ぎた。

 それが最近、ありがたいことに、人に鳩サブレーをもらったことがあって、自宅で妻と分けて食べたら、おいしかったけれど、妻の方が、すごく喜んでくれた。

贈り物

 人に贈り物を送る時は、かなり考える。そういうときになると、その人のことをどこまでわかっているか怪しくなる。お菓子などを送るときは、味の好みや、どんなものが好きなのか。そんなことを考えると、さらにわからなくなる。

 あちこち回って、妻に「かわいい缶のお菓子があった」と言われて、もうそれに決めようと思ってほっとした。その店に行って、その缶を見たら、完全に見たことがあったものだった。

 あまりにもありありと記憶にあったのだけど、おそらく自分のために買ったわけでもなく、誰かに贈ったはずだった。

 それも、もしかしたら、今、贈り物を送ろうとしている相手に買った可能性もあった。久しぶりに送るのだけど、誰かのために購入したものが何かをマメに記録しておく癖がないから、うーっという気持ちになった。

 それで悩んで困って、やめることにした。

 妻にも迷惑をかけてしまったけれど、また探そうと思った。

 そのときに、同じフロアにある鳩サブレーが急に候補にあがった。それは、ついさっき食べた鳩サブレーが、やっぱりおいしかったからだった。

ハトに鳩サブレー

 珍しく観光地のような場所にバスで行き、またバスで帰ってきた。

 その前に駅ビルのスイーツが集まっている場所に行って、何か小腹を満たすものを選んだとき、妻が鳩サブレーを選んだのは、最近、食べて美味しかった印象があったせいだと思う。それもショーウインドウには箱が並んでいて、無理だと思って2個でも平気ですか?と聞いたら、笑顔で大丈夫と袋に入れてくれた。

 その鳩サブレーは観光地のようなところまで持っていったのだけど、途中で食べる機会がなく、結局は、また同じ駅ビルに戻ってきた。それは、私は気がつかなかったのだけど、妻が、広い場所で座るところがあった、と覚えていて、そこでならゆっくり食べられると思ったらしい。

 屋上のような広いスペースで、人が微妙な距離感でその一番奥の方にややかたまっているようにいると思ったら、喫煙所だった。空は広く見えるし、向こうに山があって、観音様も見える、気持ちがいいところだった。

 それでも、二人ともタバコを吸わないせいもあって、奥の方にある喫煙所からはなるべく距離を取れるベンチのようなところに座り、山が見える方を向いて鳩サブレーを食べ始めた。

 おいしかった。

 サクサク具合がちょうどよくて、これ以上固くなると食べにくくなるけれど、おいしく感じる食感で、味も程よい甘さがあり、そうなると鳩の形は、ある意味ではたい焼きと一緒で、魅力を増す要素になっていた。

 家から小さい保温ボトルに入れて持ってきたコーヒーを飲みながら、鳩サブレーを食べるのは気持ちが良かった。

 半分くらい食べた頃、足元にハトがやってきた。

 どうやら何かを食べているのがわかって、そのこぼれたものとか、もしかしたら何か貰えると思ってやってきたのかもしれない。

 確かにサブレーはどれだけ気をつけていても、必ず小さく粉が出る。

 それは服などについていたから、はたいて、コンクリートの床に落とす。そうするとハトが近づいてきて、ついばむ。それを繰り返しているうちに、時々、鳩サブレーをとても小さく割って、それを投げたりすると、そこにも首を振って、素早くアプローチする。

 そうしたら、もう1羽やってきた。

 最初のハトよりも明らかに体が大きく、太っているといってもいいような体型で、だけど、思ったよりも動きが鈍く、その2羽目のハトの近くにサブレーのかけらを投げても、1羽目に先に体を入れられて食べ損なうことも少なくなかった。

 そのうちに、3羽目が来た。

 一番スリムで、だけど、動きに積極性が薄く、あちこちにサブレーのかけらがまだあるはずなのに、あまり食べられていないようだったから、3羽目のそばにもサブレーの小さな破片を投げた。

 あとは、自分たちのすぐ足下に、小さなかけらがまだあるはずだけど、1羽目のハトもそこまで近づくことは、ちょっと遠慮というか、怖さもあったようで、目があっても、それ以上踏み込んではこなかった。

 食べ終わって、立ち上がり、まだ服についているカケラをはらっても、他の場所と違って、ハトが食べてくれると思うと、気が楽だった。

 ハトと鳩サブレーを一緒に食べた。

 天気も良かったし、なんだか楽しいというか、うれしかった。

 何より、鳩サブレーがおいしいおかげだったと思う。





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