読書感想 『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』 「本当の歴史の重要性」
おふくろの味。
言葉としては、随分と聞いたけれど、いつも、モヤモヤした印象があった。
それが解消されないうちに、おふくろの味、という単語自体を、あまり聞かなくなった。
そういう流れの理由が、この書籍を読んで、やっと明確に見えた気がした。
『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』 湯澤規子
2020年代では、すでに、こうした「火種」になること自体が、特に若い世代では少なくなっているような気もするが、それでも、「おふくろの味」という言葉の印象はまだ残っているので、もしかしたら、「おふくろの味」をなるべく冷静に正確に振り返り、それを読者が受け止めるには、ベストのタイミングだったのかもしれない。
例えば、「おふくろ」をめぐる三つの謎が提示されているが、どれも、確かに「知りたい」ことだった。
そして、「おふくろの味」が現れる。
その「歴史」をたどれば、最初にイメージとして登場したのは、その後を読み進めると、とても象徴的なことだと思えるようになのだけど、さらに、二つの謎についても、言及している。
そして、こうした「歴史」の再検討をしたときに、明らかになることが多いのだけど、「伝統」と思われていたことが、意外と新しいのが分かる時があって、それは「おふくろの味」についても例外ではなかった。
もちろん、高度経済成長期は、すでに、50年も前になるのだから、若い世代にとっては、自分が生まれる前のことで、十分に古いことだと感じるはずだが、以前は、何十万年も、お母さんがご飯を作ってきた、というCMがあるくらいだから、そのイメージと比べると「新しい出来事」といっていい。
それに、「おふくろの味」という幻想は、こうした呪縛を強化してきたと思えるから、歴史を検討し直すことは、その呪縛を解くためのきっかけにはなるかもしれない。
「肉じゃが」の意味
以前よりも減ってきたとはいえ、今でも、「肉じゃがは、若い男性にアピールできる」というノウハウは、たまに目にすることがある。それは、「肉じゃが≒おふくろの味」という「常識」が意外と根強い証拠でもあると思える。
その「肉じゃが」が急速に意味を持ち始めたのは、さらに、その20年後のことになる。
そして、こうした「事実」も、少し経つと忘れられ、気がつくと、もっと歴史があることのように、社会に「判断」されてしまう。
「おふくろの味」という幻想
この書籍によると、高度経済成長期以降に、大量に上京し、故郷を離れた人々が、自分の馴染んできた味が、その地域独特のものであることを知るようになり、それを求めた時に、たどり着くのが、「おふくろの味」を謳い文句にしている「地名食堂」といわれる、「故郷」の地名を冠した飲食店だったのではないか。
そうした説得力のある推察もされていて、そういう社会的な動きも「おふくろの味」の幻想を定着させたことに貢献しているのではないかと思えるが、やはり、マスメディアによるイメージの拡散も大きかったようだ。
そこへ、テレビドラマの演出などによって、さらに「おふくろの味」のイメージは、社会に定着していくのだが、21世紀になると、その名称が使われる機会が急速に少なくなっていく。
そして、「おふくろの味」のイメージは、消えつつある。
この書籍には、この40年の間の増幅や、定着や、錯綜も、さらに具体的に書かれているので、「おふくろの味」が幻想だったことが、実感として感じられると思うので、ここまでのあらすじのような紹介で興味を持ってもらえたら、ぜひ、手に取って、全部を読んでもらいたいと思っています。
おすすめしたい人
「おふくろの味」というものに、モヤモヤしたものを感じていた人。
どうして家族の中で、私だけが食事を作ることを当たり前のように要求されるのだろうか、といった疑問を持っている女性。
食文化に興味がある人。
「歴史」に興味がある人。
「伝統」というものを、改めて考えたい人。
そうした方々に、特におすすめできると思います。
(こちら↓は、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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